6-3.エーテル培養液の原因






 ★・☆・★









 何故だ……何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ。



「なーぜーだぁああああああああああああああああああ!!!!!!」



 俺様はウォーキングを終えて、風呂に浸かりながら今日あった出来事を振り返っていた。


 風呂は快適で実に満足ではあるが、俺様の心は絶望であった。


 幼馴染みの一人に、天才錬金術師であるこのクローム=アルケイディスの錬成料理を食べさせたのに、失敗に終わったのが悔しくて仕方がないのだ!!



「セリカの味覚ではなく、完全なる俺様の敗北……だと?」



 セリカが生まれる以前だったら、怒りも怒髪天を突き抜ける勢いだったかもしれないが、彼女には俺様の体型を手助けしてもらってるのでそこまでは思わなかった。


 だが、一番ショックだったのは、錬成した料理を他人に不味いと言われたこと。


 この天才錬金術師が、失敗など……と、これも以前だったら有り得ないと思い込んでただろうが、現実は現実。


 受け入れるしかない。



「うむむむ。……何がいけないのだ?」



 セリカが逆に生み出す錬成食材については、俺様もセリカも問題なく食すことが可能になっている。


 なのに、『料理』については見た目は成功していても味が俺様以外には無味に近い味わいと化してしまっている。


 何故だ。


 半年前くらいから、稼働させた時から俺様は美味いと思ったのに、セリカやチェストは味がしないと言っている。


 何故だ?



「魔導具としての性能……稼働力は申し分ないのに、あと欠陥があるとしたら」



 生成する源となる、エーテル培養液か?


 むしろ、それしか思いつかん!



「そうか! それか!」



 本来のエーテル培養液は、ポーションの性能を上げたりと用途は多岐に渡るが……俺様としたことが調整を間違えていたかもしれない。


 なら、とこまめに身体を清めてから風呂を出て。


 綺麗に髪を拭いて着替えてから、デザートの待つリビングに向かった。



「セリカ!」


「……おかえり」



 何か下ごしらえをしてるセリカだったが、俺様がテーブルにつくと、すぐに冷凍庫からアイスを出してくれた。



「お疲れ様」


「うむ! ところで、セリカ。シャインのことなんだが」


「!……私もシャインについて話したいことがある」


「なぬ? 先に言え」


「……勝手にだけど。私も錬成の料理を作ってみた。けど、結果はマスターと同じだった」


「なに? やってみたのか?」


「味も薄い……本当に不味いチキンライスになった」


「む。ならばやはり、シャインに問題があると言うことか」


「シャインが言っていた。自分の完成度が70%にも満たないだろうって」


「俺様は知らないぞ!?」


「今日言ってたから……」



 何故、俺様と違い仲が良いんだ!


 そこはまあ良いが、70%にも満たないだろうというのなら、エーテル培養液か本体が悪いのか。


 とにかく、確かめねばならない。


 ひとまずは、セリカが出してくれたラズベリーヨーグルトアイスでほてった身体を冷やしてから地下室に向かった。



「さて、と」



 うどんとやらは生成し終えたのか管の中にはなく、まっさらな状態のエーテル培養液が詰まっている。



「エーテル培養液を一部取り出して、精度を調べた方が早いか?」


「私が出そうか?」


「うむ。頼んだ」



 今の俺様の身体では、浮遊魔法もうまくいかないだろうし。浮けても安定はしないだろう。


 細身のセリカが浮遊魔法で身体を浮かせて、魔力で管の中の培養液を一部汲み取って球体にする。


 それを、二階の研究室に持っていき、今度は俺様の出番だ。



「ふむ。精度が劣ってしまってるのならば……使用頻度が多くて劣化する場合もあるが」


「むしろそれじゃ?」


「ぐ。俺様が錬成料理の作り過ぎであり得るやもしれぬが、もう一つの方法を試す」


「ん?」



 セリカが浮かせたままの培養液をボウルに入れて、ガラス板に液を付着させて……錬金術とは違う、魔法道具の一つである『顕微鏡』と言う、微細な成分をも目に写してくれる機材に設置。


 覗き穴からに目を置くと、エーテル培養液の中身が見えた。



「……スッカスカだな」



 通常の培養液なら、星のような形の結晶体がくっつきあっているのだが、これは逆だ。


 味気のない、スカスカしたパンの中身のよう。


 問題はこれだったのだ!



「けど、食材については問題なく生成出来ているのに?」


「用途と、構成具合……料理には相当のエネルギーが必要となるから。この密度では補えなかったのだろう」


「なのに、マスターはそれでも使用してたから……精度がより一層落ちた?」


「く、あり得る。だが、なんだこの欠陥品は! エーテル培養液を取り寄せたときには、こんな状態ではなかったはずなのにぃいいいいいい!!!!!!」


「……私は造られただけだからわからないけど。仕入れとかはどうしたの?」


「仕入れ?」


「シャインを作る前の材料集め」


「ぬぬ……それか」



 エーテル培養液の大元は生産ギルドが管理してるため、国家錬金術師以外では生成に携わってはいけないとされている。


 無闇に高価で効能の高いエーテル培養液を作っては悪用するのを防ぐためだと国の法で決められているのだ。


 俺様はまだ国家錬金術師ではないが、それなりに街では信頼度の高い錬金術師として名は知れ渡っている。


 約一年前に、この屋敷を購入出来る資産が出来てから、悠々自適な生活を得るためにシャインを作ったわけだが。



(その仕入れ……生産ギルドに行くべきか)



 だが、約一年も顔出しせずに体型が変わり果てた俺様を見て、誰もが俺様をクローム=アルケイディスとわかりはしないだろう。


 仕方がない。



「すぐには街に行けぬが、セリカ。俺様のこの身体……せめて、少しふくよかになった程度に落とすにはあとどれくらいかかる?」


「……私のペースだと、約一年」


「長いな……三ヶ月では無理か?」


「マスター、死ぬ気?」


「死なぬ! シャインを正常に戻して、錬成料理で好きな錬金術をするだけの生活を……と言いたいが。お前もいるし、普通の生活に戻るためだ。チェスト達に聞いてもいいかもしれぬが、まだこの真実を奴らに言うわけにもいかん」


「……食事は今のままでいいから。あとは運動?」


「ふ。走り込みでもなんでもしてやる!」


「一気に増やしてしまうと身体を壊す。少しずつ取り入れて……あとは、家事を手伝ってもらう」


「なに?」


「私が、あれだけマスターの錬成料理を食べても太らない理由」


「むむ。それなら致し方あるまい」



 約三ヶ月……せめて、多少は見苦しくない程度にまで痩せねば街には行けない。


 とりあえず、シャインは錬成素材を作れるのだからまだ大丈夫だ。


 真実を確かめるためにも、俺様は努力を惜しまぬ。


 待っていろ、悪徳商人め!

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