31-5.元通り?






 ★・☆・★








 ルーイス王子を討伐してから、だいたい二週間が経った。


 俺とセリカの生活は、以前と同じようで少し違う。


 まず、この俺。クローム=アルケイディスが、約一年前より美貌が輝いていること。


 そして、自ら不正のエーテル生成液を培養液にして、最初は助手のつもりで生み出した、エルフ型のホムンクルスであるセリカ。


 まさか、婚約するまで惚れ込むとは思ってもいなかった。


 だが、セリカと、セリカに組み込んだ『異世界レシピ』のお陰で、俺はルーイス王子達に画策されていた死のルートから外れることが出来たのだ。


 そして、事件も無事解決を迎えた今は!






【TEST


 TEST


 右の培養管に料理名『オムライス』を作成


 左の培養管に料理名『ミックスピザ(キノコなし)』を作成



 続けますか?


 YES/NO?】






 事件が終わり、きちんとしたエーテル生成液を使い、俺は新しくシャインにエーテル培養液を作った。


 作業にはセリカも加わり、培養液の出来上がりも確認してから入れ替えて。


 シャインから、錬成料理を作成すべく、日々研究を重ねているのだが。



「……クローム。食べた分・・・・は動いてもらうからね?」


「……あ、ああ。勿論だ!」


「だったら、なんでこんなにも炭水化物が多い料理ばっかり作るの!」


「美味いだろう!?」


「美味しいけど、私の作る料理も美味しいでしょ!?」


「たまには、食べさせてくれ!?」


「たまにの、限度が超えてるよ!?」



 そう、美味く・・・なった。


 美味くなり過ぎた。


 初回に、セリカとシャインの再稼動に合わせて、大量に錬成料理を作ったのだが。


 以前の培養液とは全く違い、美味過ぎたのだ!


 それで、その日はセリカと大いに飲み食いしてしまい。結果的に少しばかり体重が戻ってしまったので。


 今では、三日に一度にしているのだが。それでも美味さを覚えてしまった舌が疼いてしまうのだ。


 セリカの作る料理ももちろん美味いのだが、体型維持を考えてくれてる料理が多いので、いくらか物足りない。


 俺はまだまだ二十代盛りの年頃なんだぞ?


 食べ盛りの真っ只中なんだぞ?


 一年をかけて減量して来たのだが、ハメくらい外させても……うんうん、考えを読まれたのでセリカの顔が怖い!?



「じゃ、じゃあ。キノコの副菜かスープを入れてくれ。それでいいだろう?」


「むー。じゃあ、食べやすい温サラダも増やしておくよ」


「わかった」



 とりあえず、出来上がった料理をシャインから取り出して、セリカは二つともワゴンに乗せて地下室から出て行った。



「……しかし」



 俺は、『恵の豊穣フィーク・シャイン』を見上げた。


 たったひとつの欠陥品があっても、よく無事で稼働していたものだ。エーテル生成液の不正に気づかなかければ、俺はおそらくセリカに看取られて死んでしまっていただろう。


 それに気付けたのは、このシャインとセリカのお陰だ。



「これからも、錬成に励んでくれよ?」


【はい、創造主】



 シャインは緑柱玉ベリルのオーブをチカチカと光らせてから、俺に返事をしてくれた。


 今日のところは、稼働する必要がないので休眠モードにさせて俺はセリカを手伝うべく、厨房に向かう。


 俺の嫌いなキノコの香りはするが、セリカが工夫してくれた料理ならなんとか食べられる。


 これを、愛ゆえにと言うべきか。


 まだセリカに恋心を抱いていなかった頃には、純粋に感心していただけだが。



「クロームぅ。手伝って!」


「ああ」



 誓約書に誓いを立てた通り、まだ半年以上はセリカと深くは触れ合えないが。


 キスくらいはいいので、俺は日頃のセリカに感謝の意を示すべく。


 軽く頬にキスしたら、異常に真っ赤にさせてしまったのだ。



「く、クローム!?」


「はは! いいだろう、これくらい?」


「ふ、不意打ちだよぉ……」


「なら、口の方が良かったか?」


「そう言う問題じゃなくて!?」



 けど、口には出来なかった。


 手早く作るのに、少し火を強めていた鍋の中身が吹きこぼれそうになっていたので。


 触れ合うのは、一時的に止められてしまったのである。

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