リング・ザ・ベル!
元やすひろ
プロローグ
プロローグ
「――――」
何がが聞こえてくる。ぼんやりとした意識の中、その音は次第に大きくなっていく。それが大勢の人が叫ぶ声だとわかるのに少し時間がかかった。
「――――」
様々な感情が入り混じったその声を、まだはっきりと聞き取ることはできない。少しづつ五感が修復されていくにつれ、自分が今地面に這いつくばっている状態であることを理解した。
地面、と言ってもそこにあるのは自然が生み出した母なる大地でも、近代的な硬質感を持ったコンクリートでもない。それは多くの戦士たちの汗と、血と、涙が染み込んだマット。そして自分を囲う檻のように四方に張り巡らされた三本のロープ。
そう、ここは「リング」と呼ばれる四角い戦場。自分は今、戦いの真っ只中にいるのだ。そのロープの向こうには観客と呼ばれる大勢の人たち。その全ての視線が今、このリング上に注がれている。
感覚が戻ってくるのと同時に全身から一斉に痛みが伝わってきた。何度も打ちのめされ、叩きつけられ、痛めつけられたダメージが身体中を蝕んでいる。
朦朧としながら身体を動かそうとするが、全身が鉛のように重たく感じ、身動きが取れない。
目を凝らせば、自分の近くにもう一人の戦士の姿があった。同じようにマットに這いつくばり、同じように傷ついた身体を引きずりながら、何とか立ち上がろうとしている。
戦士といっても鎧を纏った騎士でも、魔王を倒す為の伝説の剣を携えた勇者でもない。自分たちの武器は、鎧はこの身体一つ。最低限身を隠す為の布を纏っただけ。
今しがた、自分は目の前にいる彼女と己の身体を武器に戦い、ボロボロになるまで痛めつけ合った。そして、まだ戦いは終わっていない。
「――エイト!」
誰かが大きな声を上げる。何かを数える声。頭が混乱していても本能が伝えてくる。この声がその数を数え切る前に立ち上がらなければ、この戦いは終わってしまう。
終わってしまう? それを残念だと感じてしまったことに驚く。自分は、この戦いをまだ終わらせたくないのか。こんなにも傷つき、痛みと苦しみを味わい、惨めに這いつくばっていながら、それでもまだ戦いたいと思っているのか。
「――ナイン!」
誰かが言った。こんなことをして何になると。どうしてこんな痛い思いをして、傷だらけにならなければならない。それで一体お前に何の得があるのか、と。
でも、これがアタシの選んだ道なんだ。どんなに惨めに地面に這いつくばっても、何度叩きのめされても、傷だらけになろうとも、アタシには戦う理由がある、
どうして立ち上がるのか? どうしてこんなことをするのか? ふざけんな! それは、
それは……アタシが――――!!
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