彼女に内緒でアレを買った
都築 或
第1話
コンビニのレジ袋を提げた右手でドアノブを下げると鍵がかかっていなかった。
靴を脱いでリビングに上がるとユキが寝転んで漫画を読んでいた。
「あれ?今日友達と遊び行くから遅くなるつってなかったっけ」
「あー。あれナシになった。」
「そっか」
そっけない態度をとりながらも俺は内心焦っていた。
俺が提げているレジ袋にはアレが入っているのだ。
出来れば一人で楽しみたかったアレが。
そう、○ーゲンダッツ(ストロベリー味)が入っているのだ。
カップアイスに三百円という値段は親の仕送りがあるとはいえかなりの割合をバイト代によって生活費をやりくりしている貧乏学生が普段から食べられるような値段じゃない。ユキが友達と遊びに行っている今なら購入は一つで済むと考えて、たまの贅沢をと買ってきたものだ。
ばれたら絶対なんか言われるよな……
そう思った俺はどうすればユキにばれずに至高のひと時をすごせるか思考した。
どこかに隠れるか。だがしかし悲しいかなここは貧乏学生の部屋、1LDKエルディーケーですらないLDKだ。
浴室に隠れるという手もあるがそんなことをすればかえって怪しまれてしまう。
ならばとれる作戦は一つだ。
俺はそのままユキの斜め後ろに座った。灯台下暗し作戦というやつだ。
ユキの視界に入らない、しかし距離を感じさせない絶妙な位置取りだ。ユキは漫画に夢中で気づくことはないだろう。
蓋を取り、フィルムをはがす。
フィルムの裏についたアイスをスプーンでこそぎ取ってからスプーンで一口目を掬った。
そうそう、専用のスプーンというのがまたいいんだよな。
ほのかに香る甘い匂いに誘われるようにそれを口に運ぶ。
上品な甘さが口の中に広がる。
適度な酸味もいい感じだ。
「うん、おいしい」
あっやべっ
完全に気が緩んでいたのか俺はつい称賛の言葉を口に出してしまった。
「んー?何か食べてんのー?」
ユキが漫画から目線をこちらに移す。
とっさのことだったので回避が間に合わない。俺の行動はユキの目の当たりとなった。
「あー!ハ○ゲンダッツじゃん!私も食べたいー」
ユキがお菓子をねだる子供のような口調で言った。
「嫌だ」
「えー。けちー」
こいつは一口頂戴と言ってそのほとんどを持っていくような奴だ。
そもそも量が少ないハー○ンダッツでそれをやられたらどんな被害になるのかは想像に難くない。
「ほしいんならコンビニで買ってこれば?」
「んー、今月キビシーんだよね」
こいつ毎月同じようなこと言ってるな……
「一口、一口だけ」
絶対にあげたくない……。だがしかしこのままただ断り続けるのは分が悪いことはこれまでの経験からわかっていた。
そのとき、俺の頭の中に一つの台詞が降りてきた。
普通じゃないことはわかっていた
しかしこれならもしかしていけるんじゃないか?という思いに押し切られた。
そうして俺はその言葉を口にした。
「おっぱい揉ませてくれたら一口やるよ」
「安っ!私のおっぱいアイス一口分かよっ!」
自分のおっぱいがアイス一口分だと認めるのはプライドが許さないだろう。
俺の作戦通りユキは悩んでいるようだ。
その間に俺はハーゲ○ダッツを食べ進めていく。
「なあ」
それを見かねたのかユキが口を開いた。
「それっておっぱい百回揉ませたら百口食べれるってことじゃね?」
こいつ天才かよ……
だが俺もここまで来たら引きたくはなかった。
「果たしてお前が俺におっぱいを揉ませることができるかなっ」
すでに何か月も同棲している仲だ。その間には当然そういうこともあったわけで。生半可な誘惑では動じないだろうという確信が持てた。
「はっ上等だぜ。」
挑発に乗ったユキは俺に近より胸を寄せ四つん這いの格好になる。いわゆる女豹のポーズというやつだ。
ノースリーブのシャツに綿の短パンという露出度の高い格好ゆえにチラチラと胸が見えるのが気になる。
軽く脱色した茶色の髪が肩に掛かるのが艶めかしく見えた。
だがしかし人間は成長する生き物だ。
同棲を始める前の俺ならいざ知らず、今の俺はその程度の挑発で落ちるほど甘くはなかった。
ハーゲン○ッツはお前のおっぱいよりも重い。
「どうした?もう終わりか?」
軽く笑って余裕ぶって見せる。
ユキは少し考えてポーズを変えた。
始めはただの偶然だろうと思った。
だがそれはユキがいくつかポーズを変えていく中で確信へと変わった。
こいつ、俺の秘蔵フォルダを漁りやがった……
するポーズするポーズがすべて俺の秘蔵フォルダに収められていたのと同じものだ。
ときおり記憶があやふやなのかよくわからない珍妙なポーズをとるが、あのフォルダにはユキの姿を投影していたような画像もあり俺は目が離せなくなってしまっていた。
ユキはそんな俺の方をじっと見ている。
スプーンだけは離さない俺が気にいらなかったのか。
ユキはハーゲンダ○ツを口に含んでいる俺へキスをしてきた。
とっさのことに抵抗ができない。
舌を入れられ口内を舐められいいようにされる。
「ん、イチゴの味がする」
ユキは艶めかしく微笑んで唇についたアイスを舐めとった。
俺はとうとう我慢が出来なくなってユキを押し倒すこととなった。
どうだ見たかと言わんばかりのユキの勝ち誇った顔が印象的だった。
少し倦怠感の残る体を起こすと隣にユキの寝顔があった。
どうやら昨日は行為を終えてそのまま寝てしまったらしい。
視界の隅にアレが映った。
次からはちゃんと二つ買ってくるとするかな。
部屋の端でドロドロに溶けてしまっているハーゲンダッ○を見てそう思った。
彼女に内緒でアレを買った 都築 或 @Aru_Tsuzuki
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