第6話 少年の出会いと一目惚れ
路地裏で寝て居たら突然の衝撃で目を覚ました。
同時に、直ぐ近くでべしゃりと言う様な音が聞こえた。
思わず外套を退かして、周囲を見渡すと、男が少女を踏み付け、髪を引っ張って何かを喚いて居た。
身体が動いたのは反射的だった、男を体当たりで突き飛ばし、少女の手を掴んで当ても無く走り出す、後ろで男が何か喚いて居るが、気にする様な事は無い。
途中で仲間を呼ばれたようだが、追い付かれなければ問題は無い、しかし流石都市部、こんな白昼堂々人さらいが出るのか・・・・
後ろから追いかけて来る叫び声が聞こえなく成った辺りで足を止める。
流石に多少は息が上がっているがので、少し休憩だ。
荒い息使いが路地裏に響く。
手を牽いて居た少女も息が上がっているが、足をもつれさせずに付いて来たので大分鍛えて居るらしい。
都会は怖いなと、思わず呟く。
「有り難うございます」
と、感謝された、どうやら余計なおせっかいでは無かった様で何よりだ。
「どういたしまして」
お礼の言葉に安心しつつ、自分も色々有ったと話を繋げる。
改めて顔を見ようとすると、何時の間にか外套のフードを目深に被り直して居る。
今は顔の下半分しか見えないが、其の輪郭線から予想する顏はきっと美人だ。
その予想は正しいのだろうかと考えて居ると、無意識に手が動いて少女のフードを剥がしていた。
其のフードに隠れて居た顔は、とんでもない美少女だった、シミやそばかす一つ無い白い肌に赤い目、白い髪、地元には日焼けした金の髪や、汚く焼けた赤い肌の村娘しか見た事が無かったが、こんな美人が居るとは思わなかった、この少女と出会う為に此処に来たと言っても納得してしまう程の衝撃だった。
思わず心臓が高鳴る。
之が世に言う一目惚れと言う物だろうか?
少女は恥ずかしいのか、神経質そうに周囲を見渡し、誰も居ない事に少しだけ安心した様子で直ぐにフードを目深に被り直した。
思わず褒めるが、少女は目立つことを恐れているようだ、目立つと命が無いだなんて、そんな大げさなと思うが、きっとこれほどの美人だから人さらいに狙われるのだろうと、先程の光景に納得した。
「あの、そろそろ離してくれませんか?」
少女が困った様子で目線を下に剥けて呟く。走り出した時から握りしめ、繋いだままの手が有った。
こんな可愛い娘の手を握りしめて居ると言う事を今更自覚し、顔が赤くなる。
こんな美少女と手を繋ぐ機会はもう無いのでないかと名残惜しくなるが、放せと言われて居るのだから手を放さなければと思い、理性を総動員して自分の手を引き離す。
「それでは、有り難うございました、お陰で助かりました」
少女がペコリと頭を下げる、お別れの流れだ、もう二度と逢えないかもしれないと言う思いが突発的に自分を突き動かす。
「あの!」
思わず少女の両手を掴む。
「結婚してくれませんか?!」
自分でも何を言って居るのか分からなかった・・・・・
一拍置いて、少女の様子に驚きと戸惑いが浮かぶ。
「正気ですか?」
少女の声は呆れ気味だ。
「はい!」
力強く肯定する。
「走った後の勘違いです、心臓がバクバク言ってると色々勘違いするんです」
少女が呆れた様子で淡々と説明する、そんな訳が無い、この胸の高鳴りは本物だ。
「そんな訳が・・・」
思わず食い下がる。
「次回、もう一度逢った時に落ち着いてもその気持ちが変わらなかったら、もう一度言って下さいね・・・」
少女は冷静に、何故か悲しそうな笑みを浮かべて俺の手から自分の手をするりと抜いた。
振られた衝撃に手からと言わず全身から力が抜けて居たらしい。
少女は踵を返して、迷う様子も無く路地裏を歩き始めた。
思わず追いかけようと思ったが、そのまま追いかけた場合、先程の人さらいと変わらないのじゃないかと、咄嗟の衝動を押し留める。
一瞬目を放すともう居なかった、せめて名前だけでも聞いておくべきだったかと後悔するが、隠れ住んで居る様な口ぶりだったので、恐らく名前を知って居たとしても追いかけられないだろうと、自分の不甲斐無さを誤魔化す。
もう一度出会えることを信じて、今日は諦めよう、ふと最後の言葉を思い出す、もう一度求婚してくれと? もしかしたら脈があるのかも知れない。
ふつふつと喜びも沸いて来る、街に来て早々可愛い娘と出会えた上、求婚して完全に振られた訳では無いのなら上々だと思う事にしよう。
先ずはその前にちゃんとした仕事を、出稼ぎ農家男子としては一番稼ぎが多いと言われる、この町の正規兵の試験を合格しなくては。
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