エピローグ
昼休憩も終わり、とある一室にて国王、メイド、騎士団団長、魔王と魔王に抱きかかえられたイリスが集まっていた。
「まず我から提案がある」
「提案?」
「ああ、我の魔族の国とお主らの人族の国とで平和条約を結ぶのだ」
「魔族と人で平和条約……」
「我は戦う気はないからな。それにメリットもある。魔族の魔法技術と人族の工業や農業の技術を交換するのだ。そうすれば、どちらの国も今まで以上に発展するだろう。他にも魔物の対策に集中できる」
「なるほど、確かにいいな。お前らはどう思う?」
「いいと思うぜ」
「いいと思います」
「いいんじゃないですか」
「好きにしてください」
「それなら平和条約を結ぼう」
魔族と人族が平和条約を結ぶことが決まった。
それから多くのことを話し合った。条約を結んだことをどう国民に伝えるか。国民の前で条約を結ぶならいつ、どこでやるか。条約の詳しい内容。抜け目なく話し合った。
まず、条約はアートルド王国の国民の前で、国王と魔王が結びそれを映像投射魔法を用いて、魔族の国や他の人族の国の国民に生放送で伝える。そうすることで同時に誤報なく人族と魔族の友好関係を発表することができる。
そして、条約締結の日は2ヶ月後の正午。公表はその1週間前となった。それまでに条約についてや今後についてきちんと、話し合わなければいけないため、これからはどちらの国も大忙しとなるだろう。しかし今後のためならと苦労は惜しまないつもりでいる両者であった。ちょうど魔王やイリスは転移魔法を使えるので移動時間の短縮は願ってもいないことだった。
初日の会議ではあらかた決まったため解散されることとなった。皆が席を立ち、魔王は転移魔法を発動しようとしたとき――
「魔王殿! 少し私事で話したいことがある。少し待ってくれないだろうか」
――国王が止めた。何か私事で話したいことがあるらしい。
「お主らは先に帰ってくれ」
国王は魔王と二人きりになり、暫し沈黙が流れる。
「それで話しとは?」
「ああ、実は――」
「――儂は魔王殿に一目惚れした。どうか儂と付き合ってくれんか!?」
「…………え?」
またもや沈黙が流れる。魔王が呆然としている。魔王の反応から見るに今まで告白されたことがないのだろう。反応が初々しい。
「陛下!! 魔王殿に一目惚れとはどういうことですか!」
「陛下、ご乱心! イリス! 回復魔法を!」
「『
どうやらイリス達は先に帰らずに聞き耳を立てていたらしい。国王の言葉を聞くや否や、扉を勢いよく開け放ち部屋に入ってくる。
そして、『
「おい、お前ら、さっきの聞いておったのか?」
「「「「はい」」」」
「うっ……」
国王は恥ずかしさのあまり照れて俯いてしまった。
「それで、アーリャ。返事はなんですか。アーリャ?」
「………………」
魔王は思考が停止していた。なので――
「……えい」
バチンッ!
「……はっ!? お、お師匠様!? 我は何を……そうじゃ、国王殿に告白されて……ッッ!!」
思い出したことでまた恥ずかしがる。魔王は乙女だった。
乙女な魔王――矛盾しているようでしていない不思議な言葉。
「で、アーリャは国王のことをどう思ってるんですか?」
「え、いや、仕事熱心でかっこいいな、と」
「国王はアーリャのどこに惚れたんですか?」
「全部だ」
「もう付き合えばいいんじゃないですか?」
「ま、待て! ……国王殿、我はまだお主のことはよく知らんし、お主も我のことをよく知らんだろう。返事は2週間後にしよう。気持ちが変わってなければ告白してくれ。我もそれまでに返事を決める。それでどうだ?」
「あ、ああ分かった。儂は、焦ってたのかも知れぬしな」
「はあ、このまま付き合えば良かったのに」
イリスが愚痴をこぼす。しかし、初対面でいきなり告白するのは時期尚早だったかもしれない。
そして国王のまさかの告白から2週間。 アートルド王国の会議室にて国王と魔王、イリスが仕事をしていた。メイドは側に控えている。仕事は十分に捗ったとは言えなかった。国王と魔王は常時そわそわしていた。そして互いをチラチラと見ていた。今夜、告白する予定だ。
チラチラ、そわそわ、チラチラ、そわそわ、チラチラ、そわそわ、チラチラ、そわそわ、チラチラ、そわそわ。
それに痺れを切らしたイリスが「チラチラ、そわそわいじかっしいわ! 仕事ができんだろうが! 仕事に集中しやがれ!」と、怒鳴っていた。ちなみにイリスの仕事というのは映像投射魔法を魔道具に付与することだ。余計、集中しないといけないのだ。そりゃあ怒りもするだろう。
それからというもの、チラチラ、そわそわの頻度は下がったがなくなったわけではない。しかし、それでも仕事を行なっている手は一切止まらず、仕事をこなしていた。さすが国王と魔王。
そんなこんなでその日の仕事も終わり、国王は魔王を王城の庭に呼び出す。
王城の庭はメイドの手により綺麗に装飾されており、魔道具によってライトアップもされていた。
そんな幻想的な庭のベンチに国王と魔王が座っている。近くの茂みにはアレク、ウルト、イリス、ミリナが潜んでいた。四人はイリスの魔法により姿形どころか存在も消えている。魔王でも集中しなければわからないだろう。しかし魔王は今、それどころではなかった。
「………………」
「………………」
二人の間に沈黙が流れる。しかしそろそろ気まずくなってきたところで――
「魔王殿、儂はあれからしっかり考えた。それで儂の答えは――」
