第48話 第三王子レクの護衛達

マヒロシ王国の第三王子レクに随行する全身鎧の男達が、武器を抜き1歩前に出て身構えた。


「ふん。覚悟しな!」

けものどもに肩入れしたのが運の尽きだな。」

「女達はなかなか可愛いじゃないか。後で楽しませて貰うぞ。」

「レク殿下の命令なのでな。」

「悪く思うなよ。」


悪く思うよ。殺されそうになってるのに、許せる訳ないじゃん。


しかもリンとノワに手を出すって!

益々許せんな。


「リン、ノワ、ここは俺に任せろ。」


「は、はい。」

不本意そうなリン。


「はーい。」

信じ切って心配してないノワ。


俺は1歩前に出た、左右の手には魔王の手甲。


冒険者ギルド内にいた冒険者達は、俺達を囲むように見入り、固唾を飲む。


「でやあああああ!」

剣を振り翳し踏み込む男。


俺も踏み込み、振り降ろす剣を持つ手首を左手で掴み握り潰す。


「ぎゃああ!」


左手を引きながら右拳で全身鎧の顔を撃ち抜く。


ガコン!ベコン!


全身鎧の兜が凹み顔が挟まっている様だ。


「ぐあああ!いでええええええ!」

転げ回る男。


刹那の出来事に唖然とする男達。


男は何とか兜を外そうとするが、手首が折られて、兜も変形して外せない。

「ああああああああ。」


それを見て目を見開き驚愕の男達。

「ひぃ。」

「鉄製の兜が凹んだぞ!」

「信じられない。」

「お前行け。」

「お前が行け。」

恐怖から戦う気力が無くなり、隣の男を急かしている。


「どけ、儂が行く。」

先程リンを攻撃した腕の立ちそうな男が、1歩前に進んで来た。


八双に構える。


踏みこんでの袈裟斬り。

踏み込みが速く、手首を持てそうも無い。


俺は斬られる瞬間、左前に半歩進み躱すと共に、左拳で持ち手を殴り続けて

右拳で顔に渾身の一撃。


「つうっ!」

男の右手は骨折し剣を落とす。


ガコッ!


全身鎧の面が割れる。


初老の髭面の顔があらわれる、額から血が流れている。


頬に傷のある幾多のいくさを潜り抜けてきた、歴戦の猛者の面構えが、驚愕の顔で目を見開く。


男はもんどり打って倒れた。


俺は男に馬乗りになり、左右の魔王の手甲でひたすら殴りつけた。


男は初めは両手で顔を庇っていたが、両手を殴られると、両手が折れて手が上がらなくなり、顔に拳が打ち込まれる。


ドカッ!

「止めろ!」

バコッ!

「つうっ。」

ガコッ!

「グッ。」

バキッ!

「ぐふっ。」

ゴンッ!

「ひっ。」

ドゴッ!

「ひゃ、ひゃめてええ。」

ドスッ!

「ひゃすけて・・・。」


痛さ百倍の魔王の手甲で心をへし折られ、無様ぶざまに許しを請う男。


「しゅいましぇん。ひゅるして、しゅいましぇん・・・。」


顔は腫れ上がりまともに発音も出来ず、唯々謝り続ける。


歴戦の猛者である第三王子レクの護衛隊長が、壊れていくさまを呆然と見詰める護衛隊の男達とレク。


強く厳しく何者にも恐れない、強さの象徴が崩れていく。


俺は無言で殴り続ける。


誰も声を出せず、静まり返るギルドの1階で、男を殴る音と許しを請う声だけが聞こえる。


そんな中で堪らずレクが叫ぶ。

「止めろ!」


「次はお前か?」

俺はレクを向いて睨み、ドスの効いた低い声で脅す。


「ひ、ひぃ。や、止めて下さい。」

俺に睨まれて恐怖に震え涙目のレク。


白目をむいて、口から泡を吹き、小声で謝り続ける護衛隊長の上から立ち上がり、レク達の前にゆっくり歩いていく。


護衛隊長の血で両手の手甲は赤黒く染まっている。


俺の両手に目を遣り怯えるレク達。


俺が1歩進む度に1歩退く。


持っていた武器は床に捨てて、両手を上げている。


「おい!次はお前か?」

俺が指を差すと、指を差された男は、腰を抜かして首を振る。


「ひ、ひぃ。」


「次は誰だ!」

俺が叫ぶとレクと護衛達は、一斉にしゃがみ込み平伏した。


「すいません。許して下さい。」

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