第6話 バカな考えと無責任な言葉

 私、何かした?


 最近、クラスメイトの西くんとの関係が良くない。理由はわからない。でも確実に言えることは"織姫と別れた"ことに関係してるということ。


 放課後、私は恋人の帯人と一緒にファミレスで晩ご飯を食べていた。


「陣?いや表面上は変わらないぞ」


 帯人と西くんは親友と言ってもいい間柄。


 その帯人とは変わらないってことは私に原因があるってこと?でも西くんを怒らせるようなことした覚えはないんだよね。


「じゃあ私が嫌われただけなのかな〜」


 泣き言を言いながらテーブルに突っ伏す。


 西くんが織姫と別れた翌朝、私と帯人は前日の2人の様子をお互いに話した。


「……そこまでバカだったのか」


 私の話を聞いた帯人の反応はごく当たり前の反応だと思い、逆に帯人の話を聞いた私は西くんに同情した。


♢♢♢♢♢


「織姫、説明してくれるんだよね?」


 織姫が佐々木くんと手を繋いで帰るという衝撃映像を見た後、帯人は西くんの家に行き、私は織姫の家を訪ねた。


「説明って?」


 私の言葉を聞いた織姫は頭をコテンと傾けてわからないとでも言いたげだった。


「はぁ、あのね?なんで佐々木くんと仲良く手繋いで帰ってるわけ?西くんとは別れたとでも言うの?」


 気がつけば私は両手でテーブルをバンと叩きつけていた。そのせいで織姫が持ってきてくれた紅茶が少し溢れてしまった。


「あ〜、そのことね。うん、陣とはとりあえず別れたよ」


 やっぱりね。


 でなければあんなに堂々と手繋いで帰らないよね。それより気になることが。


「とりあえず?」


 織姫からは気になるワードが飛び出した。


「うん」


 意を決したように織姫は口を開いた。


「私たちって小さい頃から一緒でね?それこそ家族同然の付き合いなのね。だから一緒にいるのはすっごく落ち着くの」


 そうだろうね。それにしてもイチャイチャし過ぎだと思うけどね?


「もちろん陣のことは大好きだし、将来的には結婚したいと思ってる。と、いうより陣以外と結婚なんて考えられないよ」


 いつもは呆れる惚気話も今日は苦にならない。


「じゃあなんで別れたの?言ってることとやってることが矛盾してるよ?」


 別れる必要ないよね?倦怠期?年がら年中イチャイチャしてるあんたたちには皆無でしょ?


「だって私たち恋人同士なのにドキドキとかハラハラって感じがないんだもん。そりゃ嫉妬くらいはするよ?でも陣だよ?絶対に私が悲しむようなことしないもん。だから恋人としてはお互いダメだと思うのね?」


「???」


 安心できるのが一番じゃないの?私なんて顔や態度には出さないようにしてるけど帯人が他の女の子と喋ってるの見ると気が気じゃないよ?


「それでね、陣に飽きられる前に陣をドキドキハラハラさせられる魅力を手に入れるには男の子の気持ちがわからないとダメじゃないかなって。だからね男バレのみんなにお願いして順番に付き合ってもらってるの。そうやって男の子のことがわかるように—」


「ストップ!西くん以外の男の子のことを理解する必要ある?西くんのことだけわかれば十分じゃない?それにそんなことして西くんが喜ぶと思う?」


「えっ?」


 織姫が固まり押し黙る。


「あんたがそれを必要だと思ったなら仕方ないよ。でもそれを西くんに相談した?別れる必要あったの?」


 前から織姫には少し残念なところがあるのは知っていた。でもそれは可愛げのある範囲でのこと。まさかここまでぶっ飛んだことをするとは思わなかった。


「だって別れないと他の人と付き合えないよ」


 その常識はあったのね。


「西くんと別れてまでして他のどうでもいい男子と付き合いたかったの?」


「そうじゃないけど、それが将来的には陣のためになるんだもん」


 それは理解できないよ。


「一度手放した西くんが織姫のところに戻ってくると思ってるの?自分勝手な思い込みで傷つけたんだよ?それに、フリーになった気づかい上手な西くんに他の女子が黙ってると思ってるなら甘いと思うよ?」


 そう、西くんはモテるのだ。


 なんでって?それは彼がすごく気遣いできる人だから。


 きっと彼女持ちの余裕からなんだろうけど、女の子に対して下心なく優しくしてくれるから。私だって帯人がいなければ……、いなければ?いなければ何?


「うっ、陣がモテるのは知ってるよ。それでも陣は私のところに—」


「どうかな?少なくとも他に彼女ができたら戻ってくることはないよ。だって、西くんはそんな不誠実なことしないと思うから」


 身体をブルブルと震わせ出した織姫はやっと事態を把握できたのだろう。その表情には焦りの色が浮かんでいる。


「ど、どうしよう?私そんなこと全然考えてなかった」


 今更どうにかできるとは思うないけど、織姫に出来ることは


「誠実に謝るしかないと思うよ。許してくれる……とは正直思えないけど、謝らなきゃダメだよ」


「……だよね」


「まずは佐々木くんと別れて西くんに謝らなきゃね」


♢♢♢♢♢


 織姫と話した翌朝、私はいつも通り自分の席に座り前の席の西くんの背中をトントンと叩いて「おはよう」と声を掛けた。


 いつもなら振り向いて「おはよう」と返してくれてから他愛のない話をするんだけど、今日はチラッとこちらを見ただけですぐに前を向いてしまった。


「あれっ?」


 その反応に戸惑ってるうちに先生が来てしまい話す機会を失ってしまった。一度失ったタイミングはなかなか戻すことが出来ずにその日は結局、西くんと話す機会がなかった。



「う〜ん。特に陣を怒らすようなことはしてなさそうだな。昨日はどうだったんだ?昼まではいたんだから朝は普通に話したんだろ?」


「うん」


 私は朝の西くんとの会話を思い出していた。


 朝の織姫とのイチャイチャを茶化してから鈍感な西くんを褒めて……


「あっ」


 不意に思い出した私が無責任に言った言葉


「なにか思い出したか?」


「これしか思い出せない。私ね朝、西くんに織姫にフラれたらどうなるんだろうねって言っちゃった」


 これ以外思い浮かばない。

帯人も顎を手で押さえて考えている。


「俺が電話したとき、陣は朱音に聞けって言ってたな。ひょっとしてあいつ、京極と朱音がグルだって勘違いしてるんじゃないか?たまたま朱音の言った言葉がフラグ立っちゃったもんだから変に話が繋がったんだろう」


 とんだ濡れ衣だ。


 でも私が言った何気ない一言が誤解を招いたことは紛れもない事実だ。


「どうする?俺から誤解を解いておこうか?」


 帯人が真剣な表情で見つめてくる。


「ありがとう。でも私が無責任に言ったことが原因なら私が責任もたなきゃ。ちゃんと誤解を解いてみせるから帯人は待っててね」


 帯人は真剣な表情を緩め、優しく微笑んでくれた。


「がんばれよ」


 大丈夫だよ。西くん優しいもん。

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