光の戦士は潰えない
たぷたぷゴマダレ
第1話「勇気を示せ!光の戦士、ここに誕生!」
何も考えてなかった。
公園から飛び出してきた子供。そしてその子供をもう少しで轢きそうになるトラックを見て、体が勝手に動いていた。
ベタな展開だなぁ。とか、そんな風に思っていた時、体に衝撃が突き刺さる。グシャリと潰れちゃいけないところもやってしまったみたい。
あーあ。ここで私死んじゃうのかなぁ。
人ごとのように私は考えていた。でもまぁ、勇気を出して一人の子供を救えたんなら、私の命にも価値はあったかもしれない。
だからこれでいい。これでいいはずなんだ。そう納得して、私はゆっくりと目を閉じる。
「……まだ、いきたいかい?」
そんな声が、突然聞こえた。もちろんそうだとも。死にたい人なんて、ほとんどいないのだから。
そう言いたいのに、口は動かない。代わりに私の右手に向かって何かが伸びてきた。それが触れたとき、体が少し暖かくなってきたような気がする。
心地よかった。まるで、ゆりかごの中にいるかのような感覚が、体を支配していく。そして、私はそのまま意識を手放して——
◇
「う、うぅん……?」
赤毛の少女、赤崎みよねが目を開ける。辺りをキョロキョロと見ると、どうやらここは病院のベッドの上なようだ。
みよねは思い出す。確か私は車に轢かれたはずだ。体につながった管が、その事実を語ってはいる。
だが、どうやら死んではないらしい。運が良かったのだろうか。 何はともあれ助かったことには変わりはない。あまり大きく動けないので、ベッドの上で体をもぞもぞと動く。年齢に合わない大きさの胸が、同時にぶるんと動いた。
その時、自分の右の人差し指に見たことのない赤色の指輪が付いていることに気づく。どこかおもちゃのような安っぽい光を放つそれを見て、みよねはこんなものいつつけたかを思い出そうとするが、やめる。めんどくさいから。
なんにせよ、何かの拍子に買ったものをそのまま外し忘れたのだろう。事故のショックで記憶が飛んだのかもしれない。
ボーッと天井を見上げていると、病室のドアの向こうからドタドタと走る音が聞こえてきた。騒がしいなとその方に視線を向けると同時に 勢いよくドアが開いた。
「うわぁぁん!姐さんが死んだなんてウチ信じないぃいいぃぃ!」
顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら、一人の少女が病室に入り込んだ。黄色い髪をみぎにまとめて、それを激しく揺らしていた。額についた大粒の汗が彼女のここまでの苦労を物語る。 身長はかなり小さい。130と40の間くらいだろうか。そんな小さな少女がベッドに横たわるみよねに抱きついた。
「み、みよねの姐さんが……こんな、こんな姿に……!ウチ、ウチはぁ……!!」
「あー……」
「でも大丈夫です……!姐さんの意思はウチが継ぎます!必ずや、漫画歴史の偉人に載るような 人物になって最初の方に出てくる恩師として姐さんの名前を出しますので!!」
「いや。あの……」
「ウチはやって見せます!だから、姐さん!天国で見守ってください……!御供物として、高級なマヨネーズを持ってきました……!」
「おーい?今近くで見守ってるんだけどー?」
「ハッ……!姐さんの声がする……!ははっ……ウチ、まだ割り切れてないみたい……ウチ、きっと乗り越えます!だから——」
「…………ていっ」
コツン。みよねは指輪がついたほうの手で黄色い少女の頭を小突く。少女は小突かれた場所を抑え、目を見開く。
そして、みよねと目が合う。みよねが小さく手を振ると少女は数回瞬きして、目に涙を貯めた。
ゆらり。そんな音が聞こえるかなように、少女はみよねに倒れこむ。そのまま、小さく嗚咽を漏らし始めた。
「よがっだ……よがっだよぉ……!」
「ピヨは泣き虫だなぁ。私がそう簡単に死ぬわけないじゃない」
「うぅ、うう……!」
