第15話 依頼

 30万ゴールドもの大金を手にしたオレはようやく、この町に来た目的でもあった冒険者身分証明証を発行してもらいに、再び冒険者ギルドを訪れた。




「すみません」


 ギルドがある建物内に入ると、相変わらず暇そうにしている男性受付員が居るのを見つけたので、呼びかける。


「あぁ、この前の。依頼のためのお金は用意出来ましたか?」


 受付の男性。どうやら、オレのことを覚えていてくれたようだった。スムーズに、ギルドに訪れた目的が伝わった。お金は十分用意出来ているので、そのように言う。


「えぇ、仕事で30万ゴールドほど貯めたので、お金はバッチリですよ」

「そうですか。それじゃあ、冒険者身分証明証を発行するのに必要となるランクAの冒険者からの推薦状を書いてもらう、という依頼を出しますね。本当に、これで依頼を出して良いんですよね?」


「え? あ、はい、お願いします」


 繰り返し、何度も確認される。本当に、冒険者身分証明書を発行する気なのかと。マリーから聞いた話では、男性の冒険者なんて珍しいから本気なのかどうか疑われている、ということなのかな。もちろん、オレは本気なので依頼をお願いする。


「依頼の報酬金はどうしますか? おそらく、25万ゴールドで依頼を受けてくれる冒険者は居ると思うんで、大丈夫だと思いますが」

「それで、お願いします」


 受付の男性から聞いた話によると、推薦状を書いてもらうのに丸一日かけて冒険者として必要な能力があるかどうかを、ランクAの冒険者から見て測ってもらう。


 ランクAの冒険者が1日働いて稼ぎだす金額の平均が、25万ゴールドぐらいだという。だから、1日の時間を割いてもらう料金として最低25万ゴールドが相場かなという計算。冒険者という仕事は、なかなか稼げるらしい。その代わりに、命の危険があるということか。


「30万ゴールドだと、すぐに依頼を受けてもらえると思いますが、30万で依頼を出しますか?」


 受付の男性が言う、30万ゴールドは大金だった。この町で生活しているうちに、金銭感覚を身につけたオレにとって、30万ゴールドの価値を正しく理解していた。おおよそ、3ヶ月ぐらいは楽に暮らしていける金額だ。オレは、そのお金を出そうかどうか迷ったが、冒険者身分証明証を早く発行してもらって冒険者として働いた方が稼げそうだと思ったから、お願いすることに。


 早くギルドに登録をして、依頼を受けて働いたほうがいいだろうなと考えたので、30万ゴールドで推薦状を書いてもらう、という依頼を出すことに決めた。


「報酬金30万ゴールドの依頼、お願いします」

「はい、冒険者ランクAの方に依頼を出しておきますね。多分、今から依頼を出してみるので、明後日までには、お話ができるようにセッティングしておきます。依頼を受けてくれるランクAの方がいたら、貴方の実力ならすぐに推薦状を書いてもらえるでしょう」


 推薦状をもらうに、モンスター狩りを実践して見せてから実力を見てもらわないといけない。それから冒険者としてやっていけるのか見極めてもらって、推薦状を書いてもらうという流れ。男性であるオレは、そうしてようやく冒険者となれるらしい。


 冒険者身分証明証を発行してもらうまでには、まだ少し時間がかかるようだった。



***



 ギルドに依頼を出してから2日が過ぎて、今日は朝からギルドへと向かっていた。依頼を受けてくれるランクAの冒険者が見つかったという報告を聞き、これから会う約束を取り付けていた。


 朝の時間、ギルドの建物内には何人か冒険者らしき格好をしている人たちがいた。その場に居た全員女性で、ギルドの建物内に入ったら一斉にオレの方に視線を向けてくる。彼女たちの中に、オレが出した依頼を受けてくれたという、冒険者ランクAの人物が居るのだろうか。



 オレは受付に向かって歩く。いつもの様に男性受付に話しかけようとしたけれど、どうやら別の人を対応中だったようなので、近くにあった椅子に腰掛けた。


 しばらく、待つ。


「あなたが、依頼を出したユウ?」


 椅子に座って静かに待っていると、全身黒の顔まで隠した格好をした女性がオレに声をかけてきた。鋭い目を向けてオレを観察してくる。ギルドの建物内に入った瞬間から、気配察知のスキルも反応していたようだし、何者だろうか。


「そうですけれど、あなたは?」

「君の依頼を引き受けたクララだ。よろしく頼む」


 そう言いながら、オレの座っている向かい側、空いている席に座った。全身隠して顔も目元だけしか見えないし、見た目では性別不明。しゃべり方も男のようだった。だが話す声は女性だったので、多分女性。


「そうだったんですか、推薦状は書いてもらえますか?」

「推薦状というのは、その人物の能力を見て書かなければいけないと受付から聞いている。まずは、モンスター狩りに行こうか。そこで、実力を見せてもらう」

「分かりました、それじゃあ早速外に行きましょう」


 彼女の言葉に従い、まずは町の近くにある草原へと移動することになった。マリーとも一緒に行ったことのある、モンスターの生息地。そこへ、2人で向かう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る