〈ヨウセイ〉と真っ赤な運命

久保 奈緒

1話〈ヨウセイ〉が集まるその先に

 〈ヨウセイ〉種不明。どこから現れたのかも不明。体長約十センチ前後。曰く、不老不死らしく何とも言えない愛らしい顔をしており、一匹いると(匹という単位が正確かどうかはわからないが)その場には百匹いると言われている。ただし不幸の象徴とされており数が多けば多いほど不幸をもたらすとされている。

 例えば、殺人事件の死体に群がる〈ヨウセイ〉の数は数万とも言われている。

 だがそんな〈ヨウセイ〉の姿を見れる人など殆ど皆無であり、もし見れたとしても話せるものなど、その中にも殆どいなく、奇跡的に話せたとしても触れる人間などいるはずがない。もし仮にそんな人間がこの世の中にいるとすれば、その人はとんでもなく〈ヨウセイ〉に好かれており、またとんでもなく不幸の連続が襲い掛かる人間であろう。



 ボクは昔から変わっていたなんていうつもりは全くないのだけれども、それでもボクの周りにはいつも可愛らしい〈ヨウセイ〉たちが空中を飛んでいた。その全ての〈ヨウセイ〉はボクと友達で、ずっと喋り明かしていた。でも他の人たちはそれが見えないらしい。だからボクが一人で話していると錯覚してボクのことを嫌悪している。でもボクはそれでも良いや、と思っていた。しかし、今こうして高校生になってみると〈ヨウセイ〉のことも無視できないボクは、周りからはだいぶヤバい奴という認識になっていて、ボクはそれに耐えられなくなってしまっていた。でもその〈ヨウセイ〉と会話するのは楽しくて、そう考えると、うん、ボクは変わっているのだろう。


 家から徒歩十分。それがボクの通う東宮高校の場所だった。ボクは勉強に関していえば結構得意な方であり、某有名私立にも行けたのだけれども、ボクはやっぱり住み慣れた街の高校に行きたいと思って一番近い高校にした。


 私は暗くなって車の音だけが聞こえる、夜中の並木道を一人、とぼとぼと学校に向かって歩いていた。と言っても周りには夜で羽が灯って所謂、蛍のように輝いている〈ヨウセイ〉と一緒にいるから問題ではない。

 まだ春先で外は思った以上に肌寒い。

 ボクが何故夜中に学校に向かっているのかというと、ボクは地学部という自分でも何やっているかよくわからない部活に入っているのだけれども、その部の部長のメガネ君(二宮先輩)から学校の裏山で凄いものが発見したという何とも胡散臭い話を夜中に電話で話されて、そのメガネ君がボクにその場に「来い」という一声でボクは歩いているのだった。


 メガネ君はオカルトとかそういう類のものが好きだ。かというボクはそのオカルトと言ってもおかしくないやつと友達なんだからおかしな話だ、と自分でも思う。

 ボクはボクの目の前をゆっくり飛んでいる金髪の〈ヨウセイ〉に話しかける。


「どうして、ボクの周りに君たちは集まるの?」

 その金髪の〈ヨウセイ〉はボクが生まれてきてからこの方ずっとボクの周りを飛ぶ、一番の親友だった。

 金色の髪の毛は自分の身長と同じぐらいにも関わらずストレートで真っ直ぐに伸びて真っ白のドレスのような服装はどこかの王女様みたいだった。

 その金髪の〈ヨウセイ〉の名前は凄く長い。だからボクは親しみを込めて(覚えていないのだけなのだが)エリーと呼んでいる。エリーはなんでも〈ヨウセイ〉界でも早く生まれたらしく、何万歳とか言うレベルらしい。

「何でだろう、ユウの隣が何か心地良いからだよ」

 ボクの名前はユウと言うのだけれども、これまた変な話でボクなんて大した取り柄もないのにこの〈ヨウセイ〉たちはボクに懐いて、ボクの周りをうろちょろする。


 ボクは自分のスマホを見る。画面には午前二時の文字。何でまたメガネ君はボクなんかを呼び出したのだろう。どうせまた厄介なことなんだろうな、と予想する。


「ねえねえ」

 エリーが羽をバタつかせながらボクに話しかける。

「どうしたの?」

 ボクはエリーに聞く。

「ここ何か変だよ」

「何が?」

「〈ヨウセイ〉の数が多すぎる」

 エリーは笑顔になりながら言う。それを見たボクは思いっきり不快な顔をする。エリーが笑顔で良いことがあった例がないからだ。

 でも、エリーの言っていることは正しかった。さっきから歩いている道には〈ヨウセイ〉が輝いて光の道を作っているようで、ボクには天の川のように見えた。キレイだけれども少し不安だ。何故ってその光の道は学校の裏山に向かって真っ直ぐ伸びていたから。

