Take 5
昨日と同じように慌ただしい朝の召喚の間。今日も勇者召喚が始まる。
各々の準備も終え後は召喚するだけとなった。
「『我、神に祈らん。我らが祖国を魔の手から守るための力を、我の手に。異界の勇者を時空を越えて、我らの救世主をここに喚ばん。我らが信ずる神の名の下に』――勇者召喚」
召喚の間が光に満たされる。
((((さあ、今度こそ成功してくれ))))
その場にいた誰もがそう願っていた。しかし、そう勇者召喚が上手くいくはずもなく、光が収まり召喚されたのは――
「「「「グギャァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」」
「「「「ぎゃあああああああ!!?? ま、魔物!!??」」」」
今回召喚されたのは、人ですらなく魔物だった。その数およそ数十。召喚の間に入りきれないためか一度ではなく連続して魔物が出てくる出てくる。パンドラの箱を開けちゃったみたいだ。
計800程の魔物が召喚された。
最前列にいた国王はアレクにより守られ、魔物による一撃は防がれた。
「お前ら! さっさと動け! 国王陛下をお守りしろ! 第一、第二部隊は陛下を安全なところに避難させ次第、魔物の殲滅だ! 他の部隊は魔物の殲滅だ!」
「「「「了解!!!!」」」」
「私たちは援護を! 第一、第二、第三、第四部隊は攻撃に移れ!」
「「「「了解です!!!!」」」」
「では私は早速、深淵魔法を――」
「お前それはやめろ! 全員殺す気か!」
召喚の間にいた騎士達は、二人の団長の声ですぐさま動き出す。
剣で魔物の首を落とす騎士。槍で魔物を突き刺す騎士。素手で魔物を粉砕する騎士。魔法で魔物を殺す魔法騎士。目にも止まらぬ速さで魔物を切り捨てていく
幸いと言うべきかその場には騎士達がいたので魔物による大きな被害は少なかった。十数分で一匹以外の魔物が殲滅された。騎士達は多少けが人がいたものの些細なことだ。実を言うと、けが人のほとんどはイリスの放った魔法の余波によるものだ。
「最後はあいつか。厄介だな」
「それなら私が超級魔法を――」
「やめろ王城が吹き飛ぶ」
最後の魔物は『魔物の森』と呼ばれる森に棲まう全長8メートルの狼、
遠距離攻撃が得意だからといって近づけば、鋭い爪と牙に殺される。まさに敵なし。故に「魔物の森』の絶対王者と呼ばれているのだが……十匹程度の群れで暮らしているため、この個体もその一匹だろう。
一匹だと一般兵ならば最低でも千人の被害がでるのに対し、群れで王都を襲われればすぐさま滅亡するだろう。
そんな魔物が王都に放たれれば……答えは考えるまでもない。
「ウルト! 送還は!」
「5秒だけ時間を稼いでくれれば出来ます!」
「5秒か……イリス、やるぞ」
「はぁい、疲れたんで早く終わらせましょう」
「お前は援護に回れ。隙があれば攻撃しろ。じゃあ、行くぞ。3……2……1……はああっ!」
アレクが大狼の背後に回り込み、攻撃を当てては離れを繰り返す。イリスは、アレクに補助魔法をかけたり大狼がアレクだけに集中しないように攻撃魔法を放つ。
その間、ウルトが送還の詠唱をする。
「アレクさん! 送還します!」
「おう!」
ウルトがそう言うや否やアレクは大狼から離れ、大狼のみが送還される。送還される瞬間、イリスは大狼に回復魔法をかけ、怪我を癒す。そうすることによって大狼の群れの怒りを抑えるのだ。イリスは意外と賢かった。それと魔法に関しては天才だった。普通ならたった一瞬で魔法の中でも難易度が高い回復魔法は発動できない。
3人の連携により無事、大狼を送還することに成功する。
安堵からかアレクとウルトは床に倒れ込む。
「おやおや、どうしたんですか倒れ込んで。たった5秒で疲れたんですか?」
「おいおいバカ言うなよ。あの殺気だぞ。死ぬかと思ったわ」
「大した殺気じゃなかったと思いますけど」
「お前、マジかよ」
「お二人とも、今回は本当に申し訳ありません。私のせいで」
「いいや、気にすんなって。今が無事ならそれでいいさ。それに部下の訓練にもちょうどよかったからな」
「久々に楽しめたので構いませんよ」
「ありがとうございます。そう言っていただけると助かります」
魔物の死体の片付けもあらかた終わり、国王が入ってくる。
「いやぁ、見事じゃった。さすがじゃ」
「陛下、この度は申し訳ありません」
「いや、アレクも言っておったじゃろう? よい訓練になったと、それならよいんじゃ」
「陛下……ありがとうございます」
「うむ。それにしても匂いがきついのじゃな。一部汚れておるし」
「すみません、時間さえあれば綺麗になるんですが」
清掃作業をしていた騎士が答える。
「なら私が綺麗にしましょうか?」
「できるのか? できるなら頼む」
「あれを使いましょうか。『
まるで時間が巻き戻ったように床の汚れや匂いが消えていく。事実、時間が戻っているのだろう。
突然、汚れや匂いが消え、戸惑う国王達。
「えっ、今何を」
副団長が聞く。
「ここの時間を戻しただけです」
「嘘、時間を戻すって、そんなことが。しかも無詠唱」
「そんなに普通じゃないのか?」
「当たり前です! 『
「ふっ、だから言ったでしょう、私は世界最高の魔術師だと」
イリスは本当に世界最高かもしれない。今はそれはさておいて――
「よし、では昼休憩を挟んでまたするか。ウルトよ、頼むぞ」
「はい、頑張ります」
今回の召喚も失敗したものの、騎士達の訓練の役に立ったので無駄ではなかっただろう。アレクとイリスはウルトに感謝していたほどだ。あのイリスがだ。
そして皆は昼休憩に入る。
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