ピヨと呼ばれた少女はみよねの胸の中で泣き続けた。みよねは、優しく微笑みながら、ピヨの頭を撫でたのだった。
しばらくして、ピヨは起き上がる。鼻を擦り、そしてぺこりと頭を下げて口を開ける。
「お騒がせしました!何はともあれ、元気で良かったです!」
「うん。私は元気。でもまぁ、騒ぎ過ぎたし、後で謝っとこうね」
「はいっ!」
ピヨこと 黄川ひよこはそう元気よく返事を返す。みよねは「よろしい」と言葉を出して、彼女の頭を撫でた。
ひよこはとろけたような顔をして、その行為を受け入れていれる。
みよねとひよこはひょんなことから知り合い、そして以後。ひよこがみよねを姐さんと慕い、みよね自身もひよこを妹のように扱っていて、 血は繋がってはないが、まるで本当の姉妹のような関係になっている。ちなみに二人とも同い歳だ。
ふと気づくと同じ病室の患者に、微笑ましいものを見るような目を向けられていることに気づき、みよねは恥ずかしそうに、撫でる手を止める。
ひよこは物足りなさそうだったが、すぐにこほん。と軽く咳払いをして、口を開けた。
「姐さんが病院に担ぎ込まれてから、まだ1日もたってないんですけど、本当に大丈夫なのですか?」
「うーん……大丈夫だとは思う。検査とかは終わってるかは知らないけど、私の周りにお医者さんとかいないし、ほう放置してもいいと思われたんじゃないかな?」
「そう……ですね ……あ、そうそう。欠席日数ここに転入してから0の姐さんが休んだって、中学中で話題になってましたよ」
「なにそれ。というかそんなこと広まってたんだ……」
「はい。朝のホームルームで交通事故にあったって聞いた時、ほんとはもっと早く学校抜け出して会いに行きたかったんですけど……」
「それはダメだよ。授業はきちんと受けないと。大事なことだよ」
「はいっ!ですから終わった瞬間にダッシュしました!」
「ふふ。ありがと」
その後二人は他愛もない談笑を始める。新しくできた喫茶店がどうとか、そこに今度行こうかだとか、そういえば噂で転入生が来るらしいとか、それがどんな人物なのかとか。
ふと、ドアの向こうを見ると白衣を着た男性がニコニコしながらこちらにやってきた。どうやら医者の先生らしい。
彼が言うに、明日の昼頃には退院できるのだと言う。もう動けそうなのに明日までかかるのか?と聞くと、念のため。だそうだ。
元気なようなので大丈夫だとは思うけど。と、彼は一文転がす。それを聞いたひよこは明日は土曜なので、迎えに行きます!と元気な声で宣言する。
窓の外を見るともう日が暮れ始めていた。ひよこは名残惜しそうに「ではまた明日」と言いながら、病室から出て行く。
「お友達?」
先生がそう言う。みよねは「はい」とうなずいた後、その後に一言付け足した。
「とっても大切な、親友です」
◇◇◇◇◇
男は眠っていた。いや、眠ろうとしていた。と言うほうが正しいだろうか。目を瞑り、じっと時間が経つのを待つ。
だが、程なくして彼は目を開けて大きく飛び上がる。体が震え、吐き気を出てくる。慌ててトイレに駆け込み、胃液を吐き出した。
彼は今日の朝。少女を轢いた。少しあくびをしただけだ。 その時、宙に舞う少女と目があった。くるくると人形のように抵抗をしないそれ空中を回り、やがて地面に激突した。
子供が泣いている。あの子供を助けるために飛び出して轢かれたのか。何に?車に。
では、その車を運転していたのは——
そこまで理解した瞬間、男はアクセルを踏み切った。速度を出せるだけ出し、その場から一目散に逃げ出した。
幸い目撃者は少なく、自分がやったことはバレてないようだ。あの子供も、泣いていたから車のナンバーなんて覚えてないはず。
だが、安心などできなかった。それどころか少しずつ恐怖が胸を支配していく。後ろから突然、あの跳ね飛ばした少女の声が聞こえてきそうで、男は思わず耳を抑える。
俺は悪くない。偶々だ。運が悪かっただけだ。俺は悪くない。悪くなんかない!
