冷蔵庫で冷えてる
鳩葉サトル
冷蔵庫で冷えてる
冷蔵庫に女物のブラが冷えてる。
「……」
一旦扉を閉めて、もう一回、今度はゆっくり開けてみたがやはり女物のブラが冷えている。豪奢な刺繍が全面にちりばめられて、細やかなレースで縁取られたそれは確かに綺麗で華やかではあるが、見てるだけでも肌がちくちくしそうな気がしてくる。
「…………」
もう一度扉を閉めて、一呼吸置いて、次は思い切り勢いよく開けてみたがやはり女物のブラが冷えている。それにしても、このご飯をしゃもじで盛りつけて茶碗にしても問題無さそうなぐらい深い大ぶりな曲線を描いているカップから考えると、この所有者はなかなかのバストの持ち主に違いない。
「………………」
開け放たれた扉から冷気が白い霧となって流れてくるが、依然として女物のブラが冷えている。試しに指先でつついてみると、よく冷えてはいるもののさらさらと肌触りのよいその質感は意外なほど柔らかかった。
「……………………はぁ」
問題なのは、こんな仕立てもサイズも極上のブラに見合う人間はこの家には存在していないのだ。この家、いやこの部屋に住んでいるのは自分だけであって、そして己の胸囲はといえば視線を下に向けると足の甲全体がはっきりと見える程度で、いわゆる絶壁というやつなのである。
「……ホント誰のなんだこれー……」
冷蔵庫に女物のブラが冷えてる。なんでわざわざ自宅の冷蔵庫に入れたのかは知りたくないが、できれば夏の暑さが去る前に早く取りに来てほしいものである。
仕方ないので木基はそれを脇に押しのけると、買ってきた徳用卵のパックを冷蔵庫にしまった。
冷蔵庫で冷えてる 鳩葉サトル @Hatoba-Satoru
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