カクヨムで中堅作家やってたら学校一の美少女にバレて、なんか付き合うことになった件 〜最高級お嬢様()と放課後喫茶店でダラダラ仲良くする日々って良くないですか?〜

ジュテーム小村

第1話 あれが私にとってのファーストガンダムね

「ところで桐島くん。

 ガンダムはお好きかしら?」



 静謐で瀟洒な雰囲気の喫茶店。

 いつもの放課後。いつもの場所で。


 クラス一、いや学校一のアイドル。

 黒雛(くろひな)アスカはいつものように僕に問いかける。



「いいや、黒雛。

 不勉強の極みで恐縮だけど、あまり詳しいとは言えないな」



 いつもの台詞。いつもの調子。

 クラス一、いや学校一の陰キャ野郎。

 不詳僕こと、桐島カズトはいつものように回答する。



「あら意外ね。

 ガンダムや三国志の話を桐島くんのようなタイプに振ると、面倒臭くなるものだとばかり思っていたけれど」


「とんだ偏見だな。

 そもそも面倒臭くなると思っているなら、わざわざ話を振るなよ。

 てゆうか、僕をどういうタイプだと思っているんだ?」



 ふふふ。

 黒雛はその美貌に意地の悪い笑顔を浮かべる。


 ……わかってるよ。

 どうせ陰キャとかオタクだとか、辛辣なことを考えているんだろう。

 傷付けられるのが分かっているから、わざわざみなまで言わせない。



 しかし、まあ。

 からかわれているとわかっていても、黒雛の笑顔の美しさに毎回ドキリとしてしまう。

 

 目鼻の比率が普通じゃない。

 本当に日本人かと疑いたくなるぜ。

 これもう半分北川景子だろ。



 黒雛アスカ。

 僕らの通う高校で一番の美人と名高い、いわば学校のアイドルだ。


 容姿端麗、才色兼備、品行方正、文武両道、エトセトラエトセトラ。

 その上実家が超がつくほどの大金持ち。

 どこを切っても隙がない、完璧にして究極にして至高のお嬢様……と言うことになっている。表向きには。



 少なくとも、本来なら僕のようなクラスの底辺を這いつくばる陰キャ野郎が気軽に口を聞ける存在ではない。



「勘違いしないでね、桐島くん。

 面倒臭いと言う言葉は、必ずしも悪口では無いのよ」


「どういうことだよ」


「そうね……。

 ガンダムで言うならば、ガンダムが好きで好きで仕方がない!語らせろ!

 と言う人はとても面倒臭いわ。

 ここで言う面倒臭いは、褒め言葉よ。


 一方で、今のガンダムはガンダムではない。最近の奴らは”本物”を知らない。昔はよかった。

 と言う人はとても面倒臭いわ。

 ここで言う面倒臭いは、褒め言葉ではないわ」


「わかるようなわからんような」



 でもちょっとだけわかる。

 ラー油かよ。



「よく『あの人はお酒さえなければいい人なのに』という人がいるけれど。

 それのガンダムやエヴァ版がいるものよね。


 親戚のおじさまに、普段はとても温厚な人がいるのだけれど。

 幼い頃の私が「ザクって悪者のガンダムなの?」と聞いたら、「お前は何もわかっていない」と激詰めされて。

 結局泊まりこみで全話視聴させられたわ。

 あれが私にとってのファーストガンダムね」


「それは半分虐待じゃないか?」



 ていうかファーストガンダムって言葉をそういう意味で使うのかよ。

 ファーストキス的な。

 ややこしいわ。



「でも、今では感謝しているのよ。

 ガンダムを見ない事は人生の半分損している。

 と言う人に対しては、私が生まれたのがあなたの人生でなくて良かったと思うけれども。

 それはそれとしてガンダムは名作だもの」


「褒めたいのか煽りたいのかどっちなんだよ」


「SF要素の魅力については既に『ガンダムと言う作品が存在するのが当たり前の時代』に生まれた私たちにとっては実感しづらいところよね。

 でも、キャラクター設計の鮮明さは今をもってなお色あせるものではないわ。

 個人的意見として、『このキャラはこの状況ではこういう言動をしそう』とはっきり分かる作品は名作だと思うのよ」


「なるほど。

 アムロとかシャアとか、僕でもわかる名キャラクターがたくさんいるもんな」


「シャアが女性を抱いているところは想像がつかないけれど、シャアがアムロに掘られながらわけのわからないことを言っているのは容易に想像がつくものね」


「ごめん、さっぱりわからん」



 色々な人を敵に回しそうだな。



「ガンダムね。

 いや、興味がないわけじゃないんだ。

 多分見れば確実に面白いんだろうと思う。


 ……でもなぁ。

 ちょっと膨大すぎて手を出せないっていうか。

 それこそ初代から見始めたらどんだけ時間がかかるか分からないし。

 設定やら考察やらもありすぎて手に負えないっていうかさ」


「そうね……。

 誰か詳しい人と一緒に、解説してもらいながら見ればとっつきやすいかもしれないけれど」


「……ちなみに、黒雛が解説してくれたりは」


「いやよ面倒臭い。

 もちろんこれは褒め言葉じゃないわよ」


「さいですか」



 本当に嫌そうに顔をしかめてやがる。

 こんな表情でも、美人がやると様になるのがズルいよな。



「お前は本当に冷たいよな。

 これでも僕は、“一応“お前の彼氏なんだろう?」


「そうね、“一応“彼氏ね。

 でもそれは、あくまで契約上の事よ。

 桐島くん自身の事は、ちっともタイプじゃないんだから」



 にべもなく、拒絶の意図を言い渡される。


 やれやれ、お前の方から言い出してきた契約だろうが。

 とは言えこれもいつものこと。

 気にするのも今更だな。



 クラス一、いや学校一のアイドルである黒雛アスカ。

 クラス一、いや学校一の陰キャである不詳僕こと桐島カズト。



 本来であれば関わるはずのない2人が、こうして毎日喫茶店で放課後を過ごすようになったのはつい最近のことだ。


 そう、全てはあの日。

 僕らの“偽装恋愛関係契約“が締結されたあの放課後。


 僕と黒雛の生活は、あれから一変したんだ。



「そういえば黒雛。

 僕のことが全然タイプじゃないって言ったけど、ちなみにどんなタイプが好みなんだ?」


「そうね……。

 私は戦闘の際は無類の強さを発揮しながらも、その強すぎる共感性のせいで日常生活では深く苦悩するタイプが好みね」


 誰が好きなニュータイプの話をしろと言った。

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