第9話 林檎が赤くなると医者が青くなる

 病院の診療室に、真っ赤な林檎が一つ置いてある。

 そして、医者は真っ青な顔をしている。

「相田さん、本当に……本当にやってしまったのですか?」

 青い、死人のような顔をした医者は、目の前に座っている男に言う。

「へい、家内も体にいいというんでしちまったんですがなんかわりぃんですか?」

 それを聞いて、医者は天を仰ぎ大きなため息をつく。

 目の前に座っている、タヌキの様な男はそのコロコロした手をすり合わせて、医者の方を真ん丸な眼でじっと見る。

「センセ?」

 男に対し、医者は言う。

「ええ、悪いなんてもんじゃないですよ。いいですか、たしかに林檎が赤くなると医者が青くなるといわれてます。それは、実際に林檎が非常に体にいいとされているからです。だからといってですね……」

 医者は一呼吸ついて、少し大声でいうのだった。



「重度の糖尿病患者が、林檎20個食うんじゃない!」


 医者の顔も、怒りのあまりリンゴのように真っ赤になった。



          了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る