ハル・ヨッカーをぶっぱなせ!ー勘違いが世界をかえるー

雪野千夏

第1話 始まり 多分遭難です

 面倒なことになっている気がする。

 ちょっと、いろいろ思い返してみる。

 ……やっぱり面倒なことになっている。


「今後の行方を左右する大事な選挙になりますね。無党派層の行方が気になります」

 テレビから流れてくる声に、うまれて初めて選挙に行った。

 決して、隣に住む坊やの「ハルちゃん選挙行った? ぼく、お母さんについていって、箱の中みたんだよ」というきらきらしたまなざしに罪悪感を抱いたからではない。

 いつもと違うことをした。が、まだ普通だった。

 そのあと、近所の野良ネコに尻尾を逆立てられて喧嘩を売られた。それも大したことではない。ご近所の生物ヒエラルキーの最下層に位置する自覚はある。ボス猫に怒られるのは当然の帰結である。

 休日に外出などという一大イベントをこなして少々気が大きくなった。天気もよかった。雲ひとつない空。柄にもなくうきうきして、昼ごはんを作ってみようと思いたった。幸い財布と鍵だけもって出るのが面倒で、リュックごと背負って歩いていた。ノートと筆記具しか入れないリュックに食料を入れるなんてどこかに遠足に行くみたいだ。そうだ、いっそお弁当を買ってどこかにプチ遠足に行ってもいい。

 日曜の昼前のスーパーは戦場だった。ヒエラルキー最上位の皆さまの熱気とお尻におののきながら、弁当と、一週間分の食料を買って、帰り道を惰性で歩いて近所の公園に向かった。

 誓ってもいい。私は方向音痴で、ぼんやり歩くと家にたどり着けないということもない。徒歩五分の場所だ。

 私は遭難した。そう思うことにする。多分それが一番心に優しい。

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