嘉俳の月

高麗楼*鶏林書笈

第1話

 暑かった夏も去り、吹く風も爽やかになった。

 そんなある夜、巽庵は庭に出て空を見上げた。冴え冴えとした月が浮かんでいた。

「今日は中秋か。」

 一年で一番月が美しいと言われる今宵。だが、彼はここ黒島に配流されて以来、空を仰ぐことはなかった。

 あの月はいつからあそこにいるのだろう?

 少なくても自分が幼い頃からはあったな……。

 つまらぬ言葉に我ながら苦笑してしまった。

 これまで、弟・茶山とは何故か共に嘉俳(中秋)の月を賞でたことがなかった。片方が不在だったり、天気が悪かったり。

 今の自分には特に望みはない。ただ、弟と再会して共にこの月を眺めたいだけだ。


 彼のささやかな望みは遂に叶わなかった。再会を果たす前に冥界に旅立ってしまったためである。

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嘉俳の月 高麗楼*鶏林書笈 @keirin_syokyu

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