第二話
1.
「魔法は万能ではあるけど、完全じゃない」
確か、ミナはそう言っていた気がする。そのときの僕は言葉遊びのような言い回しが気に入らず、食ってかかるように「なんなんだそれは」と言ってしまった。
「魔法はたくさんのことに活用できるけど、それでもせいぜい一万通りくらい。一億通りの使い方はできない」
「つまり?」
「それなりにできることはあるけど、限りがある」
それが僕の、質問の答えだった。
「魔法って、なにができるのさ?」
今思えば随分ざっくりとした質問だった。人に「言葉ってなにができるの?」と聞いているようなものだ。
そう考えると、ミナの解答は100点に近いのではなかろうか。
「そもそも、魔法っていうものが、イマイチ僕には理解できないんだよね」
そう訊いているのは、ミナから電話がかかってきた、翌日のことだった。人は交通事故にあったとき、興奮状態で痛みを感じ難くなっているという。事故を起こしたわけじゃないが、そのときの僕は一種の興奮状態だったのだろう。感覚が麻痺していたようだ。あまりに突拍子もない出来事に、知らず知らずのうちに思考を停止していたに違いない。それが、寝たら冷静になって、ようやく客観的に物事が観れるようになった。
魔法。魔法。魔法使い。
なんだそれはファンタジーじゃないか!
鳴らないはずの携帯が鳴る。それに驚いて魔法を忘れてしまっていたような気がする。(もちろん魔法で携帯を鳴らしたことはわかっているが)。あまりのことに、昨日のことは本当に夢ではなかろうかと思ったほどだ。もう一度話ができないかと携帯をいじっていたのが一時間ほど前のこと。着替えも朝食もまだ済んでいないときだった。
「この電話も魔法。でも、魔法を使って話してる、って気分じゃないんだよ」
テレパシーとか、そっちのほうが魔法っぽい。そういうとミナは首を傾げたようだった。「うーん。三鍵くんがそう望むんなら、そっちに切り替ることも可能だけど」
少し間を置いた。「その場合は私が一方的に喋るだけになると思う」
「僕にそういう力、テレパスだとかがないから?」
「なんだ、わかってるじゃない」
ならせめて、と提案をする。
「この携帯からでも連絡が取れるようにできないかな? そっちからかかってくるのを待つだけじゃなくて」
「ああ、それなら、着信履歴から『通話』のボタンを押せばつながるわ」
ごめん、昨日言っておけばよかったね、とミナは言った。しかし、着信履歴にこの番号はなかった気がする。ミナから電話がかかってくるまで、こちらも試行錯誤を繰り返したのだ。適当な番号で繋がらないか、電話帳に登録されてないか。そもそも魔法でなにか、新しいボタンや機能が追加されてないか。考えられることはやった。
「本当に? この番号にかけても繋がらなかった」
ミナは言った。
「別に番号はなんでも構わない。ただ『かける』『かけようとする意思』があれば、こっちに繋がる。そういう魔法をかけてるからね」
「……かけようとする意思は、何度かあった気がするんだけど」
そう思いながら操作をしていた。するとミナは「ごめんね」と謝った。
「それは、私が気づかなかっただけ。確かに何度か、こっちに反応は届いてたみたいだけどね」
寝てたの、とミナは言った。
なんとなく、納得だ。
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