「そうだな、おめぇは悪くねぇな」
突然自分の声とは違う。男の声が聞こえてきた。後ろをバッと振り向くと、そこにはこちらをみて、よっと手をあげる青年がいた。
さらしを巻き、その上にハイビスカスが描かれた赤いアロハシャツを着てこちらを見ている。髪は赤く、所々に白い線が見えていた。
「俺の名前はドレドーラってんだけど……まぁいいや。それよりお前」
ドレドーラと名乗った男は、こちらにゆっくりと近づいてくる。その動きに驚くが、体が言うことを 聞いてくれない。
ガクガクと震える男を、ドレドーラはジッと見つめる。そして、ニヤリと笑い口を開けた。
「お前、ビビってんだろ?」
「な……!」
「いや、俺にじゃねぇよ。他の事だよ。それがなんなのかは俺にはさっぱりだが……いや、ビビるより恐怖しているって言う方が正しいか。まあとにかく。ビビってることがある。 違うか?」
「じ、実は……おれは……」
「あーあー!別に内容はかんけぇねぇ。ビビってることがあるか否かだ。で、どうだ?」
その問いを聞き、男はコクリとなんども頷く。その姿を見たドレドーラは満足そうに頷き、そして拳を握る。
何をしてるのだ。そう思った瞬間、ゴッ!と大きな音がなり、自分の 胸に……いや、心臓部に違和感を感じる。
ゆっくりと視線を下ろすと、ドレドーラの腕が自身の胸をつらいていたのだ。だが、不思議と痛みはない。
「よ……っと」
そう言い、ドレドーラは軽い調子で腕を引き抜く。そこには黒い球が彼の手に握られていた。
妙な疲労感を覚え、男は膝をつき倒れる。
ドレドーラは口笛を吹きながら、その球を握りしめている。
何をしているかわからない。だがゆっくりと消えていく意識の中で、ドレドーラの声が最後。耳に入ってきた。
「そんじゃ、お前の恐怖。俺が使い倒してやるよ」
その言葉と光り輝く球体。それを見たとき、男は意識を完全に手放したのだった。
◇◇◇◇◇
「いやぁ、何事もなくてよかったです!」
「逆に何事もなさすぎて先生引いてたんだけどね」
「まぁそれは……でも来週また病院行くんですよね?それでもう終わりですよ」
「だといいんだけどね」
みよねとひよこは、二人で道を歩いていた。迎えにくる宣言をした通り、ひよこは朝一番に病院にきた。あまりにも早すぎてみよねは苦笑いを浮かべ——でも少しだけ嬉しかった——ひよこを小突いた。
しばらく歩くと、ひよこはふと何かに気づいたようにみよねの右手の人差し指を凝視始める。ここに何かあったかと思い、ああと思い出す。
「これ」と言いながらみよねは右手を上に掲げる。 赤い指輪は太陽の光を浴びて、綺麗に輝いている。なんだかとても幻想的で、みよねはそれをずっと見ていた。
やがてひよこの方に指輪を向ける。興味深そうに彼女はそれを見て、小さく声を漏らした。
「姐さんもこういうの好きなんですね」
「うーん……いつつけたか、覚えてないんだけどね。でも綺麗だしつけてる。というかなんか、外したくないんだよね」
「ほへ〜」
改めて指輪を見るが、何の変哲も無い。ただの赤い指輪。だが、なにかとても身近に感じるものでもあった。
まるで自分と一心同体。生まれた頃から、それがここについていた。そう言われても、納得してしまいそうなほどにそれは みよねの体に馴染んでいた。だからまぁ、こんなもんでいいか。と、みよねは考えている。
深く考えるのもめんどくさいし。
「そうだ、姐さん!今度新しくできた喫茶店……に……?」
ひよこが不思議そうな声を出しながら、前方を見る。そこには何かが立っていた。そう、何か。としか言えない。 車が擬人化したらこんな感じかな?と思えるようなものがいた。コスプレといえばコスプレなのだが、あまりにも生気をそれから感じることができなかった。
嫌な予感がする。いまだ不思議そうな顔をしているひよこの手を握り「走るよ」とだけ言い伝え、驚くひよこを無視して、みよねは走り出す。
すると後ろから異形の怪人が大きく唸る。すると、両手両足を地面につき、四つん這いの形になった。
なにをする気だと思っていると、手と足から突然黒い、車輪のようなものが出てきた「まさか」と思った瞬間だった。
「オォォォォォッ!」
「うそっ!?」
声にならない叫びをあげ、異形の怪物はまるで自身は車だと言い張るように動き出した。すなわち、両手両足についた車輪を回転させて。
まっすぐ逃げていた二人は、慌てて横に飛び込む。二人を一瞬通り過ぎた怪物は、そのまま急旋回。みよねたちを追いかけるように走り出す。
このままだと追いつかれる。今できることは右に左に走ることだけだ。もし、追いつかれたりしたら一巻の終わりである。
「あ、姐さん!なんなんですか、アレ!?」
「知らない!とにかく今は逃げることを考えて!追いつかれたら、死ぬかもッ!」
「そんな……!そ、そうなったら、 姐さんはウチを置いて……!」
「できるわけないでしょ!今は喋らないで、逃げること……を……!」
