第10話 魔女としての力

 私の魔女としての力は血に宿る、人の形をした物を血を媒介にして操るのだ、そして、私の一族の秘伝、生きている者で、血をお互いに取り込んだ場合、命を分け合うことが出来る様に成るらしい、具体的には、アインと私はお互いの血を取り込んだので、死にかけた傷だらけの彼に、私の生命力と言うか、魔力が流れ込んで、傷を治し始めるのだ、魔力だけ流し込んでも余り馴染まないのだが、この手順を踏んだ場合、とても効率が良くなる、之は一生に一度しか出来ないらしく、解除は出来ない、何方か一方が死んだ場合引きずられるが、今回の場合に限っては大丈夫、未だに私の足から流れている血が、地面に染み込んでいた、この共同墓地の土地は、この辺で地脈、龍脈に位置する、この血を媒介にして地脈に繋げて、地脈に流れる魔力を取り込む、但し之をすると地脈に引きずられる為、あまり遠く離れる事が出来なくなるのだが、最早後先を考えている状態では無い。

 因みに言い訳されてもらうと、この力は自分にはあまり強く作用しない、あくまで依り代、媒介が必要なので、私だけだとほぼ役立たずなのだ、人形を抱えて歩けばと言うネタも有ったのだが、小さな子供の頃なら兎も角、今と成っては私も良い歳で、怪しさが爆発するので今では家でお留守番中だ。

 そして、両親からは使い処は良く考えろとも言われて居た、他のひっそりと隠れている魔女や、疑われて居る者に対する風当たりが強く成るかも知れないからと・・・

 既に風当たり最悪だから、最早我慢する意味はあんまり無いと思う・・・・

 順調にアインの傷が塞がって行く、此方は順調だが、戦力的な本命は別に居る。

「おい? 何だこれ?」

 私達を包囲して居た兵たちが違和感に気が付いたらしい。

 足元が揺れ、地面の下から腐った死体が纏まって這い出して来る、どうやら直ぐ近くに雑に埋められた共同墓地の跡が有ったらしい、一般市民の埋葬は大きな穴を掘って、適当に死体を投げ込み、石灰を撒くだけだ、つまり一つの穴に沢山戦力が居る、之は都合が良い、改めて私達を包囲する兵を見渡し、小さく呟く。

「やっちゃえ・・・」

 起き上がった死体たちが、兵を襲い始めた。先程までとは立場の入れ替わった殺戮が始まった。

 武器なんて物は無いので、掴んでしがみ付いて噛み付くのが最大の攻撃だが、数が多いので、手と牙の数は多いし、時々殺意が高い死人が居て、武器を拾って使う事も有るので、攻撃力と言うか、殺傷力は十分だ。

 襲われた兵が、驚き叫び、思い思いに武器を振り回し始めるが、死体は既に死んで居るので、斬られようと叩かれようと腕がもげようと其のまま動ける、先程まで私達を散々悩ませた弓矢に至っては最早何の影響も無かった。

「何やりやがった!?」

 暴漢が叫ぶ、説明する必要は無い、私を殺せば死体の群れも止まると思ったのか、弓矢が飛び、盾持ちが死体を押し退けて飛び出して来る。

 其れに関しては・・・

「お願い・・・」

 その声に反応してか、先程まで力尽きていたアインが起き上がった。

 てっきり死んで居た扱いのアインが起き上がった事に驚いたのか、兵達の顔に動揺が広がるが、其のまま前に進んで来る。

 それでも速度が下がった分で、先程から次々と地面から這い出して来る動く死体の群れに取り付かれて動きを止めた。

 それでも飛んでくる矢を、アインが剣で切り落とす。

 現状、私の魔力共有で視界が広がっているお陰も有るだろうが、見事な腕だった。

 先程迄傷だらけのハリネズミ状態だったアインだが、心なしか先程迄より一回り大きく力強くなっていた。


「助けてくれ!」

「なんで俺たちがこんなことに!」

 手詰りで、此方に生殺与奪の権が移った事を認めたのか、そんな事を言い出すのが出て来た、と言うか、あの暴漢擬き、まだ生きてたんだ?

「ねえ? 貴方は何人、魔女の疑いで捕まえて来たの? 何人火あぶりにしたの?」

「そんな事はしてない!」

「俺達は只の善良な兵士だ!」

 口々に、大真面目に答える、後ろに居たのは気まずそうに露骨に目を逸らした、嘘をつくのは恥だと言う自覚はあるんだね? 

 うん、どうせそう答えるだろうとは思ってた、聞く耳持つつもりも無いし、実際殺されかけた私達を前にして白々しい・・・

「嘘だぞ・・・」

 アインが私の横で、嫌そうな顔で油断無く呟く。

「うん、知ってる・・・」

 形だけでも聞いて見ただけだ。

 不意に、動き回る死体の中に、明らかに死体の損壊具合が酷い者が居た。身体中傷だらけで、縄が撒き付き、手足の指が潰れて居て、全身焼け焦げた跡が見える。

 何処かで見た様な傷跡だった・・・

 遠くに打ち捨てられていたので、到着まで時間がかかって居たらしい。

 其れを見て兵達が顔色を変える。

 うん、前回魔女狩りで魔女裁判されて火炙りにされた、只の少女だった者だ・・・

 火炙りのその場に居合わせた訳では無いが、あの傷は只の死体にしては目立ち過ぎるのだ。

 死体は喋らないが、その傷跡は雄弁だ、少しでも知って居れば何が有ったのかは分かる。

「貴方方が許されるか、その人に聞いたら?」

 実は私のこの力、余り強制力は無いし、細かく操作する力も無い、其の身体に残っていた思いに引きずられるのだ、私は、少しだけ動けるようにして、お願いしただけ。

 極論、この兵達が市民に好かれる人望の有る人達だった場合、私の戦力が結構減って居たのだが・・・

 よっぽど人望無かったらしい。

「なあ、新入り? 助けてくれないか?」

 アインに取り入る方が楽だと思ったらしい、アインは呆れ返った様子で首を横に振った。

 問題の傷だらけの死体が、ゆっくりと生き残りの兵達に近づく。

「なあ、助けてくれないか? 俺達との仲だろう?」

 暴漢擬きは曖昧な笑みを浮かべて傷だらけの死体に話しかけている、どうやら弁解したく成ったらしい。

「あれって・・・?」

「隊長がフラれた腹いせに魔女だってでっち上げて火あぶりにされた娘・・・」

「うわあ・・・」

 諦めた様子で、別の兵達が小さく呟いた。

 うん、そんな事だと思った、と言うか、あの暴漢擬き隊長だったの?

 無言でその死体は暴漢擬きに近づき、足元にあった剣を拾い、大上段に振りかぶり、振り下ろした。

 血しぶきが舞う。

 最後まで酷い男だった・・・・

 それを合図にして、死体達は改めて残った兵達に襲い掛かった。

 結局、誰も残らなかった。

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