第217話 ひょっとこ剣士

ロイケブクでは、深夜に変なお面を着けた剣士が、盗賊と戦っていると真しやかに囁かれていた。


ギルド内でもその噂で持ちきりだ。


「昨日、変なお面の剣士が走って行くのを見たよ!」

「口がタコの様に飛び出て、片目が大きいあのお面か?」

「そうそう、ダサいよなぁ」

「恥ずかしく無いのかねぇ」

「マサイタ発のうどん屋で、盗賊が倒れてたんだって……」

「紺の上下の奴らか?」

「そうそう」


その噂をギルドの酒場で聞いていた俺達。


「ひょっとこ剣士が、大人気じゃねえか」


俺はおかめのお面を着けた剣聖ルイに言う。


「うぅ……、恥ずかしい……」


俯くルイ。


「さて、ロイケブクにいる暗部の草が、『青の盗賊』の動向の監視を順調にこなせる様になったので、俺達はダンジョンに潜るよ」


「え! は、はい……」


ルイはちょっと驚くが頷いた。


「まあ、オカメはひょっとこ剣士で、盗賊退治に精を出してくれ」


「承知しました……」


「自信無さげだねー」


ブラックジャガー獣人のノワが、ルイの頬っぺたを人差し指でツンツンする。


「はふぅ」


「オカメも俺達に同行して、レベルがかなり上がっているから大丈夫だろう。頑張れ」


「は、はい……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺達はロイケブクのダンジョンに向かった。


ロイケブクのダンジョンは強固な建物の中にある。核シェルターの様に分厚い鉄筋コンクリートに固められたトーチカの様な建造物。

その周り人口芝を敷き詰めた空間。更にその周りを高い城壁で囲み街中にある。


街の中に刑務所がある様に周りの風景と一線を画す。


城壁には鉄の門があり、ダンジョンに入る冒険者達が列を作り並んでいた。


俺はアイテムボックスから3つのお面を取り出した。


鬼のお面と般若のお面と狐のお面だ。

おかめ、ひょっとこのお面と同様に認識阻害の魔法を発動する魔道具だ。


俺が鬼のお面、リンは般若のお面、ノワが狐のお面を着けた。


列の最後尾に並ぶ俺達は、無言で列が進むのにあわせて進む。


そして、門の前に来た。


「はい、次の人ぉ、冒険者証を見せてねー」


門番に冒険者証の提示を求められた俺は、魔王の手甲を装着した右手に拳を握る。


バギッ!


「あぅ!」


俺は右手の裏拳を門番のこめかみに叩きつけた。


「ひぃ、いだい、いだい、いだいよぉ」


踞りこめかみを押さえて泣き出す門番。痛さ100倍だからねぇ。


「どうしたぁ」


速過ぎる俺の裏拳が見えなかったのか、訳が分からずもう一人の門番が倒れた門番に駆け寄り、両肩を押さえて顔を除く。


はぁ、門番として、これでいいのか?

不審者にやられ放題だぞ。


「悪いなぁ、恨むならギルド長を恨むんだな」


俺は駆け寄った門番に声を掛けた。


「え?」


俺に振り向いた門番の顔を、上から右拳で叩き落とした。


ドゴッ!


「ぐへっ」


門番達は並んで蹲り呻いている。


「なんだなんだ!」

「門番が倒されたぞ」


騒ぎ出す冒険者達。

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