みよねは言葉を止める。ひよこも不思議そうなして、視線を前に向け、そして絶望したような声を漏らす。
二人は行き止まりにたどり着いていた。ペタペタと縋るように壁に触るが、そこから先に行ける道はない。
のしかかる絶望。それを追い討ちをかけるように、後ろから小さくあの怪人の声が聞こえてくる。
「は、はは……」
もはや乾いた笑いしか出てこない。子供を助け奇跡的に無傷で助かったと言うのに、こんなコスプレ野郎に殺されるなんて。
「オォォォォォ……!」
「ピヨ……あなただけでも逃げ……」
「姐さん……ごめんなさい!」
ひよこはそう叫び、怪人飛びついた。あっけにとられてるみよねを尻目に、ひよこはその怪人から手を離さない。
振りほどかれようが、殴られようが。彼女は決して離しはしない。理由はなぜか?それくらい、みよねには分かっている。
「ピヨ!!」
「姐さん……!逃げて……!姐さんだけでも……!お願……い!」
「オォォォォォ!」
「ギッ!?」
怪物が吠え、ひよこがはじかれる。背中を建物に強く打ち付けて、彼女は口から唾を吐いて、その場に倒れこむ。
怪物はひよこの首をつかみ、そのまま持ち上げる。その中でもひよこはずっとうわごとのように言葉を出し続けていた。
逃げて。と。
(あの子が……あんなに頑張ってるのに、私は何をしてるの……?)
みよねは両拳を握る。爪が肉にめり込み、痛みを感じるがそんなことは今はどうでもいい。
ひよこが、みよねを助けるためにあんなことをしているのだ。それをみてみよねはおめおめと逃げるのか?そんなことしていいのか?
——答えは、いいえだ
「ぐ、ぐきぎ……が……!」
ひよこが白眼をむき始める。その姿を見ている怪人は、どこか笑ってるかのように見えた。みよねは一瞬、恐怖に気圧されそうになるが、すぐに持ち直す。
逃げるな。諦めるな!求めろ!あの怪物に挑むことができる強さを!力を!そして——
勇気を——!
その瞬間、みよねの指輪が力強く光り出した。ひよこも、そしてみよねも驚いた顔を浮かべる。その時、怪人は大きく威嚇するような声をあげ始めた。
ひよこを放り投げ、そしてみよねに向かって突き進む。その速度は、先ほどまで自身たちを追いかけてきた速度とほぼ同じ。
ドォン!
「姐さぁぁん!」
光り輝いているみよねにぶつかる怪人は大きな衝撃音を発生させる。その光景を見て、ひよこは涙を流す。もうみよねは助からない。私の力不足のせいで……
「……なに、ないてるの、ピヨ」
「え……?」
怪人はその場に立っていた。そして、その怪人を抑え込む一人の少女がいた。マントをはためかせ、赤いレオタードのようなものを着込んでいる。そして彼女の顔は、どこかみたことあるような顔立ちだった。
その彼女が怪物を大きく投げ飛ばす。怪物は地面を転がり、やがて背中を壁に打ち付け止まる。
「あ……あなた、は……」
ひよこの声にその少女は答えるように手に出現させた剣を上に掲げる。そして、高らかにこう告げた。
「恐れぬ心が勇気のしるし!ブレイブナイト!……えっ、なにこれ」
困惑しているみよねはそのまま掲げた剣を下に降ろし、怪物に向ける。
「というかこの格好なに!?レオタードって……へ、変態みたいじゃない!?」
みよねはじっと自身の体を見つめ、そして先ほどの口上を思い出し顔を真っ赤にする。どうやら本人の意思とは関係ないようだ。
しかし、怪人はまだ止まってない。この格好を続けるのも嫌だから、さっさと終わらせるべきなのだろう。
ひよこもぐったりとしている。早く安静な場所に連れていかなければ、危険であろう。みよねは……いや、ブレイブは深呼吸を繰り返し、剣を構える。
怪人は起き上がり、こちらを睨みつけながら唸る。しばしの無言の時間が流れた。
「オォォォォォ!」
怪人は走り出した。狭い空間だというのに壁を蹴り、駆け上り、ブレイブの周りを右往左往と動き回る。
だが、その動きをブレイブは目で追うことができた。 怪人が遅いわけではない。むしろ先ほどより素早くなっている。だが、それ以上にブレイブの動体視力が上がっているのだ。
「……そこ!」
「オォォォォォ!?」
だからこそ、ブレイブは飛び込んでくる怪人の右腕を切断できた。人の形をしたものを斬り落としたとき、言い知れない不快感を感じるが、 ブレイブはそれを無理やり押し込む。
やらなければやられる。それを頭に叩き込み、剣を握りしめる。怪人は大きく唸り声をあげてこちらに突っ込んでくる。それはまさに捨て身の特攻。
一方で、なぜか妙に落ち着いているブレイブはそれをみてから、腰を低くおろし剣を水平に構えた。
「オォォォォォ!!!」
「はぁぁぁぁぁ!!」
ブレイブの剣が怪物に突き刺さる。だが、怪人はその状態からもブレイブに向かって拳を突き出した。
自身の顔にめり込む拳の痛みは、気をぬくと失神してしまいそうなほど。だが、ブレイブは堪える。そして、さらに強く踏み込んだ。そしてそのまま横に強く払いのける!