「不安だなあ」

 ボクはポケットに手を突っ込みながら一人で言う。

「何が?」

エリーがボクに聞く。

「この後、何も起こらなければ良いけど」

 ボクは憂鬱そうな顔をして言う。するとエリーは大笑いした。

「そんなのあるわけないじゃん、ユウのバカ」

 エリーは空中で回りながら言っていた。


 学校に着くと、校庭に一人、細身の眼鏡をかけたウネウネ髪の男性が立っていた。

「やあ」

  メガネ君はいつものように「やあ」という。メガネ君特有の挨拶だった。

「こんばんは」

 ボクはぶっきらぼうに答えて、ボクの前をいく〈ヨウセイ〉が集まる光る道を突き進む。

「何があったのかは聞かないのか?」

 メガネ君は少しの寂しさをもってボクに語りかけた。

 その時にボクは「何ですか」と安易な質問をすれば良かったのだ。そうすればこの後起こることにボクは巻き込まれなかったかもしれないのに、だがボクの持っていた少しの好奇心がその質問を言わせなかった。


「学校終わって、裏山の方を調べてたら出てきたんだ」

 メガネ君は誇らしそうに言った。

 ボクの周りにはだんだんと〈ヨウセイ〉が増えてきてボクの視界は光るその〈ヨウセイ〉で遮られていた。

「何で、また裏山なんかに?」

「それは、宇宙人でもいないかなあ、と思ってさ」

 メガネを人差し指でクイクイさせながら言うその姿は全く知的には見えないが、変態には見えた。

「変態ですね」

「それを君が言うか!」

 急に大声出した部長は誰もいない学校で反響していた。

「何でですか?」

「噂に聞くぞ、二年の夢野ユウは一人で誰かと話してるんだって、宇宙人と交信しているんじゃあないかって」

 笑いながら言うメガネ君は「へんたーい」とボクを罵った。

 ボクが知らないところでそんな誹謗中傷を受けていたなんて、全く知らなかった。

 すると

「私たちとの会話のせいだね〜」

 とエリーはニンマリとしながらボクをバカにしたような目で見てきた。

 ボクはエリーの羽を摘んでエリーごと投げてやる。エリーは「ふぎゃああ」と言いながら涙目になっていた。

 ボクはエリーを指差してどうだと言わんばかりのドヤ顔を見せると、メガネ君が怪訝そうな顔をして、

「お前大丈夫か?」

 とボクに言ってきたのはしょうがないことだった。

「お前、そう言うところだぜ、ヤバい奴って言われてんの」

「そう、ですよね。はい、わかりました」

 ボクがしょぼんとすると、エリーは自分のお尻を叩きながら「ザマ〜」と言って、中指を立てていた。


 裏山に入るとそこにはボクが見たことのない光景が広がっていた。山が光っていたのだ。無数の〈ヨウセイ〉が飛び回り、ある一点を目指して飛んでいた。ボクもそれに釣られるようにメガネ君とエリーと一緒に歩く。

 そして、光の球体になっているような場所でメガネ君は立ち止まった。

 メガネ君は〈ヨウセイ〉にすり抜けるから良いが、ボクはすり抜けないので慎重にしゃがみ込む。

「ここだ」

 メガネ君は言った。

 ボクは小さな声で「みんな、ちょっとだけ離れて」と言うと、〈ヨウセイ〉たちはボクの後ろに回って離れてくれた。

 部長が掘っていたせいか、土が他の場所とは違う色になっている。

「俺も最初に見たとき驚いだぜ」

 メガネ君は興奮気味に言う。

 ボクも少々緊張してきていた。

「じゃあ、もう一回掘るぞ」

 メガネ君がボクに言う。ボクは「わかりました」とそこの場所にあった、メガネ君が持ってきただろうスコップを持ってその土を退けようとすると、このメガネ君は「ストップ」とボクを静止する。

「どうしてですか?」

「慎重にな、それを傷付けちゃあいけないぜ」

 メガネ君はそう言った。

「わかりました」

 ボクはスコップを置いて手でメガネ君と二人〈ヨウセイ〉が輝く中、土を退けた。

 そして、中身を見る。


 それを見た時ボクは息を飲んだ。

「な、すげえだろ」

 メガネ君は言ったが、その時のボクにはそんな声、聞こえていなかった。その中には真っ白の髪で真っ赤なドレスを着た女の子が眠っていた。


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