第88話 恋の話 三十一
「そ、それは…。」
僕は平沢さんの話を、黙って注意深く聴いていた。
そしてその話を終えた後…、僕の口からはそんな言葉にならない言葉しか出てこない。
「今この瞬間も、平沢さんは感情を持っていない、ってことですか?」
「それは私には何とも言えません。もしかしたらもう私の中には―、」
「そ、それは…、今まで平沢さんと僕が過ごしてきた時間も、平沢さんにとってはただの電気信号の羅列だった、ってことですか…?」
「いえ、断言できます。それは違い―、」
「そ、それは…!」
平沢さんは何かを言おうとしていたのだろう。しかし僕は、こんな時バカな僕はそれを遮ってしまう。
「では、僕の感情は…、一方通行だった、ってことでしょうか?」
…僕は本当にそんなことを思っている?平沢さんの存在を否定しようとしているのだろうか?
それはよく考えてみれば、自分の本心とは反対のことだろう。
しかし僕は…、その「本心」に反して、平沢さんを傷つけてしまう。
「では、あなたの笑顔も、全て偽物だったってことですよね?」
「それは―、」
「僕、先に帰りますね。」
平沢さんの言葉を、今日のこの瞬間で何度遮っただろう。そして最後の「遮り」の後僕は、自分の家への方向に向かって思いっきり走り出す。
それは、平沢さんを置いて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます