レベルアップがバグってる

キョウキョウ

第1話 手に入れたゲームは

「やった、やった、やった!」


 オレは自室で1人、手に入れたゲームソフトを手に持ち小躍りしていた。


 発売前から何かと話題になっていた、超有名なゲームメーカーが制作発表した新作VRゲーム「Make World Online」。ダメ元で、先行体験版のプレイヤー募集に応募してみた。


 応募総数が公式発表で、日本国内と海外も合わせると1521万人も居たらしい。それに対して、1000人のみが手に入れられるという当選枠。おそらく当たらないだろうなと予想していたけど、嬉しいことにその予想は外れた。オレは、非常に狭い当選枠を手に入れることができていた。


 そして手元には、VRゲーム「Make World Online」の先行体験版のデータソフトが握られている。夢じゃない、現実のことだった。


 一生分の奇跡を使い切ってしまったような気がしたが、最高の気分だった。この手に体験版をゲット出来たことが、一番なのだから。


 1000人の当選者発表当日には、大はしゃぎしたのを覚えている。今日は、そのソフトを受け取りプレイするために、会社の有給を使った。一日中、たっぷりプレイ出来るように準備を進めてきた。


 先ほど、やっとハードの準備が終わった。興奮冷めやらぬまま、手に入れたソフトを挿入する。プレイ用の専用ベットに横たわり、ヘッドマウントディスプレイを頭に装着する。真っ暗な視界の中、胸がドキドキバクバクと興奮した状態。


 手元のスイッチを押して、ゲームを始める。


 どういう技術なのかオレは正しく理解していないが、この装置のおかげでゲームの中に入っていくことが出来る。


 身体の感覚が、薄ぼんやりとなっていく。眠りに落ちる感覚の、一歩手前のような状態に近い。そのまま眠ってしまいそうだ。けど、興奮しているので大丈夫かな。


「ようこそ『Make World Online』へ、いらっしゃいました」

「おぉ~」


 初めてのVRゲーム体験、思わず声が出る。目の前に、スーツ姿でメガネを掛けた髪の長い女性が待ち構えていた。キレイな姿勢で立っている。


「まずはじめに『Make World Online』をプレイするため、キャラクターを作成してください」


 案内してくれる女性の言われた通りに、キャラクターを作成していく。出身国や、身長、体重、性別を正確に入力して、身体スキャンを実行する。その後に、スキャンしたデータから、キャラクターの顔や体格を調整して自分だけのキャラクターを作成する。そのアバターを使って、ゲームを楽しむ。基本的には、後から変更は出来ないらしいので慎重に決めないと。


 けれど、調整できるデータには制限があった。スキャンした身体データから離れた顔や体格に設定することはできない、というような仕様になっている。ということでほどほどで、納得できる調整でキャラクター作成を終える。


「一度、決定してゲームを始めると変更することが出来ません。これで、よろしいでしょうか」


 最終確認のため、目の前に作成したキャラクターの顔が表示される。鏡で見る自分の顔とは、別人だった。なんとなく違和感があったが、これで良しとする。


「これでいいです」


 言いながら、空中に浮いていた"YES"、"NO"のボタンでYESの方を押す。決定だ。


「では、『Make World Online』について説明を行います」


 キャラクターが語り始める。ゲームに関する情報だ。


「『Make World Online』では、道具の作成はもちろん、様々なスキルの組み合わせを作ったり、職業や仲間を作っていくことが可能です。さらには、世界の歴史を貴方自身がメイクしていくことができるのです。さぁ、貴方は無限に広がる可能性があるメイキングを楽しんでください」


「操作説明、操作はすべて思考による判定で行われます。ステータス画面の表示は"ステータス・オープン"と唱えてください。表示させたステータスを消すときには、"ステータス・クローズ”と、ステータスボードが目の前に表示されているときに唱えてください。ログアウトをするときは、”ログアウトします”と唱えてください。何か問題があった場合には、”コール運営へ連絡”もしくは、”強制終了する”と頭の中で唱えてくだされば対処します。以上、操作説明でした」


 簡単な操作説明だけして唐突に、パチンと目の前が真っ暗になった。



***



 いきなり場面が転換する。先ほどの場所から移動して、いつの間にかオレはベッドの上に横たわっていた。自分の部屋のベッドではない。


 そのベッドから起き上がり、周りを見回す。木でできた建物の内装、少しお粗末な出来のベッドである。部屋の雰囲気には合っていた。


(めちゃくちゃリアルだなぁ……)


 目にした光景の感想。室内はベッド以外何も見当たらない。ベッドの上から降りて床の上に立ち上がる。体の感覚がすごい。肌から感じるその場の空気感が、現実世界と同じように感じ取れた。


 さっそく、自分のキャラクターについて確認を行う。


「ステータス・オープン!」


 音声入力ではなくて、頭のなかで言葉を思い浮かべればいい思考操作と、先ほどの女性の説明にあったが、なんとなく言葉に出してステータス画面を開く。


 目の前に、ステータスボードが出現した。


------------------


ユウ

Lv.1

STR:10

CON:12

POW:10

DEX:15

APP:17


職業:冒険初心者

EXP:0

SKILL:1


スキル:なし


------------------



「なるほどね」


 確か、初期ステータス値はランダムに決定される。数値の範囲は1~20ぐらい、だったはず。


 お、APP(外見)が高いな。ということは、見た目が良いということか。このAPPが高いと何が有利なのか分からないが、見た目が良いということなので気分は良いな。ロールプレイが捗る。


 現実世界において、中くらいの顔の良さを自負しているオレは、まず目についた、APPの高さに喜んだ。


 こうしてオレのゲームプレイは始まった。まさか、既にもうとんでもない出来事に巻き込まれてしまっているとは、この時のオレは想像もしていなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る