LONG LOVE LETTER

小川三四郎

満足な家庭

あの頃の僕も充実していた


才色兼備な妻

僕如きには勿体ないと、さんざん仲間に揶揄されたものだ

稼ぐのに使わない、華美な物は求めない、滅多に出かけず、無駄遣いは皆無、道徳的できれい好き、子供の世話も熱心で、僕のくだらない冗談にも付き合ってくれる

唯一難を言えば、作る料理が独創的な事くらいだが、これ以上を望むのであれば罰が当たるだろう

完璧な妻


素直で元気な子供が二人

不幸にも兄弟揃って、顔は僕の方に似てしまったが、それ故何の疑いもなく僕の子だと証明できる

最近はそうでもないが、少し前までは僕の良き遊び相手だった

遊びに関しては僕に一日の長がある

したがって子供たちは僕を尊敬し、僕の言葉を遊びに関しては勿論の事、到底面白いとは思えない学業に於いてさえ、実践してくれている


特別に贅沢な暮らしではないけど、毎年の家族旅行やカレンダーに沿った年中行事を楽しく行う、絵に書いたような円満な家族だ

まあ子供達もそこそこ育ったので、行動を共にする機会は減ってきたが、相変わらず円満な家族である事に変わりはない


妻との関係も流石に結婚当初のボリュームは保てていないが、比較的会話の絶えない夫婦で健康の為のウォーキングなどを一緒に取り組んでみたり、子供達との時間が減った分は夫婦の時間が多くなってきて、お互いの意思の疎通もしっかりできている

これはこれで理想の家族なのだろう


僕の仕事は時間に追われる事はなく、比較的毎日早い時間に帰宅できる

そもそも酒に弱いので、会社帰りに急遽飲みに行くことなど殆どない

家に早く帰り、趣味である料理をして作品をブログに上げるのが僕の趣味

料理が不得手な妻からすれば、こんなに都合のいい趣味を持っている夫はいないのだ

妻は僕の作った料理を必ず褒めてくれる

褒められれば伸びる単純な人間が僕なので、今ではちょっと自慢できるような腕前だ


このようにつつましくもバランスの取れた幸せな家族に囲まれて、僕の日常は充実している


勿論、仕事についても充実していて、ある程度の信頼を会社の仲間から得ている

元来、いい顔をする質なので、頼まれれば引き受けてしまう

何故か今の部署はとても水があっていて、皆が不得手にするような案件についても、結構上手く対処できてしまう、こういうのを天職と言うのだろう


酒は弱いが、職場の輪は大切にしているので、たまには飲みに行く

頻度としては二月に1回くらいだろうか

突発的な飲み会は粗ない


僕の部署は一部の人間を除いては出入りが多いので、頻繁に歓送迎会がある

当然そういう催しには一応参加するが、元来人見知りなので一次会終わりにはすぐ帰宅するのが僕のいつもの行動

団体行動は苦手だ


そんな平穏な日々を過ごしていた僕が、いつからか少しづつ毒に侵され、気づいた時には全身にまわってしまい、自分ではどうしようもなくなっていた


毒に侵されたのは、いつなのだろう?


改めて、いつ矢に射られたのかを順を追って思い出してみようと思う





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