捨てられ剣士と雑貨屋の呪われ女主人
草沢一臨
(一)幼馴染という枷
マルガレラ王国の王都マーレーン。
身分格差はあるものの、比較的安定した治安と、美しい街並みと質実剛健といった感のある王城に定評がある。
近隣の村や町を荒らしまわった盗賊を討伐し、王都に戻って来た五人組はギルドで討伐報酬を受け取ると外に出た。
彼らのうち三人はかなり名の知れた冒険者でもある。
「アルフェリオ、有難う! 貴方のおかげで何度も命拾いしたし、おかげで妹の治療費が貯まったよ!」
少女は何度も頭を下げた。
アルフェリオと呼ばれた男は穏やかな笑顔でそれに応える。
「良かったな、ルルーア……。これでやっと田舎に帰れるな。田舎までついてってやりたいが、次の仕事が有ってどうも無理そうだ」
「ううん、気にしなくていいよ。妹が治ったら戻って来るから……。この恩は必ず返すから……。絶対に返すから! それまで独身で居てね!」
「何だよ、それ……」
悪戯っぽい笑みを浮かべるルルーナに苦笑いで応える。
「ふふ……。じゃあ、またね皆さん!」
手を振りながら遠ざかるルルーナを残った四人が見送る。
「さて、私もこの辺で。また縁が有れば、一緒にお願いしますよ」
「ああ、メルビットさん。またそのうちに」
紳士を絵に描いたような男は、優雅に一礼すると残った三人に別れを告げて去って行った。
残されたのは幼馴染三人。
アルフェリオと、マリエル、ゼガータ。同じ街の出身で、苦楽を共にしてきた仲間でもある。
「俺は、買い出しに行ってくる。二人は先に戻っていてくれ」
「あ、私も要るものが有るから、一緒に行くよ」
先に歩き出したアルフェリオの後を追うようにマリエルが駆け寄る。そんな二人の姿をゼガータは苦々しげに見ると、フンと鼻を鳴らして背を向けた。
「買う物があるなら、言ってくれれば俺が買ってきたのに。先に宿で休んでいれば良かっただろう?」
「……うん、そうなんだけど。最近ゼガータと一緒に居るのが怖くて……。二人だけはちょっと耐えられそうにないの」
そう言ってマリエルは肩を震わせた。
アルフェリオも似たような感覚を抱いていたが、まさかマリエルにまで同じような態度をとり続けていたとは思っていなかった。
アルフェリオとゼガータは従兄弟同士ということもあり、今までうまくやってきたのだが、最近は描く未来の方向性の違いから微妙なズレが生じてきていた。
三人以外の誰かが居れば、ゼガータは仮面を被ったように善人の顔で居る。その裏にある冷酷さのようなものに気付いたのは、大きく意見が衝突した時からだった。
「大々的に名を売って英雄のような存在になるべきだ。そうすればやがて王家からも認められ、栄華を手に入れることができるはずだ」
「本気か……?」
「ああ、本気だとも!」
酒場で発したゼガータの言葉に、アルフェリオは眉をひそめた。
彼の子供の頃の「英雄になる」という言葉も、絵本などの英雄譚への憧れから口にするものだとばかり思っていた。今にして思えば、それは出世欲や承認欲求の表れだったのかもしれない。
この時マリエルは何も口にしなかったが、笑顔を取り繕う口元が引きつっていた事をアルフェリオは覚えている。
元々アルフェリオとマリエルは気ままに穏やかに生きていければ良かった。冒険者になったのも親の援助なしに生きていくため、生活資金を得るのに手っ取り早かったからに過ぎない。
マリエルの心境もアルフェリオと同じだったという事だろう。
だが意見が食い違ったとしても、ゼガータ自身が幼い頃から恋慕していた相手でもある、マリエルへ向ける目までが変わるとは思っていなかった。
「別の場所で二人でやっていこうか……」
人気のない道、マリエルはボソリとつぶやいた。それは諦め。
アルフェリオは落ち込んだようにうつむくマリエルの頭をポンと軽く叩き、そして優しく撫でた。
「そうだな、次の仕事が終わったらまた旅に出ようか」
「うん!」
幼馴染という枷から解き放たれ、マリエルが晴れやかな笑顔を浮かべた瞬間だった。
「あぐっ……」
うめき声をあげたマリエルの左胸を、背後から一本の矢が貫いていた。
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