第2話 Injured Hand
「バスケットしてて…ボールを受け損ねたの……」
「はぁーっ」
呆れた声を出しながらも、顔は面白そうに笑っていた。
「やり慣れなくて…バスケットなんて…」
「自分の運動神経を考えてやれよ。しかもバスケなんて格闘技じゃん」
彼はおたまを持って、鍋の中身をかき混ぜ始めた。
背を向けているが、ローナが後ろから見ていても苦笑いしていることがわかった。
「だって」
「ったく。かよわいお姫さんだな。それこそ乗馬とか、クリケットとかなら怪我せずに済んだんじゃねぇのか」
本当のこととはいえ、はっきり言われてしまいカチンと来た。
何かが空を舞っていた。
彼女の方から彼の方へ。
ローナは近くにあった灰皿を持ち上げると、コントロールの利かない左手で彼の方へ向かって投げつけた。
無論、中身はてんこ盛りになったままである。
「おっとっ」
殺気を感じたのかアレックスは振り向きざまにヒョロヒョロした灰皿をキャッチした。
「仕方ないでしょ、ゼミ対抗のスポーツ大会だったんだから」
「料理作ってるヤツに向かって灰皿なんか投げんじゃねぇ! 灰だらけになっちまうぞ!」
言っておきながら床を見ると頭を抱えるほど吸い殻と灰まみれである。
「い=だっ!
ローナは左頬を引っ張って舌をペロッと彼の方に出した。
無駄な抵抗だとわかっていてもそうする彼女の気の強さにさらにアレックスは大笑いした。
「俺を化け物みたいに言うなよ。俺だって
つかんだ灰皿をコンロのそばに置きながら、再び彼女に背を向けた。
「よしっ、できたぜ」
火から下ろして、おたまから器へ盛る。
おいしそうに湯気を上げた器とスプーンを持って彼女のもとへと歩いてきた。
「わあいっ アレックスの手料理………………だって。」
テーブルに器を置き、スプーを持ったまま彼が覗き込んだ。
「なんだよ?」
「なによ?」
「食べたくなさそうだな~と思ってな」
口の端だけで笑いながら、持っていたスプーンで自分の肩をポンポンと叩いた。
ぐぅ~~~~~~~~~~。
「!?」
ローナは自分のおなかを押さえた。
「聞こえた?」
「そりゃ、もう、しっかりと!」
面白がっている彼の顔が目の前にあった。
「バカーっ」
顔を真っ赤にしてローナが叫んだ!
「貴族だろうがなんだろうが、腹は減るんだ。空腹は食事における最大のソースなり。どんな料理だっておいしく感じるさ!」
そう言うと持っていたスプーンを差し出した。
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