「オォォォォォ……オォォ……!」
「ど、どうだ……!?」
怪物はよろめき、膝をつく。だが、まだ倒れてはいないようだ。よろよろとよろめきながらも上に大きく飛ぶ。
「逃げるの!?」
逃がさないと踏み込もうとした。その瞬間だった。怪物に、青い光が突如生えた。何か仕掛けてくるのかとブレイブは警戒したが怪物は空中で苦しそうにうめき声を上げるだけだ。
そのまま地面に激突し、力なく怪物は姿を消していく。残されたのは黒い塊だけだった。
ブレイブはその塊を触ろうとした。が、ブレイブと塊の間に青い光が生える。 その光はよく見ると、何か矢のようであり。誰かが射抜いたのかとブレイブは推測する。
「……あんた」
凛とした声が聞こえたかと思うと、空から一人の少女が飛び降りてきた。その少女は、スタッと軽い音を立てて地面に降り立ち、じっとこちらを見つめている。
彼女の格好はブレイブとほぼ一緒。色が赤ではなく青に変わってる程度のものだった。髪は青く、長く伸ばしている。その少女はジッと、何か恨めしそうにこちらを睨み付けていた。
そんな彼女は黒い塊を手に取り、そしてそれを優しく握り締める。青白い光がスッと上空に上がり、消えていく。
それを見送ったあと、その少女は改めてこちらを向き、口を開ける。
「……あんた、名前は?」
「う、えっと……ブ、ブレイブ……」
「本名」
「あ……えっとぉ……」
「……隠す。ということかしら?まぁいいわ……ブレイブ。先に言っておく。あんたはもう金輪際、この件には関わらないことね。さもないと」
青い少女はそこまでいうと、ブレイブの耳に口を近づけて、こう呟いた。
「死ぬわよ」
そうとだけ言い残し、青い少女はビルの上にまで 一瞬で飛び上がり、そのまま姿を消した。
残されたブレイブはその場にへたり込んだ。息を吐いて、自身の両手を見つめる。そして、確かめるように両手を握りしめた。
そんなブレイブにひよこは抱きついた。ひよこを優しく撫でながら、ブレイブは小さく呟いたのだった。
「あの子……あの格好で恥ずかしくないのかな……」
◇◇◇◇◇
「おっ……」
アロハシャツを着た男性。ドレドーラが、満足げに頷き手に持ったフラスコを掲げる。その中には黒い液体が少量入っており、それを大きな容器の中に流し込む。
その容器は小さく光り、やがてその光は収まっていく。その一通りの光景を見て、ドレドーラは小さく笑う。
「なに笑ってるいるんだドレドーラ」
「キャハ☆笑ってるドレっち可愛い☆」
「なんだてめぇらか……」
背後から二人の男女の声が聞こえてきて、ドレドーラは言葉だけを返した。やがて、目の前の容器を触り口を開ける。
「この容器が満杯になりゃ、闇の皇帝様が復活するってわけだ」
「ん。そうだな」
「俺はそいつを叩き潰したいのよ。へへっ。想像するだけで興奮するぜこいつは……」
「馬鹿か?闇の皇帝様がお前などに負けるわけないだろう。無駄なことをして命を消費するな」
「無謀な挑戦だね☆犬死にかくてー!」
「言ってろ。まぁ、なんにせよ……皇帝の野郎が復活するまでにいい暇つぶしの相手が見つかればいいんだがな」
ドレドーラはそう言って大きな声で笑い出した。その声に反応するように、他のフラスコが小さく揺れるのであった。
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