第51話 ドラゴンの宝
「ねぇ、ドラさん」
「なに~?」
「これの続き、どこにあるんです?」
「あー、それまだ積んでたから続き仕入れてないのよ。面白かった?」
「ええ。てか、続き仕入れるまで読まない方がいいっす。気になって寝れなくなるかも」
「マジで?」
「マジで」
しょうがないから別のマンガを見繕うついでに、俺はドリンクを取りにいく。
「これ全部ワインなんです? ソフトドリンクってないんですかね? 俺一応、未成年なんで」
「未成年? あーそれ知ってる~。あっちの国じゃ、二十歳過ぎるまでお酒飲んじゃダメってやつでしょ? ウケる~。一番奥のがただのブドウジュースよ」
「あざーす」
コポコポコポ。樽から紫色のジュースがコップに注がれる。
「あっちの世界の事、詳しいんすね」
「まーね。マンガに出てくるから覚えちゃったわ」
「いましたよそういう外国人。ニッポンにはニンジャがいるって信じちゃってたり」
「え、いないの?」
「いません。まあ、一応戦国時代とかにはいたみたいっすけど、マンガに出てくるような忍法は使わないっすよ」
「マジか~ショックだわ~」
「すんません、夢壊しちゃって。でも俺もこっち来て、わりとファンタジー世界に対する夢を壊されちゃってるんでおあいこっすね」
「あははは、ごめんね~。こっち代表して謝っとくわー。……ところでさぁ、今思い出したんだけど」
「なんすかー?」
「私、あんたを殺すんだったわ」
…………そうだった。
マン喫にしか見えないくつろぎ空間のせいで、緊迫した状況をすっかり忘れていた。
ドラゴニアが気付く前なら、こっそり逃げられたかもしれないのに。
「……まぁいいわ。後にしよ。あーだる~」
ドラゴニアはまたこたつで横になってマンガを開く。
なんなんだこのドラゴン。ルルイェの塔でアイシャさんに呪いをかけたり、ガイオーガを素手で組み伏せたあの人と、ほんとに同一人物なのか?
「あのぅ……一つお伺いしてもいいですか?」
「あにぃ?」
寝転んだままダルそうに返事する。
「ルルイェと幼なじみだったんですよね。どうしてあんなに仲悪いんですか?」
「…………」
ドラゴニアが真面目な顔になって、マンガを閉じた。
「……盗んだからよ。私の大切な物を」
ルルイェはドラゴニアが寝ている間に、家から財宝を盗んだと言っていた。その中に貴重なアイテムがあったって事か。
エンシェント・ドラゴンが大切にするアイテム。
とてつもない魔力を秘めたマジックアイテムなんじゃないだろうか。
「それはどんな物ですか……?」
もし仲直りさせられるなら、俺がルルイェから取り返してきてもいい。
「……トゥハード2クリスマス限定コマ姉サンタバージョンフィギュア」
「あー、それ知ってる! 昔、ネットオークションでウン十万の値が付いたと言われる幻の限定フィギュア。あれは確かに貴重な宝………………え?」
「古代アデニア金貨十万枚を積んでインプに仕入れさせたのよ! もう絶対に手に入らない幻のフィギュアだったのに……」
「あのぅ、大切な物って……フィギュアですか?」
「聞いていなかったの? ただのフィギュアじゃないわ。トゥハード2クリスマス限定コマ姉サンタ――」
「わかってますわかってます! 限定フィギュアですよね!」
「次の日、取り返しに行ったらしらばってくれて……あの子、フィギュア作りが趣味だから」
……今ようやく謎が解けた。
ルルイェはゴーレムの造形にこだわっていたんじゃない。
こだわって作ったフィギュアをゴーレム化して動かしていたんだ!
気付く必要のないどうでもいい真実だった。
「それでケンカになったと」
「そうよ。その日のうちにルルは結界を張って、沈黙の森に私が入れないようにしたのよ」
なんだその家に逃げ込んで鍵かけるみたいな小学生レベルのケンカ。
あったよ。オモチャを取った取らないで友情にひびが入ったりするやつ。近所の友達に、誕生日に買ってもらったプレ○テ3のゲームを自慢したら、そいつが帰った後なくなってて、問い詰めたらしらばっくれてケンカになったよ。その後向こうの親が出てきて、なぜか俺が怒られて泣き寝入りしたよ! 思い出したら腹立ってきた!
