ポーカーフェイス
そばあきな
第1話 -Poker face-
――――ただ今、接戦中。
僕の持つカードは一枚、ハートのクイーン。目の前にいる、すなおくんの持つカードは二枚。カードを間違えて捨てていなければ、何かのクイーンとババのはずだ。
今、僕がクイーンを引けば終わる。僕が勝つのだ。さっきまで一緒にババ抜きに参加していたメンバーは、抜けた途端、別の机を使ってどこから出してきたのかジェンガをしている。とても楽しそうだ。早く混ざりたいと僕は横目で見送る。
一度深呼吸をする。大丈夫、僕は勝てる。今まで別の人からカードを貰って渡していたので、すなおくんがどんな風にカードを配置しているのかは知らない。だけど、勝てる自信はある。なぜなら、相手はすなおくんだからだ。
すなおというのは、本名じゃない。本名は須田川直、すなおというのは彼のあだ名だった。苗字の一番初めの「す」と、名前の「なお」を合わせたあだ名、らしい。隣のクラスの人なのに、すなおくんの話はよく耳にする。
例えば、嘘がつけない。つこうとしても表情でばれてしまうらしい。なんて面倒な性質なんだろう。将来は大丈夫だろうか。心配になる。それに、隠し事もあまり得意ではないらしい。……本当に、なんでババ抜きに参加しているのだろう。昼休みに廊下を歩いていて誘われたのだろうか。それは僕のことだけども。僕は、いわゆる数合わせなのだろう。人数が多い方が楽しいし。だから、誰が最初にババ抜きをしようと言ったのかは知らない。だけど、今までの噂の限りではすなおくんも数合わせのような気がする。……まあ、そんな彼がババ抜きの相手なのだから、絶対勝てるはずだ。
スッと、カードを持っていない方の右手を上げる。すなおくんの持つ右のカードに手を近づけると、彼は少しだけ眉を寄せた、ように見えた。念のため左のカードにも手を近づける。そっちでは、ほんの少し口角が上がったように見えた。
よし、と僕は左のカードに狙いを定める。彼はいっそう嬉しそうな顔をする。僕はおかまいなしにカードを引いた。
多分僕は、優越感を得たかったんだ。
わざとババを引いたんだぞ、という優越感。
別に負ける気は無かった。次に向こうが引く時には、ポーカーフェイスで騙せばいいと思っていた。ポーカーフェイスは、出来ると思ったから。
だけど。
「あーあ。負けちゃったなあ」
すなおくんがはらりと手元に残ったカードを落とす。はっきりと目に映るピエロのイラスト。僕の手元には、二つのクイーンのカードが残された。
「な、んで」
上手く声が出ない。言葉が詰まってしまう。目の前のすなおくんはどうしたの、とでも言いたげに首を傾げた。
向こうでジェンガをしていた内の一人が、僕らの方を見た。終わったみたいだ、ようやくかという声と、椅子を引く音が聞こえる。
「なんで、僕にクイーンを引かせたの」
もう一度尋ねる。机越しに見えるすなおくんは首を傾げたままだ。そして、ああ、と一言呟きにこりと笑った。
「だって、向こうに入りたそうだったから」
そうでしょう? と笑う彼。
友達の足音は、すぐそこまで迫っていた。
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