その場にいる誰もが息を呑んだ。
「――儂は、魔王殿のことが好きだ。あの時から更に好きになった儂と付き合ってくれんか?」
「そうか……」
魔王の答えは――
「我もお主のことが好きだ。我もお主と付き合いたい」
「本当か?」
「ああ、我に二言はない」
「魔王殿!」
「アーリャ。そう呼んでくれ」
「アーリャ……勿論だ。それなら儂もエレスと呼んでくれ」
「分かった、エレス」
「アーリャ」
「エレス」
二人は互いの名前を言い合い、抱き合う。そしてキスをする。触れ合うだけのキスだ。しかしそれでも相当照れていた。
「一応おめでとうと言っておきましょうか」
「陛下、やっとですね。ですがこれからですよ、本番は」
「おめでとうございます、陛下」
「やはりおったのか、お主ら」
「そりゃいますよ。いないバカはいません」
「わざわざ見んでも良いじゃろ」
「え? だって面白いじゃないですか、こういうのって」
イリスは人の恋話が好きそうだ。というか大好物だ。
魔王と国王は正式に付き合うこととなった。もし、二人が結婚すれば、魔族と人族の平和の象徴となるだろう。
兎に角、魔王と国王は付き合うこととなった。
二人が付き合うことになってから1ヶ月と2週間。つまり条約締結の日。
国王達はこの日のためにとても頑張った。ものすごく頑張った。イリスと魔王に魔法をかけてもらって30徹もした。条約の内容、法の整備、魔族と人族の技術提供などなど。各国の国王や大臣とも話し合い平等な条約を決めた。
そして――
「それではこれより、魔族と人族の平和条約の締結を行います」
観衆の歓声が王都中に響く。この様子はイリスが作った魔道具により世界中に放送されている。
司会の紹介によりアートルド王国国王が人族の代表として登場し、ついで魔族の代表の魔王が登場する。歓声が爆発する。
国王と魔王の自己紹介も終わり、早速条約のサインに移る。両者がサインをしている時、観衆は静かだった。
そして、サインも書き終え――
「これにて魔族と人族の平和条約が締結されました」
またもや歓声が爆発する。
「静粛に。儂と魔王殿から一つ報告がある」
予定のないいきなりの報告に観衆は静かになる。
「儂、エレス・ハイドルフォン・アートルドと――」
「――我、アーリャ・リューハクースは――」
「「結婚します」」
「我はすでにエレスの子を宿しておる」
魔王はそう言い、自分のお腹を触る。
そんな事実を知らなかった他国の王はもちろん、観衆は皆、驚き声も出ない。そして、しばらくの時間が経ち観衆が声を上げる。
「陛下! おめでとうございます!」
「やっとですか、陛下!」
「陛下がご結婚なされた! 号外だ! 号外を出せ!」
平和条約締結より騒いでいた。どうやら国民も陛下はいつ結婚するのか気になっていたらしい。
「式はまた後日伝える。そして、新しい魔族に関する法律は明日伝える。しっかり守るように」
魔王と国王は一礼をして退場する。
それと同時にアレクとイリスが出てきて――
「陛下の後で言うのはなんだが……俺とイリスは結婚することになった。だからこれからもよろしく頼む!」
――結婚報告をした。
なぜ二人が結婚することになったのかと言うと、今から遡ること1ヶ月。ちょうど国王と魔王が付き合うことになってから2週間後のことだ。
「なあ、イリス。俺と付き合ってくれねえか?」
「え? 『
「いいか? 俺は正気だ。だから真顔で回復魔法をかけるな」
「そうなんですか? てっきりネジの外れていた頭が誤作動を起こしたかと思って回復魔法をかけたんですが」
「おい、誰が頭のネジが外れてるんだ? いいか? こっちは真剣に言ってんだ」
「冗談に決まってるじゃないですか」
「冗談かよ」
「まあ、付き合ってあげてもいいですよ?」
「そうだよな、俺なんか……えっ、いいの?」
「はい、いいですよ」
「えっ、マジ?」
「え、嫌なんですか?」
「嫌じゃない」
「ああ、一つだけ条件があります」
「条件?」
「結婚も構いませんが、勝手に死なないでくださいね。一人は寂しいですから」
「ああもちろんだ。何年ぐらいだ?」
「そうですね……最低でも200年ですかね」
「200年!? お前いくつまで生きるつもりだ!?」
「魔法で数百年でも数千年でも生きれますから。前世も数万年ほど生きましたし」
「数万年……マジかよ」
「私は満足いくまで魔法の研究をする予定なので」
こうしてアレクとイリスは付き合うこととなり、それから3週間後、アレクからのプロポーズで二人は結婚することになったのだ。
「おめでとう!」
「今日は祝え!」
「おめでたい日だ!」
ステージ裏では国王と魔王が驚いていた。実はアレクとイリス、誰にも言っていなかったのだ。場を借りるとだけ言い、ある意味サプライズだった。
こうしてこの日は、平和の日とともに国王と魔王の結婚の日、アレクとイリスの結婚の日となり、人々は皆、酒場などで翌朝まで騒いだという。
アートルド王国。
そこは魔王復活から早急に手を打ち、人類の平和を守った。
さらには国王が魔王を手籠にし関係を強固にした。それはまさに英雄とも言えよう。
その英雄の物語をここに残す。
そう伝説に残されたが、実際は勇者召喚を失敗しただけだが、その真実を知るものは数少ない。
異世界召喚NG集 和泉秋水 @ShutaCarina
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