第74話 恋の話 十七

 「お待たせしました。中野さん。」

「いえ、大丈夫ですよ。」

その日の平沢さんは、厚手のコートの下に水色のカーディガンを着ていた。

 「今日は水色のカーディガンなんですね。

もしかして水族館に合わせてですか?」

僕はそう冗談のつもりで言ったのだが、

「いえそういうわけでは。あり合わせといった所でしょうか。」

と平沢さんが真面目に答えるので、

「いや今のは冗談のつもりだったのですが…。すみません。」

「あ、そうですか。

 すみませんいらぬ気遣いをさせてしまいました。」

平沢さんはそう答える。

 「いえいえ大丈夫ですよ。」

「本当ですか?」

「はい…。」

「今のはその、私も冗談のつもりで言った、のですが。」

「ああそうでしたかすみません。」

そう言い合い2人は笑う。

 そしてその平沢さんの笑顔はとてもかわいらしくて。

 「前にも言ったかもしれませんが、平沢さん、あんまり笑わないですよね。

 でも笑った時の顔、素敵だと思います!」

言ったそばから恥ずかしくなる言葉を僕は平沢さんに言う。

 「あ…今のはその、何かすみません。」

「どうして謝るのですか?

 ありがとうございます。素直に嬉しいです。」

平沢さんにそう言われ、僕は救われた。

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