55 せっかく側近候補と仲良くなったのだから力になりたい。【蓮SIDE】

 俺と魔族狩りの男達は突然のオディオの行動に唖然とするしかない。そうしている間にもオディオはリーダー格の男を苦しめ続けていた。

 そこでふと、俺はオディオの頭上に黒い何かを見つける。よく見るとそれは黒い布を身に纏った妖精であった。オディオが契約している妖精は確か水属性。しかし今頭上にいる妖精はどちらかというと悪魔みたいな闇のオーラを醸し出している……ように見える。一体どういうことだと眉を顰めた。


「お前ラみたいな金に目の眩んだ悪党サエいなかったら……は今でも幸せにいられただろうに……!! 魔族はお前らの金づるなんかジャナイ……。腹立たしい、心底腹立たしい……っっ!! お前ナンカ、消えてしまえばイイ!!」

「ぐ、ごぽぽっ……!!」

「! オディオ先輩!」


 ──そうだ、黒い妖精に気を取られている場合ではなかった! 今すぐにオディオを止めなくては!


 オディオは我を忘れている。必死に身体を揺すったが、動じる気配すらない。俺は仕方ないと、オディオの頬を思いきり殴る。すると男が水の手から解放され、酸素を必死に体内に取り込み始めた。俺は魔族狩りの男達に叫ぶ。


「おいお前ら! 死にたくなかったらさっさと逃げろ! もう二度とここに入ってくるな! あと魔族狩りなんて馬鹿なことにももう手を出すなよ!」

「ひ、ひぃいいいいいいっ……!」


 男達は俺の言葉にブンブン首を縦に振ると、武器や荷物を捨てて逃げていった。俺はそれを見届け、今にも男達の後を追いかけようと足掻くオディオを地面に押さえつける。暴れるオディオは白目を剥いており、「うぅううう」と悪魔のように唸っていた。俺は怖くて堪らなかったが、必死にオディオの名を呼び続ける。


「オディオ先輩、オディオ先輩! しっかりしてください!」

「あいつら、あいつらさえ、イナケレバ……!!」

「──オディオ先輩!!」


 気づけばボロボロ泣いていた。もう二度と、正常なオディオに会えないような気がしてならなかった。怖い怖い怖い。でも、諦めるわけにもいかない。俺はオディオの頭部を思いきり抱きしめた。「抑える」から「宥める」にシフトチェンジしたのだ。無理矢理抑えようとするから余計暴れてしまうのかもしれない。

 

「オディオ先輩、もうあいつらはいません、大丈夫ですから……」

「う、うぅぅううう……!!」

「ここにはもう、俺しかいませんから……オディオ先輩……!!」

「……っ、う……」


 ゆっくりゆっくり、オディオの頭を撫でる。しばらくそうしていると、オディオの声と動きが明らかに大人しくなってきた。もう馬乗りにならなくても大丈夫そうだと判断し、そのままオディオの身体を俺の下半身に乗せて、片腕で抱いた頭をなで続ける。オディオ先輩の声がやっと静まった時には、オディオは俺の胸にぐりぐり頬を擦り付けて泣いていた。


「……う、うぅ……僕を、独りに、しないでくれ……姉さん、ビルゴ……っ」

「! ……独りなんかじゃありませんよ。少なくとも今は、俺がいますから……大丈夫、大丈夫……」


 姉さん。ビルゴ。オディオはその二人をずっと呼び続けている。きっと、何か過去にあったんだろう。レックス同様、俺の知らない悲しいもんをこいつも背負っていたんだな。できることなら力になってあげたいけどよ。


 魔族の子供達と遊んでいる時の無邪気なオディオの笑顔を思い浮かべながら、俺はただただオディオの頭を撫で続ける。一応周りを見回したものの、先程オディオの頭上にいた黒い妖精は姿を消していた……。

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