魔王様と摸擬戦をしました

「アイラさん、今からは俺も全力で行きます」


俺は〈身体強化〉と〈未来予知〉を使ってアイラに真正面から攻撃を仕掛ける、そんな俺を見てアイラさんはまたニコニコし始めた。


〈未来予知〉この魔法は自分の見たい未来の数秒先が見える魔法。


この魔法を発動してる事によって、俺の攻撃にアイラさんがどう反応するのかがわかる。だからその攻撃を囮に使い逆から攻撃をする。普通なら不意打ちに近い攻撃に対応ができず、俺の攻撃が当たり勝ちになる。

なら、完全に逆をついた俺の攻撃をアイラさんは不思議そうな顔をしながら受け流したり、かわしたりしている。

そして何度か打ち合いをした後、一旦距離を取り俺はアイラさんに質問した。


「アイラさん、どうして完全に逆をついてる攻撃に反応できるんですか!」


「うーん、どうしてと言われても単純に反応して受け流したり、してるだけよ」


困った顔で俺の質問に答えてくれるアイラさん、そこで俺は気がついた、元々の性能が違うのだと。どんなに逆をついても、どんなに不意打ちでも俺の攻撃が当たる事はない、アイラさんは気づいて反応しても間に合うから。


その事実にさすがに圧倒的な差を感じる、こうなると俺に勝ち目はほとんどない、構えながら何とか攻撃を当てる方法を考える。俺もアイラさんも構えながら動かない、俺はタイミングを完全に失っていた。隙がなさ過ぎる、反応されることがわかり〈未来予知〉をやめ〈身体強化〉にさらに魔力を使う。

俺が〈身体強化〉に魔力を使った瞬間にアイラさんの体がぶれた、一瞬で距離をつめられ懐に入られる、アイラさんが振るった剣をぎりぎりでかわし、距離をとる。

しかしすぐにつめられ攻撃を受けそうになりながらも避けて距離を取る、もはや防戦一方だった。


そんなシオンとアイラの摸擬戦を庭の隅でルリ、フィン、ミリアが見守っていた。

あまりに早い攻防にルリはほうけて、ミリアとフィンは息子の実力に「すご」と声を出してしまうぐらい驚いていた。


「フィンさん、二人の戦いどうなると思いますか」


「そうだね、いっけん互角のように見えるけどこのまま行けば完全にアイラの勝ちだね」


「やっぱりそうですか、お母さんなんか凄く余裕そうなのに対して、シオンには明らかに余裕がない、やっぱりお母さんは凄く強いんですね」


「そりゃそうだよ、なんたって、君のお母さんは歴代最強の魔王って呼ばれてるぐらいだし、やっぱり経験の差もはっきり出てるね」


「そうね確かにアイラは強いわ、でもねルリちゃんシオンも相当凄いのよ、普通の冒険者とかならあっという間に終っちゃうから」


「そうだよね、いくらアイラが手を抜いていても、シオンがあそこまでやれるのは凄いことだよ」


三人が話している間もシオンはアイラの攻撃を躱しては距離をとる、そんな攻防を繰り返していた。だが次第にアイラが早くなっていきとうとうシオンは躱しきれずに剣が頬を掠った。


「あら、やっと当たったわね、シオン君楽しかったわ、まさかここまで避けられるなんて思ってもいなかったわ」


「ハァハァ、まだ掠っただけですよ、まだこれからです」


「いいや、次の攻撃で最後よ、次の攻撃で私が勝つわ」


一呼吸置いたアイラは向かってくる今までよりも早く、だがシオンもやられっぱなしではない、勝ち目はない、だが引き分けにならできるかもしれない方法が頭をよぎる、シオンは向かわずその場で構えて待つ。

そしてアイラがシオンに攻撃を放った瞬間シオンも攻撃を放つ、アイラに向かって...ではなく剣に向かって

全力を叩き込んだ。


シオンは避けてる途中に勝てないことを悟った、それこそ神から貰った能力の一つ〈魔法創作〉マジッククリエイトで作った奥義に近い魔法を使わないと勝てないと悟った、だがその魔法を発動する事はできなかった、それはこれが摸擬戦だから命を懸けた戦いではないから。シオンの心が魔法を使う事にブレーキをかけていた。

だが負けたくはない、圧倒的な状況でも負けたくはなかった。だからシオンは自分の剣もアイラの剣も破壊し、引き分けに持ち込もうとした。だからタイミングを見計らいアイラが全力で打ち込んでくるのを待った。そう試合を終らせるべく振るう最後の一撃を待ったのだ。


だが現実とは非常で、

魔王とはやはり理不尽な存在であった。


シオンの打ち込んだ剣は確かにアイラの剣の芯を捕らえていた、だが一瞬にしてアイラはシオンの意図に木がつきシオンの剣を受け流しシオンの首に剣を押し当てた。


「勝負ありだね」


「ウゥ...参りました」


「アハハいやぁ、最後はさすがに焦ったわ、まさか剣の破壊を狙ってくるなんて、あと少し対応が遅れていたら二人の剣が壊れて引き分けになるところだったよ」


笑いながらアイラさんは剣を引く、俺は目の前の魔王に完敗した。

そんな俺の様子を見て父さん達が俺に近づいてきた。


「父さん、俺負けたよ最後まで何も通じなかった」


「シオン、お疲れ様落ち込む事なんてないぞ。むしろ魔王相手によくあそこまでやれたな、僕は誇らしいよ」


「父さん...ありがとう」


「おう、よし部屋に戻るよ、新しく人が住むんだし掃除もしないと」


「あ、あの!」


みんなで部屋に帰ろうとした時ルリが俺と父さんと母さんを呼んだ。


「あの...もしお邪魔なら別にいいんですよ、お母さんがいきなり言い出したことですし...」


「ルリの事誰も邪魔なんて思わないよ」


「シオンでも...」


「ルリちゃん、いいこと教えてあげる、もしシオンが勝てても私とフィンはあなたを家に住ませる気だったのよ、だから安心なさい、そして改めてよろしくね」


「ミリアさん...」


またルリが涙目になった。


「まぁ、そういうことだから、ルリさん改めてよろしく、それにそろそろ家に帰っていろいろ準備とかしないと日が暮れちゃうからね、それにどうせアイラも今日は泊まる気だろ?」


「フィンさんありがとうございます、そしてよろしくお願いします」


ルリが涙をこらえながら俺たちにお辞儀した、俺達は顔を見合わせ微笑み、そしてルリに改めて「よろしく」と伝え、家に入ろうとした。

だが不意にアイラさんが庭をキョロキョロ見始める。


「あの、アイラさんどうしたんですか?」


「さっきから、キャロちゃんとシャロちゃんのいないから探してるの、でも庭にはいないわね」


しばらくの沈黙俺も父さんも母さんもそしてルリも周りを見渡す。


「「「「え」」」」


庭にいない妹たちを探しに急いで家の中に戻ったシオンたちだった。











     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

魔法解説

〈未来予知〉発動中見たい未来、又わこれから起こる未来が見える魔法。普通に冒険者などは使えず高位の魔法師などでも扱うのは難しい最高難易度の魔法。

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