異世界キャバクラ
だびで
第1話 異世界キャバクラ1 全2
やれやれ、不景気な世の中だね。
都会から離れて、地方にちょっと顔出すと、ほらこれだ。
金がねえ。家が建たない。仕事がねえ。ビール一杯六〇〇円? ぼったくってんじゃねえよ。焼き鳥がなんで一本三〇〇円もするんだよ。
たっか! 何本も頼めない……。
地方じ、ちびちび飲むしかない。
ああ、都会が恋しいわ。さっさと大江戸線に乗り換えてえぜ。
やれやれだ。
でもまあ、「失われた三十年」ってのは、もうすぐ終わると思うんだよね。
それはもちろん、日本人がすごい、だとか、日本の文化がどうこう、とか、そういうこっちゃないんだよね。
外国のおかげ?
まあそれに近いかもしれないが、外国のおかげだけってわけでもないと思うぜ。
要は、いかに外国とうまく付き合えるか……。
〝穴(ホール)〟
がよ――。繋がってやがるんだ。
その〝穴(ホール)”ってやつは、何もSF的な時空間の穴って感じでもないらしいぜ。
ファンタジー的な不思議なトンネルってやつなのかもな。
正直俺も研究者じゃないんで、詳しいことは知らない、知ったとしてどうこうってこともないな。
まあ、話のネタくらいにはなるかもしらんが、正直、どうでもいいこと……。
十数年前に、この〝穴〟(ホール)が開いたときは、俺はまだ小学生だった。
何かにつけ生意気なことを言うクソガキだったよ。
今とそんなに変わんねえかね。
〝穴〟については、なんだかニュースとか、大人たちが大騒ぎしてるってことくらいしか、理解できていなかったよ。
それに、大概田舎だったからな。
大都会の中心に空いた変な〝穴〟のことなんて、遠い国の出来事くらいにしか思えなかったってのもあるかもな。
〝穴〟は、ある日、いきなり――唐突に、なんの前触れもなく、ふいに、ぽっかり、開いちまったらしいぜ。
なんか、最初は、世界的に大変な出来事だって学校の先生も言ってた気がする。
ニュースじゃ連日総理大臣だとか偉そうな人が出てたし。まあ俺ってあんまりニュース見ないんだけど。
小学生だったから尚更。
ローマとかのお偉い神父様も、これは神のお告げだと騒いだとか騒いでないとか。
俺、ガキだったからよくわかんなかったし、当時のこともそんなハッキリとは覚えてねえけどさ。
なんか、自衛隊とかも出動したらしい。
戦車とか、何十台も〝穴(ホール)〟に向かってったってよ。
〝穴〟は地上に空いた小さいトンネルだったから、戦闘機とかの空軍関係、海上自衛隊の出る幕はなかっただろうなって思うぜ。陸上自衛隊だよ、陸上自衛隊。〝緊急出動〟っていうらしいんだけどよ。
日本は第二次世界大戦以降、戦争はしないって約束をしたのは、知ってるよな? 常識だもんな。
日本で、知らねえやつはいねえよ。
でも〝緊急出動〟ってのは……〝戦争に類する事態に対処する〟ためにあるらしいってことを、俺もチラッと聞いたのよ。
本当かどうか、知らねえけどよ。
要するに。十年くらい前、日本国内で、戦争が起こった。
〝穴〟を中心地として、こっちの戦力と、〝異世界〟の戦力が、正面からぶつかったんだ。
それはそれは熾烈を極めたって話だぜ。
そして――。俺は今から、その〝穴〟(ホール)――かつての戦場に、向かってる。
と言っても、もう戦争の爪痕なんてものは、今じゃあんまり見られないね。
その戦争もすぐ終結したし。
正直、いきなり〝穴〟が開いたもんだから、お互いに、ただビックリして、ちょっと神経質になっただけだったんじゃねえのって、今になって、あとの世代の俺なんかは楽観的に考えるのよ。
だって――こんなに平和じゃん?
俺は、電車で向かっている。
奥多摩方面から鈍行つまり各駅停車でガタンゴトン、って揺られて。
中央線の特別快速に乗れたから。新宿まであっという間だったぜ。まあウトウトしてて気づいたら新宿だったってだけの話なんだけど……。
つまり寝てたわけだ。あっぶねえ。
慌てて降りたぜ。
乗り過ごしてたら四谷まで行ってしまうところだった。
四谷には大江戸線は通ってないからよ。ちっと乗り換えが面倒くさくなっちまうところだったのよ。
最悪、終電を逃しちまうってこともあり得たわけで…。
あいつを夜一人にするのもちょっと心配だし……。
え、なに? 一人暮らしじゃないのかって?
まあ一人暮らしのほうが気楽だってのは俺も否定しない。いいよな一人暮らし。オナラこき放題。
でもまあ、俺にもいろいろあるのさ。諸事情ってやつがね。
今はもうちょっと一人暮らしはできないね。
何よりアイツを一人にしておけねえってことがあってね。
ちょっと困ってるのが半分ってのもあるし、まあ当分このままでもいいんじゃねえのって気もしないでもないけど。
そいつは友達かって?
恋人で、同棲中ってことかって?
さぁてね。どっちかっていうと恋人と同棲中ってことになるんじゃねえの。
知らねえけど。
どんな女かって?
ハーフの子だよ。外国人のハーフ? まあそうなるかな。どこの国の人? 異世界人だよ。
海の向こうの人じゃなくてね。
俺が今乗り換えた大江戸線の先のほうにいる子だよ。
ここ、元から地下鉄っていうのもあるんだけど、一部だけ、途中で長いトンネルに入るのよ。普通のトンネルじゃない。
でもそういう普通のトンネルじゃないわけよ。
だってそれだったら別に特筆したりしねえよ。
するわけないよな。おっ、そろそろだ。窓の外を見る。
ほらね?
何回見ても見とれてしまう。
どうなってんだ、これ。
ちょっと、キレイだよな、これ。この光。蛍の群れっていうか、星空の渦っていうかよ。光と闇のコントラスト、好きだぜ、俺は。
ああ、世界が変わるって気がするよ。
そう言えば、言い忘れたよな。
俺の同棲相手、ハーフエルフなんだ。
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