02 せっかくまた双子で生まれたのに辛すぎる。
俺は咆哮を上げた。上げ続けた。腹の痛みと、妹を守れなかった自分への憎悪から。
しかし俺の叫びはいつの間にか、随分と可愛らしいものになっていることに気づいたのだ。
「ほぎゃあああっ、ほぎゃあああっ!」
これは──赤ん坊の声だ。しかもそれは自分の喉から発せられている。
その時、日本のネット世界にて英才教育を受けていた俺はすぐに自分の今の状況を理解した。
──え、俺、今、転生したの……?
短い首を必死に動かして、桜を探す。桜もきっと俺と一緒に死んだはずだ。なら、きっと──。
しかしさくらはいない。俺は一瞬絶望したが──
「うぅ、うぅぅうっ、」
──俺を今産んだであろう母親が、未だに踏ん張っていることに気づいた!
きっと桜だ。桜がまだこの人の中にいるんだ!
俺は必死に叫んだ。
「うう、うぅうううっ、あぁぁっぁ!!! 痛い痛い痛いぃいい……っっ」
「ほぎゃああああ!! ほぎゃあああああ!!」
産婆らしき女性が俺を覗きこんで「元気すぎる子ね」と若干引いているが気にしない。
桜が頑張っているんだ。兄である俺が応援しなくてどうする。
頑張れ桜! 踏ん張れ桜! クソ生意気な俺の妹よ! どうか、どうか頼む……。
──もう一度、お前に会わせてくれ……。
そんな俺の悲願が叶ったのか、ようやく母親の下半身から血だらけの猿が出てきた。
俺の隣に並べられたそいつはほぎゃあほぎゃあと泣いてうるさいし、不細工である。でも、俺はきっとコイツ以上に愛おしい存在を知らない。
「あくあ……」
「ほぎゃあ、ほぎゃああああっ!」
泣いている妹の手をそっと握った。指が動いたかどうかも分からんが、握ったつもりだ。妹はそんな俺の手を払いのけた上に、俺の頬に拳を埋めやがった。そして明らかに俺を認識し、指差してこう言ったのだ。
「えんー」
「!」
俺はこの時理解した。桜も前世の記憶があるということに。
桜に向かって頷く。アイコンタクトが完全に成立したため、確信に変わった。
よかった。
身体の力が一気に抜けた。俺はもう一度、桜が俺の妹になってくれたことに安堵したのだ。
しかし産婆の声で状況は一変する。
「ローズさん、ローズさんしっかり!!!」
「「!?」」
「うぅう、」
慌てて見るとたった今俺達を出産したこの世界の母さんがとても弱弱しかった。一度でも動かなくなったら、そのまま永遠に目を覚ましてくれないような儚さを感じる。
母さんはそっと俺と桜を見ると、震える腕を伸ばした。
「ごめ、んね……私は、もう、生きられな、いの……」
冷たい。母さんの手先に初めて触れたというのに冷たかった。
俺はすぐに母さんの指にしがみついた。まだ一瞬しか話せてないが、この人はたった今俺と桜を産んでくれた恩人だ。諦めないでくれと、目で訴えた。
桜も俺と同じようにしている。俺達二人は一心に母さんを見つめていた。母さんはそんな俺達にポロポロと涙を流す。
「うぅ、ごめ、んさい……父親も、母親も、いないなんて……! あなた達には、これから沢山苦労をかけるわ。それなのに、私はあなた達を産んでしまった……私は、私は……!!」
「あう! あうう!」
「!」
俺は強く否定するように声を上げた。そして桜の腹をバシバシと叩き、自分の柔らかい胸をぽんぽんと叩く。
桜には俺がいる。余計な心配すんなよ母さん。俺達は大丈夫だ! だから、産んでしまったなんて言うなよ。
そう伝えたかった。
母さんは目を大きく見開かせた後、やっぱりまた泣いた。そしてそのすぐ後、幸せそうに俺達二人を撫で続け──息絶える。
産婆達の会話から、この俺達の母親の名前はローズというらしい。その名前は絶対に忘れない。俺はそう誓ったのだった……。
後にこれまた産婆達の会話から分かったことだが、俺と桜は最初からローズさんの師匠である人の家に引き取られる手筈になっていたようだった。しかもその人はどうやら随分と凄い人らしい。
よくわからんが、桜さえいるのならば今はどうでもいいと思った。
言葉はまだ話せないものの、桜の手だけは俺は絶対に離さなかった。
しかしそうしているうちに出産の疲れからか、俺は眠くて眠くて仕方なくなって、意識を手放してしまった……。
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