第2話 通りすがりの
「酷いな・・・何だこりゃ・・・」
街の様相は酷い物だった、特に名産も無い小さな村だったのだが、略奪で、皆殺しの上、火でも着けられたのか、其れなりに整っていた村並みは見る影も無い、死んで居る面々の様子を見る限り、装備に統一感が無い、自警団と、略奪に回った傭兵団の小競り合いで、皆殺しにされた類か?
この血で血を洗う時代、傭兵でも正規軍でも、ほぼ野盗と変わらない状態で、小さな村を襲って補給するのも良くある話なのだが、まさかこんなところまで襲われるとは思わなかった、今日は久しぶりに山から下りて、食材やら生活用品の調達がてら気分転換に食堂の飯でも食べて、山で作った炭やら焼き物だのを売るのが予定だったのだが、明らかにそんな状態では無い。
「しっかし、この傭兵共は馬鹿なのか? 皆殺しの上に火を着けて回ってどうする? 次回襲うにしても稼ぎが減るだろうに・・・・」
略奪にも作法と言う物は有る、脅して言う事を聞かせるなら、見せしめに数人、戦う物は多少大げさに殺すかもしれないが、働き手を減らしてしまっては次の略奪、もとい収穫が立ち行かない、細く長く奪うのが基本だ、下手に大々的に略奪を働くと、その集落の所属する国から正規軍が飛んで来る、だと言うのにこの雑な動きは何なのか、別の国に攻め入ったは良いが、弾かれて、腹いせに目一杯暴れて嫌がらせをすると言う類だろうか?
国力を減らすため、隣国から地味な嫌がらせの為に傭兵を雇って破壊と略奪をしている類か?
まあ、そんな事を考えても、人里から離れ、山に住んでいる世捨て人な自分にはあまり関係が無い話ではあるのだが・・・
「で、何だこの魔力は?」
暴れ回る魔力の渦を感じる、魔力持ちは一般的では無いこの世界でも魔女やら魔法使いの類は居る、最近は魔女狩りや何やらが色々怖いので、自分は魔女である嫁と山にこもって居るのだが、因みに、自分は魔法の類は使えない、永く一緒に居るので魔力の流れが多少解る程度だ、其の流れを辿って行く。
「中心は、あっちか?」
すっかり無人の廃墟と成った寂しい風景を進む、顔見知り程度とは言え。それなりに長い付き合いの面々の死体が転がっている状態と言うのは良い気はしない。
「後で埋葬やらなにやら手伝わんとな・・・」
手伝う相手がいるかも分からない状態にげんなりする、最悪自分一人で埋葬する事に成るだろうか?
物音に耳を澄まし、物陰に目を凝らし、腰の剣を何時でも抜ける状態にして進む、遠くの魔力の渦の中心で、男達の騒ぐ声が聞こえるが、どんどん数を減らしていき、いつの間にか声は聞こえなくなった。
現場に到着した頃には、動く者は何も無かった、周囲にある物は、折り重なる様な夥しい男女の死体だった。
「何が有ったんだ?」
殺し合ったのは判るが、殺した犯人が見つからない、折り重なる死体の山の一番上、最後に倒れた者が一番傷が多い、まともに考えれば一番先に死んで居る様な、全身に剣やら槍やら矢からを受けて居る様な者が一番最後だ、一方、下の方で死んで居る者からまだ血が流れて居る。
「順番がめちゃくちゃだ・・・」
考えてもしょうがないが、余計な物ばかり目が行く。
「結局この魔力か?」
すっかり落ち着いてしまった魔力の流れを辿る。
「この娘か?」
顔見知り、行きつけの食堂の看板娘だ、傷だらけでは有るが、まだ息は有る、魔力の残滓を感じるので、どうやら、魔力はこの娘で間違いないらしい。
周囲を見渡すが、他に生存者の類が見つからない、少女の真新しい手の傷に布を巻き圧迫止血で簡易的に手当てをする、少女の手には、折れた剣の切っ先が握られていた、恐らくは、この少女が戦った証だ、指が千切れるほどに握りしめたまま固まって居たので、指を解くのに苦労した。
埋葬やら何やらをしたいのだが、先にこの指を手当てしないと後で困るだろう、下手すれば腐るし、腐らなくても壊死してしまう、先に一度山の中の家に帰って妻に手当てを手伝ってもらって、後始末はその後か。
歩きでは数時間かかるが、走れば1時間ほどだ、先ずはこの娘を助けよう。
覚悟を決め、少女を担ぎ、気合を入れて走り出した。
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