「だから、ルルのお気に入りを今度は私が取ってやったというわけ」
と、ドラゴニアは俺を指さした。
光栄に思うべきなのか。それとも、フィギュアと同列にされた事を怒った方がいいのか。
「それにしても、ただの人間でここにたどり着いたのはあなたが初めてよ」
「普通に入ってこれましたけど」
「我が家の魔法結界は、侵入者の魔力に反応するわ。相手の魔力が大きいほど、威力も強くなる。例えばそうね、ルルのところにいたハイエルフが入ってきたら、一瞬で焼き殺されるわ」
……そんなヤバイところに入ってたのか俺。
「ですが、俺の唇にたどり着いた女性も、あなたが初めてですよ」
「はぁ?」
「……なんでもないです」
スベったのはいいが、覚えてもらえてない事に激しく傷ついた。こうして男は女性不信になっていくんだろう。
「そういや、あなた何しに来たの? ルルにまた何か盗んでこいって言われたのかしら?」
大事な用件を忘れてた。
「あの、これ……」
俺は、ベルゼルムから預かった封筒を差し出した。
「なにこれ……手紙? ベルゼルムから……密書を運んできたというわけ」
「ええ、まあ。密書と言えば密書です」
ドラゴニアは封筒を開いて手紙に目を通す。
「…………」
ぽいっ。投げ捨てた。
「あっ、ひどい! それラブレターですよ!」
「この私と、あの小僧が釣り合うと思ってるの? ほんと、これだから勘違い男は困るわ。自分の顔、鏡で見た事ないのかしら」
グサグサッ!
自分が言われたわけじゃないのに、俺のハートがズタボロだ。
もしベルゼルムが聞いたら再起不能になるだろう。
それはそれで、魔王軍四天王を倒せていいかもしれないが。
だが、あいつに恋愛指南をした先生として、なにより同じ男として、もう他人事ではなかった。
「そう言わずに。男は見た目じゃない、中身ですよ!」
「あいつの中身のいいとこ、試しに三つ挙げてみなさい」
「えーと…………付き合い浅いんで、案外バカだって事くらいしか知りません」
そしてバカはいいところではない。
「魔王軍四天王とかいうカッコいい肩書き持ってますよ!」
女はブランドとか肩書きに弱い。
「ダサい。センス最悪。なに魔王軍って? 四天王? いい歳したオトナが名乗る肩書きじゃないでしょプークスクス」
グサグサグサッ!!!
俺はよろめいて地面に手を付く。
「……四天王とかマジカッケーって、密かに思ってたのに」
その時、
ゴゴゴゴゴゴ…………
洞窟が揺れた。パラパラと砂埃が落ちてくる。
「魔王軍の連中がちょっかいかけてるのよ。私が寝てる間に変な魔方陣を敷いちゃって……おかげでだるくてだるくてこたつから一歩も動きたくないでござる」
ごろんごろん。
マンガ片手にこたつでくつろぐその姿はいかにも年季が入っていて、とても昨日今日そうなったようには見えないのですが……。
すると、今度は壁に掛かっていた水晶玉が赤く点滅し、サイレンの音が鳴り始めた。
「チッ……侵入者か。しかも結構な魔力じゃない。ねえ、そこにあるリモコン取って」
「リモコン? これか。はい」
落ちてたリモコンを渡すと、ドラゴニアは寝転んだままテレビをつけた。
「って、テレビがあるし」
「あー、拾ったの。向こうの世界から不法投棄されたやつ。さすがに電波は届かないけどね。このジャージもこたつも拾ったやつよ」
そうなんだ……。
テレビの横にブルーレイプレイヤーとアニメのディスクも積んであった。電気はどうしてるんだろう。
テレビの液晶画面に、外の映像が映し出された。
「監視カメラもあるんですか?」
「これは魔法。……強い魔力を感じると思ったら、あの時のハイエルフとオーガーね」
山の中腹を登ってくる三人組が映っていた。
ハイエルフと、鎧をまとった老騎士と、オーガー。
「みんな無事だったのか!」
アイシャさんとボスコン、そしてガイオーガだった。
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