第14話 評判のお店「アフェット」
オレがアフェットという飲食店で働くようになってから、しばらく時間が経った。その間にお店はどんどん評判になり、来店客数が増えていった。
腕前の優れた料理人であるアレンシアが居る、この店。今までずっと、お客さんがお店に来なかったことが不思議なぐらい、今では賑わっている。
店の立地条件が少々悪かった、というのが今まで繁盛しなかった最大の理由だろうとオレは思う。
どうにか最初に店を訪れるキッカケさえあれば、お客さんに知ってもらって何度もお店に通ってくれる常連客になっていたと思う。
オレが雇われ働くことで、繁盛するキッカケにはなったと自負していた。色々と、習得したスキルを駆使してお客さんを呼び込むことに成功していた。
店に雇われてから3日目以降は、新しい常連客や町で料理の評判を聞いたお客さんたちが、アフェットに訪れてくれるようになった。
今では、わざわざ外へお客さんを呼び込みにいかなくても来てくれるようになり、お店は繁盛していた。
お客さんが店に来るようになってからは、オレとアレンシア、チェーナという3人の仕事量は、かなり増加した。ずっと動きっぱなし。
習得したスキルのお陰なのか、給仕のレベルが限界値に達しているためか、オレは上手く仕事をこなしていた。アレンシアとチェーナさんは、経験したことがない仕事の量にてんてこ舞いになっていた。
オレが手伝いに入って、なんとか限界ギリギリでお店が回るようになった。だが、頼りっきりでは駄目だとアレンシアは思って、彼女の友人を頼ることにしたらしい。
今日からアフェットに、新たな2人の従業員が来て一緒に働くことになった。2人とも、アレンシアの友人だという。
「はじめまして! オデットです」
真っ赤な長髪をしている、背は小さいが元気いっぱいに挨拶してくれる少女。
「……はじめまして、シモーナです。よろしくお願いします」
オデットとは逆に、物静かだが丁寧な挨拶をしてくれる少女。黒髪の短髪に、身長も同じく小さい。どちらもアレンシアの同年代の娘だろうか。
しかし、この街にきてから出会った女性はみんな可愛かったり、美形ばかりだなとオレは思った。
マリーとか、チューナといった大人の女性はもちろん美しい。アレンシアや、今日出会ったオデットにシモーナという娘は可愛かった。
「ほんとに男の人が働いているんだね! 私、びっくりしちゃった」
オレを見て、オデットはそんな事を言う。驚いたと言われて、そんな反応をされたことに戸惑う。
「そんなに、珍しいかな?」
「うん、とっても珍しい」
この辺りでは、働く男性が珍しいと言うのが共通認識らしい。オデットは、そんな風に俺を珍しいと言って、ジロジロと観察するような目で俺を見てくる。
隣で立っているシモーナからも、オデットの影で興味津々な目で俺を観察して来るの視線を肌に感じる。
でも、ギルドの受け付けをしていた男性が居たり、表の通りではオレと同じように客引きしていた男性も数人居たから、そんなに珍しいことでもないような気もするのだが、どうなんだろう。
「はい。挨拶が終わったら、さっさと働く準備に取り掛かって。店を開けるわよ!」
パンパンと手を叩いて鳴らし、アレンシアがみんなの注目を集める。確かに、早く取り掛からないと、店を開ける30分前である。準備をしているうちに、店を開ける時間になってしまう。
アレンシアに指示された通りオレたちは動き、さっさと下ごしらえに取り掛かる。
オデットとシモーナ、新たに加わった2人は機敏で慣れている感じで働いていた。これだけ動けるのなら、今までの忙しさを解消できるだろう。さすが、アレンシアの頼った人物である。
「それじゃあ、いつも通りユウは接客を任せたわ。オデットも、ユウの手伝いで接客を担当してちょうだい。シモーナは、私と一緒に料理を担当。母さんは、会計だからね。じゃあ、今日もよろしくお願いします」
お店を開ける時間になって、アレンシアが担当の指示を出す。オレは、彼女に指示された、接客を担当することに。お店の扉を開けて、開店待ちをしていたお客さんを店内へと案内する。最近の朝では、当たり前の光景となっていた。
朝の時間。店を開けてから15分もすると、テーブルは満席になる。朝食を求めてお店に来る人たちが、店の外にも行列を作り始める。
「うわぉ……。今日は、昨日よりお客さんが多いかも」
行列の長さが、昨日よりも長くなっている。厨房にも現状を報告して、料理の完成を急いでもらう。注文をとって、配膳を間違いないようにして、料理が食べ終わった人たちから、直ぐに席から離れてもらって支払いをお願いする。
朝食を求めてお店に来る人が、少しずつ少なくなってきた頃。次は、昼食を求めて来る人たちがお店の前に行列を作り始める。休憩する時間は、少しの間しか無い。
そんな風に、夕方までの時間ずっと働きっぱなし。そして、仕事が終わるまでは、疲れを忘れるぐらい突っ走るようにして働き続けて、夕方を迎える。
***
「あぁー、疲れた」
オデットが、テーブルに突っ伏して言葉を漏らす。お店は既に閉店して、お客さんが居ない店内。
「お疲れ様、オデット」
「うん。ありがと、シア」
アレンシアが、ねぎらいの言葉を掛けて水の入ったコップを渡す。2人はどうやら友人同士だと聞いていたが、かなり親しい関係のようだった。
そんな2人のやり取りを横目で見ながら、オレは今日の給料についてチェーナと話をしていた。
「今日は、30000ゴールドをお給料として支払いますよ」
「そんな大金、オレが受け取ってもいいんですか?」
ここ数日、働きに応じて給金を値上げしてもらった。最初は、15000ゴールドだったのに、今では2倍の金額になっている。
「もちろん! お仕事に見合った料金ですよ。さあ受け取ってください」
このまま順調に稼げたのなら、目標だった25万ゴールドはすぐに貯まるだろう。そして、冒険者身分証明証を発行してもらえるだろう。
お金を貯めるため、仕事をこなす日々が数日続いた。俺はその間、取得した職業の全てのレベルを上げられるだけ上げていた。今の各職業のレベルはこうなっている。
------------------
冒険初心者 Lv.66
給仕 Lv.100
料理人 Lv.100
小商人 Lv.100
農民 Lv.1
役者 Lv.21
------------------
普段の生活を過ごしているうちに、限界まで達した職業がいくつか。レベルを上げるのに、全く苦労しなかった。
料理人のレベルは、お店の手伝いをしているうちに上がっていた。
小商人のレベルは、お店で買い物をするだけでレベルが上がった。数日間ぐらい、ステータスの職業欄にこまめにセットして買い物を繰り返していると、いつの間にか限界値まで到達していた。
役者のレベルについては、よく分からないうちに21まで上がっていた。これも、日常の生活に関係することだと思うが、よく分かっていない。
評判となったアフェットで働く日々を繰り返し、ようやく目標の25万ゴールドを大きく上回る、30万ゴールドもの大金を手に入れることができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます