番外編 夫に猫を被るワケ②
呆気なく終わった結婚式の次は王都にあるベルツ=ファーレン公爵家に移っての祝宴だ。
何人かは気分が悪いと言って欠席になったそうだが、参加した者たちは一様に口が重い。他の方でも気分が悪くなってしまった者もいるのではないかとアイリシアは心配になった。
本日の祝宴の主役は公爵家のホールの一段高い中央に並んで座っている。祝いの席に来た招待客を見渡せる位置となる。そこで眺めていると、やはり出席者の顔色は悪い。
目の前に並べられた料理は被り物をしている間は食べることができないので、手付かずで並べられているが、招待客も同様に料理に手を付ける者が少ない。
時折、挨拶に来る者もいるが一言、二言で戻ってしまう。会話がまったく弾まないのだ。やはり、体調に問題があるのでは。
離れた場所にいるジルクリフの家族も心配そうな表情をしている。これは早々にお開きにしたほうがいいに違いない。なぜか、自分の両親は楽しそうにしているが。
ファン=ベルケン公爵夫妻はにこやかに料理を平らげていた。ソースは何だの隠し味はどうだのと給仕係を捕まえて楽しそうだ。
ひと様の家であまり勝手なことをしないでほしい。恥ずかしくなりつつ、ジルクリフの方へと顔を動かす。
「どうした?」
「召し上がられないのですか?」
先ほどからジルクリフの前の食事も減っていないのだ。もしかして同じように体調が悪いのだろうか。だが、ジルクリフの口からは感無量といいたげな様子で言葉を返された。
「ああ、なんだか気持ちがいっぱいで…」
「…わかります」
アイリシアも今日の結婚式が嬉しくて、胸がいっぱいで朝に少し食べた程度なのに今まで全くお腹が減らないのだ。
ジルクリフも自分と同じ気持ちかと思うと嬉しくなる。
結婚した夫婦は似てくるというけれど、自分たちはすでにこんなに心が通じ合っている。思わずふふふ、と笑い声が漏れたが彼には聞こえなかっただろうか。
「そろそろお時間でございます」
アイリシアが家から連れてきた傍付きの侍女のメイリアがそっとアイリシアに声をかけた。彼女は自分の幼いときからついてくれた侍女だ。まだ二十代でジルクリフとそう年は変わらない。艶やかな茶色の髪と琥珀色の瞳をしている。
この結婚が決まった時もすぐに一緒にきてくれると言ってくれた。
信頼している彼女に、こうして呼ばれるのは少し気恥しくもある。
花嫁は早めに退席する。
そして夜に向けての支度を始める。
これから、彼との初めての夜がやってくるのだ。
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