第23話 資料館で調べ物
勇者ハヤセ・ナオト資料館は、かなり大きな建物だった。全3階建て、1フロアもかなりの広さがある。
1階フロアには、勇者に関する様々なアイテムが展示されていた。そこに展示されている物は、勇者が使用していたという記録のある武器、剣やナイフ、鎧などの装備に加えて、旅の最中に使ったとされる外套や食べた料理の再現、勇者が読んでいたというような書物まで様々だった。
「へぇー」
「これは、便利そうだ」
オレとパトリシアは一緒に展示品の数々を見て回りつつ、1階フロアを一周した。オレは、帰還に関する手がかりが無いかを見ていた。パトリシアも興味津々で、展示されているアイテムを見ていた。時々、参考になると学んだりしながら展示品の観賞を楽しんでいた。
2階に上がると、そこには勇者の事について書かれている書物が保管されていた。大陸中から集められてたという、膨大な量の本や資料が展示されている。誰でも読むのは自由だが、貸出はしていないという。20架以上の本棚があるので、これを全て調べていくのは困難な作業になりそうであった。
時間がかかりそうなので、ここは一旦、後回しにして上の階へ。
「此処から先は、関係者以外立ち入り禁止です。お引取りください」
「あ、すみません」
と思ったら、3階に進もうとしたら立ち入りを禁止された。ここから先は、一般に見ることが出来ない非常に大事な物が保管されているので、見せられないという。
かなり気になるが、禁止されているので素直に引き返す。
1日目は、建物内を見て回るだけで夕方過ぎになってしまった。本を調べる作業は出来そうになかったので、パトリシアと一緒に酒場で夕食を取り、宿へと帰った。
次の日、オレは一人で勇者ハヤセ・ナオト資料館に調べ物をしに来ていた。仲間のパトリシアは、冒険者ギルドで任務を請け負って、旅のお金を稼いでおくから任せてとオレに言って単独行動していた。パトリシアからの厚意を受け取り、オレは勇者について調査を進める。
まずは2階にある本棚の中から、気になるタイトルを見つけ出してきて確認する。「勇者の帰還」「勇者の最期」「さらば勇者ハヤセナオト」等など、帰還や終わりに関する資料をメインに調べてみる。
しかし中々、元の世界へ帰る手がかりになりそうな情報は発見できない。
今回の調査で分かった事と言えば、勇者ハヤセ・ナオトは王都から、何らかの方法で自分の国へと帰っていったという事。
物語の最後が、王都で終わっている事。記録によれば、仲間たちに別れを告げて、光りに包まれた勇者ハヤセ・ナオトは無事に自分の国へ帰った、記されていること。
ハヤセ・ナオトにとって自分の国とは、日本の事。かどうか分からないが、名前の語感から日本人だろうとオレは確信している。
この最後の部分に記されている事象を調べていけば、おのずと日本への帰還方法が分かるんじゃないかと、考えていた。
次に調べたのは、勇者の始まりについて。
マーリアンの街の成り立ちから、勇者が現れるまでの歴史、魔王軍に襲われている最中に勇者が現れてから、それ以後のマーリアンの街はどうなったのかについて。
いろいろな資料を読んでみたが、勇者が街に現れる以前のことは何も記録が残っていない。なぜ、勇者はこのマーリアンと呼ばれる場所に突然、現れたのだろうか。
2日目の調査は、ここまでで終了した。残念ながら、核心に迫るような情報は何も入手できなかった。
3日目に入ると、今度は魔王のことについて調べてみた。
魔王とは、魔物たちの王のことで、この魔王は魔物を指示して人間たちを脅かしていたようだ。
この魔王という存在も、勇者と同じように突然この世界に現れた存在らしい。
勇者が現れる5年前から世界各地で魔物が凶暴化するようになり、そのとき初めて魔王の存在が確認されたらしい。
魔王が世界に現れて以後、大陸の半数以上の土地が魔王によって占領されていた。各地に生息していた魔物は、さらに凶暴化。人間たちは、軍を作って戦い対抗したが、ほとんどの戦いで敗戦したという。それで更に、土地が奪われていったようだ。
そして、5年後現れた勇者によって魔王は打ち倒された。
魔王はどんな姿だったのか、容姿に関する資料を見てみると、鬼のように二本の角を頭から生やして、人間の何倍も体のサイズが大きかったらしい。
実物を想像してみると、かなり威圧感がありそうな姿をしていたようだと分かる。
4日目、5日目になると、あまり関係なさそうな資料にも目を通して調査を進めていく。
少し興味深い文献を発見した。この世界に男性が少ない原因は、魔王の呪いによるものだと考えられているらしい。
勇者ハヤセ・ナオトが魔王にとどめを刺す瞬間、魔王は世界に1つの呪いを残して逝ったそうだ。
魔王の呪いと言い伝えられている、男性の出生率低下の呪いらしい。世界に魔王が現れる以前は、人口の男女比率は同じぐらいだったと記録されている。だが、魔王が世界から消滅以後、男性の人口が急激に低下。10人に1人の割合ぐらいで、男性が生まれなくなった。
魔王の目的は、人類の自然消滅であるとか、第二第三の勇者を生まれさせないために、男性を生まれにくくさせる呪いをかけたと考えられているらしい。
事実、旅をして各地の街を見まわってきたが、男性が異常に少ないことが実感して分かった。魔王の呪いが、今も残っているということなのか。
それから他にも、勇者もレベルアップが異常に早かったという記録が残っている。勇者は、様々な職業を習得しており自由に付け替えることが出来たと書かれていて、まるで今の自分と同じような事が出来たらしい。
その記述を目にした時、やはり勇者ハヤセ・ナオトは、オレに近い存在なのだなと感じた。
調べ物を終えて、資料館を出る。いつものように、街の外に行っていたパトリシアと合流してから、夕食を一緒にして、宿へと帰る。
5日間の調べ物が終わり、明日以降はどうしようかという話になった。
「調べ物は進んでいるのか、ユウ?」
パトリシアが俺を気遣い、聞いてくる。
「うん。色々と調べて分かったこともあるけど、肝心のオレが知りたかった事はまだ見つかっていないんだよね」
オレは思案する。宿屋は5日間だけ借りていたけれど、明日以降どうしようかな。もうマーリアンの街での調べ物は切り上げて、出発して王都へと向かうべきか。
まだ、街に残って調べ物を続けるか。その場合には、宿の延泊が必要になるなぁ。ただ、これ以上は調べ続けて何か分かるだろうか。そもそも、この街にオレの求める情報があるのかどうかも分からないし。
どうしようかオレが考え、パトリシアが答えを待っている最中だった。コンコンと、突然扉のノックする音が部屋に響いた。
夕食も終えて、外も暗くなっているような時間。一体、こんな夜遅くに誰だろう。宿の従業員に用事を申し付けた覚えはない。気配を読んでみると、扉の向こうに2人立っていることが分かった。
口を閉じたままパトリシアと目を合わせるが、パトリシアは首を横に振る。彼女も思い当たる人物は居ないのか。
念のためにオレは、腰から剣を抜き出して何時でも対応できるようにしておいた。パトリシアもオレと同じように、音を立てずに静かに剣を抜き放った。パトリシアとオレが、準備は良いと頷き合う。
「どちら様ですか?」
そうして構えてから、オレは扉の向こう側に立っている人物に向けて声を掛けた。
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