第17話『コビト19』
ジジ・ラモローゾ:017
『コビト19』
コビト19というのが正しいそうだ。
武漢肺炎が分かりやすいんだけども、地名で呼ぶと後々地域的な差別感情に繋がるからいけないんだそうだ。
マスコミでは新型コロナウイルス。
むかしスペイン風邪というのが流行ったんだけど、これはスペインが感染源ではないらしい、なんでもスペインの王様でも罹っちゃったんで、そう呼ばれたとか。スペイン可哀そう(´;ω;`)ウッ…
『ジージのファイル』
現職のころ二回インフルエンザに罹ったよ。
学校の先生というのは、休むと授業に穴が開く。その日に三時間授業があったら150人近い生徒が自習になるんだ。
昔は、生徒は、文字通り自習してくれてた。教室で予習復習したり、読みかけの本を読んだり。図書室とかで過ごすのも自由だった。
でも、時代が進むと、自習時間中に無断で校外に出たりするのが問題になった。校外に出てもお昼の弁当やパンを買いに行くぐらいなんだけど、世間は、授業時間中に生徒が学校の外に出ていくことを好まない。まあ、中には喫煙する奴とか制服のまま雀荘に行くような猛者もいたんだけどね。
だから、ジージが先生になったころは、自習になると他の先生が自習監督に行くんだ。ちゃんと自習課題を持ってね。例え自習でも、生徒は監督しておかなければならないというのが社会の常識になってきたんだね。
自習にすると、生徒は窮屈だし、他の先生には迷惑をかけるし。試験前だったりすると授業進度も気になるしね。
だから、少々体調が悪くったって休めなかった。7度ちょっとの熱なら風邪薬呑んで授業をしたね。
でも、いま思うと、生徒には迷惑だったと思うよ。だって、教壇に立ってデカい声で授業していたら唾とかが飛んじゃうからね。でかい声でなくっても、吐く息には細かい水蒸気が含まれているらしくて、エアロゾルとか言うらしいんだけど、こいつは結構長い時間空気中に漂ってる。それで、みんなにうつしちゃうんだ。
インフルエンザだったら、もう真っ青だよ。同僚の先生にも「学校くんな!」と怒られる。
でもねが続くけど、インフルエンザでも休めない時があった。
二年生の担任をやっていて、修学旅行とぶち当たった時だ。担任は修学旅行には絶対付いて行かなきゃならないからね。
病院で点滴打って、しこたまマスクと薬をもらって行くんだ。
それで、不思議と重篤になることもなかったし、ひとにうつすことも無かった。
いま思うと、ずいぶん無茶なことだったと思うよ。
うん、無茶をやるから、教師と言うのは寿命が短い。
教師の寿命は『七五三』と言うんだ。七五三というのは退職後の寿命のことだ。
平で七年、教頭で五年、校長だと三年しか余命がないんだとか。
ハハハ、でもジージは長生きするよ。ジジが成人式で振袖着るの見たいからね。
ジージ、七五三は当たってないよ。
だって、ジージは平の先生だったのに、教頭先生みたいに五年で死んじゃうんだもんね。
「ジジ、あんたの学校で武漢肺炎出たって!」
お祖母ちゃんがリビングで叫んでる。
お祖母ちゃん、コビト19が正しいんだよ……あれ?
立ち上がったら、部屋が回ってる……うそ、罹った?
こないだ電撃家庭訪問しにきたA先生とB先生の顔が浮かんだ……バタン。
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