48 せっかく対人魔法学の授業なのにペアの相手が嫌すぎる。【蓮SIDE】


 対人魔法学。対魔魔法学は魔物に対する魔法を使った戦闘方法を学ぶ授業に対して、対人魔法学の対戦対象は人間とされている。一学期ではこの対人魔法学は必修科目だったものの、二学期では選択科目になり、より実践的な内容になっているとのこと。

 対人魔法学の授業を担当するのは侍をイメージしたキャラクターデザインのギンゾウ先生だ。ときファンのサブイベントでチラッと出てきたことがあるからなんとなく見覚えがあった。

 

「──故に、この二学期の授業は拙者がクジで決めたペアで基本過ごしてもらう。一学期で教えた基本的な型をより身に沁みさせることが目的でござる。拙者の持論であるが、魔法に頼りすぎるな! もし己の契約妖精に何か起こった場合、己の身を守るのは己の身体のみ!」


 対人魔法学の授業は魔法を使った戦闘というよりも、前世の体育……空手や柔道などの武道の授業に相当する。しかも授業が行われる場所はエボルシオン学園第一グラウンド、つまりは外だ。いかにも貴族の坊ちゃん達が気に入らなさそうな授業であるだけに、この授業は不人気。俺は桜を守るためにもこの授業が自分に必要だと思ったので選択した。この授業を受ける知った顔はレックス、デュナミス、後は──あのいけ好かない眼鏡野郎のオディオがいる。選択科目はどの学年でも選択可能だからオディオがいてもおかしくはない。

 ──おかしくはないのだが。


「どうしてこうなった!」

「…………」


 ギンゾウ先生の決めたペアの相手は最悪だった。なんとそのオディオだったのだ。周りがさっそくペア同士で自己紹介している中、俺とオディオはお互い睨み合っていた。


「──奇遇ですねレン君。かの大魔女マドレーヌの弟子と手合わせできるなんて光栄です」

「ははは。俺もですオディオ先輩。これから一学期よろしくお願いします」


 向こうが手を力いっぱい握りしめてきたので、俺もひくりと笑いながら同じくらいの力で握り返す。ぎぎぎ、と繋がれた腕が震えた。


「いやはや、実に申し訳ありませんねぇ、貴方のだ~いすきなレックス殿下ではなくて。流石婚約者というべきか、ずっと殿下の傍に侍っておられるようで? 羨ましい限りですねぇ」

「いやいや、何度も言ってますが俺はレックス様の婚約者ではありません。それに謝りたいのはこちらですよ。すみませんね、俺が可愛い女の子じゃなくて! さぞオディオ先輩はがっかりなさったことでしょう……」


 女性を弄ぶ最低眼鏡野郎! そういう気持ちを込めて俺がそういうと、オディオの顔もひくひく引きつっていた。するとそこでギンゾウ先生が「では簡単な手合わせから行ってみよう!」と声を上げる。その瞬間、『槍よ!』という鋭い呪文が俺の鼓膜を揺らした。迫ってきた水の槍をほぼ反射で避ける。


「なるほど。流石レックス殿下の犬というだけあって、勘はいいですね」

「あ、あぶねぇ……! と、突然何するんだ!」

「言葉が崩れていますよレン君。言いましたよね? 僕は先輩だと。さぁ手合わせをしますよ。準備をしてください」

「っ、」


 そっちがその気ならやってやろうじゃねぇか……。俺は髪に忍ばせていた妖精を呼んだ。まぁ俺が忍ばせていなくても大体妖精達が勝手に髪やらポケットやらに隠れているんだけどな。


「おーい、今大丈夫かお前ら?」

『うん。レン危ない。ならレン守る~』

『あの人間なんか気に食わない~ぼくたちレンの味方!』


 頼もしい小さな友人達の言葉に俺は「ありがとう!」と心からお礼を言った。後でこいつらが大好きなクッキーでも作ってやらないとな。えっと……今日俺に付いてきてくれた妖精は……オディオと同じ水属性と……土属性か! 俺は水の妖精と土の妖精に俺の作戦を伝えた。二人はにっこりそれを了承してくれる。


『──じゃあ頼む! 水の妖精! あの眼鏡に水の槍をプレゼントしてやってくれ!』

「!」

『りょうかーい!』


 水の妖精が俺のお願い通り水の槍を形成し、オディオにぶつける。しかしオディオはそれをあっさり避けた。しかしここがチャンスだ! 土の妖精が俺の伝えた作戦通り、オディオの足下の地面を盛り上がらせる。足場が不安定になったオディオは勿論尻餅をついた。その隙にもう一度水の槍! オディオの澄ました顔が歪む。俺は二人の妖精とハイタッチをした。


「ありがとなお前ら! 俺達の勝利だ!」

『わーい!』


 これはちょっとした小技というかズルであり、本当は勝利とはいいがたい。普通の人間は一つの属性の妖精としか契約できないんだし。でもこれで少しスッキリした。俺はオディオに手を差し伸べる。オディオはそんな俺の手を払い、自分で立ち上がった。濡れた眼鏡を外し、前髪を掻き上げるオディオに周りから感嘆の声が上がる。くっ、やはりここは攻略対象キャラ! 動作がいちいちイケメンすぎる!


「ふん、やけに呪文が長いかと思えば。貴方は呪文めいれいで妖精を縛らず、〝お願い〟して魔力を借りているというのは本当なのですね」

「! そうだ。俺はこいつらの契約者じゃないからな。友達に何かを頼むときはお願いするもんだろ?」

「……妖精は友達、ですか」


 オディオは俺をじっと見つめる。な、なんだよ。もしかしてこいつも「妖精が友達なんてありえない」とかいって鼻で笑ってくるタイプか? もしそうだったら、さらに俺の中のこいつの好感度が下がるな。しかしオディオの反応は意外にも──


 ──どこか感心したように、口角を上げていた。純粋に好意的な笑みだ。


 俺は思わず固まる。初めてオディオのこんな穏やかな表情を見た気がした。……もしかしたらこいつ、意外に悪いやつじゃ──


 その時。俺の顔に洪水が起こった。そのまま驚いて後ろに倒れた俺は慌てて目元を拭う。そしてすぐにオディオを見上げた。オディオの顔は先程と打って変わって、まるでRPGゲームの魔王のように不気味な笑みを浮かべているではないか! いや、それ攻略対象キャラの笑顔じゃねぇぞ!? 


「ははは、隙アリィ! 何度言っても礼儀を覚えないその頭にちょっとは効くといいのですが。……ねぇ、レン君?」

「~~~~~~っ!」


 俺とオディオはその後、ギンゾウ先生の止めが入るまでひたすら攻防を繰り返していた。男と男の激しい戦いだ。


 ……しかし同じ授業を受けていたデュナミス曰く「後半はまるで子供の取っ組み合いみたいになっていた」という──。




***

カクヨムコン応募受付締め切りまでもうすぐですね。

それまでにあと一話更新できたらなぁ……。執筆に戻ります。

皆さまのおかげでカクヨムコン恋愛部門ランキング八位になってました。

まぁBLと百合がごっちゃになっている作品なので書籍化は難しいでしょうが、小さい頃からの夢へ向けて希望を捨てずに書き続けてみようかと思います。

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