第176話 冒険者ノハダ

「露払いのゴブリン達と、何者かが争っているでござる」


暫く森を進むとゴブリンキングのゴブマルが、そんな事を言いだした。


「何! 『袈裟懸け』は私の獲物だ!」


剣聖ルイが前方に走って行く。


「『袈裟懸け』とは言ってないよなぁ、まあ、急ぐか」


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「何だ! てめぇ、ゴブリンとつるんでるのかぁ!」


「煩い! ゴブリン退治はギルドで認めていないはずだ!」


キン!キン!


剣と剣がぶつかる音がする。


剣聖ルイと冒険者が争っており、周りで傷付いたゴブリン達が見守っていた。


ルイは本気でやって無さそうだが、簡単に制圧出来ないところを見ると、なかなか腕の良い冒険者の様だ。


男は角刈りの偉丈夫、革の鎧を身に付けて、大剣を器用に振り回す。


「待て! 俺はタクミだ。俺達はギルドの依頼で来ている。邪魔をされるのは困るぞ」


ルイから飛び退き剣を納めると男はこちらを見た。


「俺はノハダだ。パーティーの仲間の仇、『袈裟懸け』を殺しに来た」


「ん? 『袈裟懸け』討伐の依頼は俺達が受注している。依頼も受けて無いのに横から討伐の邪魔をされたくないなぁ」


「何! 俺も同行させてくれ!」


「断る! 仲間の仇なら、何故、討伐を受けなかった?」


「俺はAランク冒険者パーティーの一人だったが、個人ではBランクの為、依頼を受ける資格が無かった。一緒に依頼を受けるパーティーを探したが、誰も受けてくれなかったので、個人で依頼を受けず討伐しに来た」


「1人か?」


「いや、後2人仲間がいる」


「ふーん、何れにしろ、ゴブリンを傷付けようとしたヤツと共闘する気はない」


「くっ、分かった。勝手にやらせてもらう」


ノハダはそう言うと走り去った。


「ゴブリン達は怪我をしている様だな」

ゴブリン達は、浅く斬られた傷があった。


「大した事はありません」


「リン回復してやれ」


「はい」


ジャイアントハーフの聖騎士リンは、ゴブリン達を回復した。


「ありがとうございました。何をしにここに来たのか聞こうとしたら、いきなり斬り掛かって来たのです」


「そうか。気を付けるんだよ」


「はっ! 勿体無いお言葉に痛み入ります」


「よし、探索を再開しよう」


「「「「「御意」」」」」


暫く探索を続けると。


大きな物音と鳴き声がした。


「クアアアアアアア」

ズガッ!!


遠目に3人の冒険者と戦う5mぐらいある巨大な赤茶けた毛の熊がいた。


2本足で立ち上がり吠える熊のモンスターには、胸間から背中に弓状の白斑がある。


袈裟懸けだ。


戦っているのは、ノハダと2人の男。


大剣で斬り掛かるか、ノハダの大剣は袈裟懸けには、通じていない。


「あああああ!私の獲物だあああああ!」


ルイが走り出した。


「おいおい、慌てるなよぉ」


袈裟懸けの爪がノハダの隣の男を貫いた。


「ラカマクぅ! 大丈夫かぁ!」


「ぐぅ、くそぉ!」


グシャ!!


ノハダの仲間ラカマクは、袈裟懸けに頭を喰われた──。

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