第15話『運命』


ジジ・ラモローゾ:015


『運命』  






『ジージのファイル』


 入試の採点を半日で済ませていたと言ったら驚くかなあ。


 今は違うよ。


 入試が済んで、受験生が帰ったら、入試本部(校長室とか会議室)に集められていた解答用紙を金庫に仕舞って、あくる日、丸一日かけて、全教職員で採点と集計をやるんだ。


 基本は教科ごとにやるんだけど、入試教科に入っていない芸術や家庭科や体育科は採点に時間のかかる教科に助っ人に行く。


 答案用紙は受験室ごとに綴じてあるんだけど、さらに半分に分けて綴じ直して、効率化を図る。


 採点を二回、点数の計算を二回やる。きちんと人を替えてね。


 コンピューターに点数を打ち込んで、あくる日に入試を担当する選抜委員会のメンバーで、もう一度確認して選抜原案(当落の決定)を作る。


 三日目に、全教職員が集まって選抜会議をやって、合格者名簿を作成。それから合格発表掲示板を作って、まあ、三回は確認するね。その間、選抜委員の先生たちは学校に泊まり込んで警戒とチェックをする。


 だから、受験から合格発表までは都合四日かけるという慎重さだ。




 なんで、こんなに慎重にやるかと言うと、情報公開が常識になってきたからさ。


 受験生や保護者から「入試答案」を見せろと言われれば見せなくてはならない。万が一にもミスがあってはならないからね。




 ということは、入試答案の開示などやっちなかった時代は、けっこうミスがあったということだ。




 ここからが本題。


 昔はね、入試の採点は入試のその日にやった。社会や国語は時間がかかってね、深夜までかかることもしばしばだった。むろんミスが起っちゃいけないという気持ちからさ。


 でも、たった一日でやるのは問題だったと思うよ。


 ジージはね、あまり勉強ができる方じゃなかったから、A高校は受けても絶対落ちると言われてた。うちの中学からA高校を受験したいというのは100人も居てね。合格圏内にいるのは40人ほどだ。残りの60人は説得されたよ、もう少し合格圏の低い高校にしなさいと。ジージは、この60人の一番ドンケツにいたんだ。


 落ちたら併願している私学に行くことを条件で受けさせてくれた。当時は、公立高校の方がレベルが高かった。


 合格した日の事は、別に書こうと思う。


 受かるはずのないジージが通って、絶対落ちるはずがないと言われてたSさんが落ちた。


 今でも憶えてるよ、合格発表の掲示板に背を向けて、しょんぼりと帰って行ったSさんの後姿。


 あの時は、運命のいたずらだと思っていたよ。友だちも中学の先生も、そう言ってたしね。


 でも、現場の教師になって思うんだよ。


 ひょっとしたら、採点か集計でミスがあったんじゃないかって。


 いや、ほとんど妄想なんだけどね。


 バーバに言うとね、叱られるんだよ。「運よ、運命だったのよ。ジージがA高校に行ってなきゃ、あたしとの出会いは無かったわよ。つまらないこと考えるんじゃないわよ!」ってね。




 そうか、ジージとバーバの出会いは高校だったんだ。


 二人は元々イトコ同士だから、そういう簡単な関係で結婚したんだと思ってた。


 でも、そうだよね。二人が結婚してなかったら、このあたしは存在してないんだもんね。




 ジャノメエリカの花が満開になる。何かいいことが起こりそうな予感。


 二月とは思えない暖かさが続いている。ちょっと気持ちが悪い。

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