34 せっかく兄を助ける方法があったのだからそれを掴みとる。【桜SIDE】


「契約するに決まってる! だから、蓮を助けて」

『ん~! 最高のお返事ネ! いいわ。でも先払いが先よ。サクラ、私に名前をつけて』


 名前? ……そうか、妖精との契約には名前をつけてあげないといけないんだった。しかし意外にも私の頭に一つの名前がパッと浮かぶ。その名前は私の心に深く刻みつけられたものだ。この世界で、私と蓮を繋げてくれた大切な人。


「──ローズ。貴女には、私の亡き母の名前をあげる!」

『!! ふふ、契約完了ね。それじゃあ、ぱぱっと雑魚を片付けちゃいましょう! サクラも来るでしょう?』

「勿論!」


 するとローズが爆発する。……というかローズから不自然な煙が発生したというべきなのだろうか。煙の中からデュナミスにも匹敵するほどの美女が現れる。豊満な胸に、絹のような白い髪が私の手を誘惑する。思わず触りたくなってしまう。


「小人の姿だとサクラを運びにくいものね。どう? 人間になってみました! サクラの好みかしら?」

「そ、そういうのどうでもいいから早く蓮を助けに行こう!」

「むぅ。そういうこと言われるのはワタシ心外でーす!」


 ぷいっと拗ねるローズに私は目頭を押さえた。まじまじとローズを観察する。ここはどこか褒める必要があるのだろう。しかし私の視線はつい丁度目の前にある二つの果実にしか目がいかない。……いや、これは不可抗力だと思うけど。


「……胸。胸がおっきくて好きだよ私は」

「!」


 いや、流石に安直すぎた? 瞳の色とか髪の色とか褒めるべきだったかな。というか、なんか私がめっちゃスケベみたいな雰囲気になってない!? いやだって大きいのボンボンってあったらそっちに目がいくじゃん!!

 するとその魅惑の果実が私を窒息させにかかる。


「やーん! サクラってエッチなのね! でもワタシはそういう素直な子大好きネ! 私の名前もお母様の名前だっていうし、サクラって意外に母性を求めてたりするの? ママって呼んでもいいわよ?」

「ぶぉっ! ちょ! 胸! 胸で息できない!! いいからローズ、早く!!」


 ローズは今度こそ「オーケー。任せて」と私にウインクしてくれた。そうして私の脇に腕を回すと、凄い勢いで空を駆ける。次の瞬間には宙を浮かんでいた私はジェットコースターに乗っているかのように絶叫するしかない。


「飛ばすわよサクラ! 幸いあの悪魔はまだこの森で獲物を探してるみたいネ!」

「お、おおぉおおけぇぇええ!!!」


 木々をテクニカルに避けていくローズ。だけど私にとっては今にも顔面に木が直撃しそうで前なんか見てられない! 絶叫系っていうよりこれは恐怖系ホラーだよ! 


「──みぃつけたっ! サクラ、投げるわよ!」

「え!? なんで!?」


 私はどういうわけか上に投げられる。あとはそのまま重力に従って、下に落ちるだけだ。嘘ぉ!?!? ローズが木の幹に足を踏み込み、今まで飛ばしたスピードの行先を強引に変えた。そうして私よりも一歩先に地面に到着すると、そのまま落ちてきた私をお姫様だっこで受け止める。私の心臓が「死ぬかと思った!」と暴れている。私もだよ。


「馬鹿! どうしてこんな回りくどい着地するかな!?」

「だってその方がカッコイイでしょ? ヒーローの到着はカッコつけないと! それよりサクラ、アレを」


 私は「あっ!」と声を出す。ローズが指さした先にいたのは先ほどの煙みたいな身体ではなく、ちゃんと人型に実体化したあの悪魔と──デュナミスだったのだ!

 あの野郎!! 私の親友にまで手を出すつもり?!! 私はその時、ブチッと頭の中で何かが切れた。

 足が考えるより先に動く。


「──蓮をかえせぇぇえええええええっっ!!」


 茂みから強引に飛び出し、私はギョッとこちらを見る悪魔に掴みかかった! 

 全体重を乗せ、今度は私が馬乗りして首を絞めてやる。絶対許さんこいつ!!


「蓮を返せ蓮を返せ蓮をかえせクソ悪魔ぁああああああああああ!!」

「ひっ、ひぃっ!? 悪魔!?」

「悪魔はお前だっ!!」


 怒り狂う私にデュナミスがキョトンとしている。しかしこの状況を説明している暇はない。

 私はローズにアイコンタクトする。


「はぁーい。この妖精女王フェアリークイーンにまっかせて! えいっ!」


 ローズが指をぱっちん鳴らすと近くに生えていた木々の根が悪魔をがっちり拘束した。悪魔が悲鳴を上げる。私は家にゴキブリが出てきた時の表情で悪魔を見下ろした。悪魔はそんな私に身体を震わせる。


「ひぃいいいいっ! た、た、助けてくれ!!」

「いいよ。なら蓮を出して」

「レン!? あぁ、あの小僧のナマエか!? そ、それは無理ダ! 既に俺の魂の中にトケコンデ──」

「ハーイ! ワタシの主の前で嘘はいけませんネ! まだあなたの中にちゃんとサクラのお兄さんいるわよね? 魂が悪魔と融合するには時間がかかるのは分かってるのよ。悪い子はお仕置きデース!」

「ぶほぉっ!?!?」


 ローズの手の平が勢いよく悪魔の顔面を吹っ飛ばした。これには私もびっくりである。さっきから薄々思ってたけど、この妖精女王意外に武闘派なのでは? まぁ、スッキリしたからいいけどさ。


「では、今からサクラの大事な人をこの悪魔から取り出すわね!」

「うん。お願い、ローズ」

「ひ、ひぃいいいいいっ!? ま、マテ!! は、はは話せばワカル!」

「うふふ。ウジ虫が喋っちゃ駄目よ? あなたみたいなカスごときが私のサクラと何を話すのかしらね」


 ローズはそう言って、女神みたいな笑顔で悪魔の口の中に腕をごっそり入れた。悪魔が暴れ出す。しかし木の根がしっかり彼の身体を抑えているので問題はない。意味のない叫びを上げる悪魔。ちょっと可哀想だと思ってしまったが、蓮を殺そうとしたのだから止める義理もないだろう。ローズは「ここにもないわね~ここにも~あ、こっちかしら~」と(何度も言うが)美しい笑顔で悪魔の体内を漁っていた。ちょっとグロテスク。


 ……うん、悪魔はローズに任せておけばよさそう!



***

七万字突破。あと四日であと三万字。頑張る。次の更新は日付変わったくらいに。

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