第2話『本棚の上から二番目』 


ジジ・ラモローゾ:002


『本棚の上から二番目』    





 もう五分もにらめっこしてる。



 吐き出し口からはこの季節に相応の世間の風が吐き出されている。


 一月の八日の午後四時だから、そりゃあ冷たいよ。


 スイッチ入れて五分たっても温まらないエアコンてのは存在意味ないよ。


 三分たったところで、暖房機能が付いてることを確認。冷房だけのエアコンだったら期待したあたしが悪いんだから、キチンと「ごめんね、期待したあたしが悪かった」と、自分が言われたらきっと傷つくお詫びの言葉も考えた。お詫びって難しいよね、ぞんざいに言ったら気持ちが籠らないし、丁寧過ぎても慇懃無礼ってか、こいつバカにしてんなあって感じになる。「あ、ごめんごめん、あたしの勘違い(〃´∪`〃)」……ちょっとやわらかい。「ごめんごめん(^_^;)」かな? 「いやあ、きみも言ってくれりゃいいのに(;^_^」とか? 


 そんなこんなを考えてるうちに、さらに二分経って、それでもエアコン君は世間の風を吐き出し続ける。


「やっぱり、ダメでしょ」


 いつのまにかお祖母ちゃんがやってきて、後ろでこぼす。「やっぱりダメ」という言葉は人を即死させる。突っ込みたいとこだけど、エアコン君に掛ける言葉を考えていたなんて説明したら、きっと落胆させるから、アハハと笑って済ます。


「ジージが死にたてのころは、仕舞い忘れの現金とかないか調べんのに、エアコン点けようと思って掃除もしたのよ。でも、音はするんだけど、ちっともね効果ないからね。やっぱ壊れてるのよ」


「あ、じゃあ、いいよ。電気カーペットあるし、お風呂場の棚に使ってないヒーターとかがあったじゃん。あれ点けるよ」


「うん、それは構わないんだけど、風邪でもひかれたら綾ちゃん(あたしのお母さん)にも申し訳ないしさ」


「だいじょぶだいじょぶ、そんなに寒かったら、お祖母ちゃんと寝るから」


「お祖母ちゃん、ここで寝るのはいやよ」


「ちがう、あたしがお祖母ちゃんの部屋に行くの」


「ああ、それいいわね! 赤ちゃんの時は、よく添い寝したげたものね」


 お祖母ちゃんは、気を良くして夕ご飯の準備に行った。


 

 お祖母ちゃんが行ってから、椅子に上ってエアコン君の吐き出し口から中の様子を窺う。なんか、お医者さんが患者さんの風邪のチェックしてるみたい。


 人間だったら、ノドチンコの奥を窺う感じ。


 お祖母ちゃんの言った通り、中はきれいにされていた。


「う~~ん」


 ここで諦めたら、先生たちが言う『指導放棄』だ。最後まで面倒みてあげるよ。


 でも、お祖母ちゃんは晩ご飯の準備。手伝わないわけにはいかない。最初が肝心だもんね。


 ヨッコラショ


 お祖母ちゃんと同じ掛け声で椅子を下りると、いや、降りる途中に、すぐ横の本棚の上から二番目が目に入った。


 ゴチャゴチャ突っ込んでる中に、一枚の書類が見えた。


 何の気なしに引っ張り出してみる。



 A4の書類の真ん中には、こう印字されていた。



 願により本職を免ず

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