第61話 恋の話 四

 「ヴィトゲンシュタインは、どちらかというと人間の心的なものに関しては否定的だったように考えられます。でも、僕の考えは少し違います。確かにヴィトゲンシュタインは偉大な哲学者ですが、僕は人間の感情、心には言語だけでは測れないものがあると考えています。

 それは前に説明したクオリアとも通じる考え方だと僕は思っています。そのクオリアはどんな人間にも共通のもので、例えば日本語と英語など言葉が違っても、その部分が共通していれば通じ合えるものだと考えています。

 また僕は人間の内的なものの存在を肯定している立場なので、ヴィトゲンシュタインの支持する行動主義とは少し違った考え方ですね。」

 「そうですか。分かりました。」

その時、平沢さんが少し悲しそうな表情をしたのは、気のせいだろうか。

 …いや本当に気のせいなのか?前にも、僕が哲学の話をした時に、同じような表情を平沢さんは見せたような…。

 それは一瞬の表情の動き、いわゆる心的なもので描写するならほんの少しの心の揺らぎかもしれない。

 それに僕は心的なものの研究は好きだが人の心を読むのははっきり言って下手だ。だからそれは、僕の思い過ごし…?

 …なら気にすることはないのだが。

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