57:せっかく妖精と友達になったのだから歓迎しよう【桜SIDE】


 水色の妖精を拾った私とリリスはすぐに学校に戻ることにした。フックの森で蜂蜜集めに没頭していたローズにその子を見せるためだ。ローズは水色の子を見せるなり、難しい顔をする。そして第一声。


「悪魔の仕業ネ」

「!」


 私とリリスは顔を見合わせた。ローズがその子にそっと触れると、木漏れ日のような優しい光が篭もってくる。そうすると、周りにいた妖精達が水色の子に集まってきた。十数人の彼らに包まれ、さらに光が増す。そうして……しばらくすると、彼らは離れていった。ローズの手に乗せられた水色の子の傷がいつの間にか癒えているではないか。


「ローズ、この子は、」

「えぇ。もう大丈夫ネ。だけど呪いがかけられているみたい。おそらくだけど、その悪魔に関する秘密を話すことが出来ないようになってるネ」

「つ、つまりこの子は悪魔に関する何かを知ってしまったということ?」

「おそらくそうなるけれど……」


 そこで、水色の子が目を覚ました。そうしてローズを見るなり、ぱちくりと瞬きを繰り返す。みるみるうちに顔が青くなっていった。


『ふぇ、妖精女王様!! も、申し訳ございません! 一妖精ごときが貴女の尊いお手で気を失うなど!!』

「かまいません。それよりアナタの容態が心配です。どこか痛みや不快感はありませんか?」

『えぇ。どういうわけか傷が癒えており……はっ! も、もしかして妖精女王様が癒してくれたのですか?! あ、ありがとうございます!!』

「お礼を言うならワタシのところにアナタを連れてきたサクラに言うといいわ」


 妖精女王らしく威厳のある声だった。私はそんなローズの一面を新鮮に思いつつ、水色の子に微笑む。


「こんにちは。初めまして。私はサクラ」

「あ……貴女が、私を助けてくださった……! ありがとうございますサクラ。貴女は私の恩人です」


 水色の子が、私の眼前でくるりと舞い、恭しく礼をした。その様子はとても麗しく、気品がある。

 それにしてもこの子、どこかで見たような、見てないような……。

 するとそこでローズが水色の子を見て、目を丸くした。


「あら、貴女。どこか森の妖精と雰囲気が違うと思ったら、契約者持ちの子ネ!」

「え? つまり誰か人間と契約してるってこと……?」


 水色の子の小さな身体が揺れる。どこか目を泳がせて、居心地が悪そうにしていた。もしかしたら、その契約者の名前も悪魔の呪いによって言えないのかもしれない。少しだけ泣きそうになっている彼女に私の手の平を足場にしてあげると、彼女はキョトンと私を見上げた。


「無理に話さなくていいよ。貴女にそういう呪いがかかっているのは分かってるから」

「あ、ありがとうございます。……サクラは、優しいのですね……」

「ふふん! アナタもサクラの事気に入ったの? でも駄目よ、サクラはワタシの契約者なのですから!」


 ローズが私を後ろから抱きしめる。私は背中にたわわな果実の感触を感じつつ、苦笑した。水色の子はそんなローズの言葉にポカンとしている。


「妖精女王様が、人間と契約なさっているのですか……?」

「うん、結構強引な契約だったけれどね」

「アラ、言ったでしょう。ワタシは欲しいものはなんでも手に入れる主義だって。それにしてもアナタは身寄りがないのでしょう? 事情は分からないけれど、ひとまずこのフックの森で身を隠しているといいわ」

「あ、はい。それはありがたいのですが……」


 水色の子は私とリリスの制服をじっと見つめる。私達はそんな彼女に首を傾げた。


「どうしたの?」

「……。……いえ、その……サクラに、いえ、サクラ様に無理を承知でお願いしたいことがあります」


 水色の子が私に懇願するような瞳を向ける。その必死さがどこか気にかかった。


「私を、どうか貴女のお傍に置いてくださいませんか? お願いします、どうか……」

「!」


 私はどう言おうか迷った。しかしその間に、ローズの私を抱きしめる力が倍に強くなる。首が折れてしまいそう。


「サクラ、アナタ……とんだ妖精タラシのようね……!」

「えぇ!? ど、どうして怒ってるのローズ!? い、痛い痛い! この子、そういう意味で言ってないから!」


 私は慌ててローズの腕から離れた。そうして首を摩りながら、水色の子を見つめる。不安そうに瞳を揺らす彼女の力になってあげたいのは私の本心だ。だから……。


「──うん。いいよ。貴女は貴女なりの考えがあって、私の傍にいたいんだよね。別に私も困るものじゃないし、貴女のお願いを受け入れるよ。それに何かあれば私もローズも貴女の力になりたいと思ってるから気軽に話してね」

「! ……ありがとう、ございます……!! 本当に、ありがとうございます!!」


 水色の子がにこっと微笑んで、私に再度頭を下げた。

 とりあえずこの子の呼び方が「水色の子」のままでは呼びづらいので、リリスの提案で「マリン」という即興の名前をつけることにした。マリンは既に誰かと契約しているので、私と彼女がこれで契約することはないそうだ。彼女の事情は分からないけれど、いつか彼女が困った時、力になってあげたいな……。

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