第34話 養護施設と中学校教師
この記事は、××ラジオ代表大宮太郎氏と同社アナウンサーで妻でもある大宮たまき氏がよつ葉園元児童・戸塚氏にインタビューした内容の一部です。
よつ葉園にぼくが来たのは中1の時でした。父親の虐待が理由でした。
中には、虐待でも何でもないのに通報されて、一種ね、「冤罪」的に子どもを児童相談所に連れていかれる例もあるそうですが、ぼくの場合はそうではなく、父は、酒は飲むわ、ギャンブルはするわ、でしたからね。気に入らなければ母を殴るってことこそなかったですが、生活が正直破綻していました。
そういう環境でしたからね、よつ葉園は、今思えばそれよりはましな環境でした。
だからといって、ぼくはよつ葉園が天国だとか、そんなことを言うつもりはまったくありません。上級生と言いますか、年長者から年少者に対する暴力とか、そういうのは、当時でもまったくないわけじゃなかった。それより前は、かなりあったようですけどね。
そんなものを容認こそしないけど黙認しておいて、何が家族だ、兄弟だ、笑わせるなよとは思いますけど、それはまあ置いておきましょう。
それでも、よつ葉園は、移転する前からものすごく地域での評判が良かった施設だと聞いています。移転後は、いくらか時間はかかったようですけど、地域の人たちから後ろ指をさされるような見方をされることはなくなりました。
山崎さんの話では、それは元園長の森川先生がかなり努力されていたことが大きいようですね。Zさんの話でも、居酒屋でよく会う年上のおじさんたちで、よつ葉園のあった学区にいた人たちはどなたも、よつ葉園のことを悪く言う人はまったく見かけなかったって、言っていましたね。Zさんや山崎さんは、あれなら移転しなければよかったのにと言っているほどですよ。
前にあった場所はO大学の近くでもあったし、文教地区として注目され始めた場所でしたけど、今度は郊外の丘の上というか、山の上ですよ。ぼくがいたのは移転後のほうだけですけど、正直不便な場所ですね。
Zさんは、あんなところ二度と住むかと言っています。
あの人は、クルマの免許も信念をもって取らないような人ですけど、そこまでの信念を持つようになったのは、移転後のよつ葉園の場所も影響していると思いますね。
ぼくは、中1から高校卒業まで、その「丘の上」のよつ葉園にいました。
Zさんはぼくが来た時、高2でした。あの人は、O県の普通科高校に合格する学力は十分ありましたけど、中3の時の職員の対応が悪すぎたことも理由で、高校入試に失敗しました。
その後は定時制高校に行きながら大検をとって3年間でO大学に合格して、よつ葉園を出ていきました。
あの人、中3の時の担任の先生のことを、本当にもうボロカスに言っていました。
二宮先生という音楽の先生で、ぼくもその先生に教わったことがありましたけど、よつ葉園の子どもらを最初から問題児と思っているような節が見られました。
もっともその先生、根っからの「ワル」には思えませんでしたけどね。
Zさん確か、こんなこと言っていましたよ。元プロ野球選手の書いた本の言い回しを使ってね。
一人やそこらなら、ぼろくそ言っている側にも何か問題でもあるだろうと思う人も多かろう。だが、何人も、状況の違う人たちが、それぞれ、ある人に批判的なことばかり言っているとなれば、それはもう、言われる側を問題にせざるを得ない。
って。その二宮という先生はまさにそれに当てはまるようなところがあったようで、転勤された後は、街中の北部中学に「飛ばされた」って、みんな言い合っていました。
一方で、Zさんが中1の時の担任だった国語の牧山先生は、ものすごくいい先生で、この先生はZさんがO市を出る前少し勤めた塾の学区で教えた後転勤されました。
その学校は、街中の名門公立中学校が統廃合された旭丸中学の1年目ということで、そういうのは「惜しまれて引き抜かれた」ことになるのかと、Zさんが「飛ばされた」発言を引き合いに出してぼくに聞いてきたことがあったので、そりゃあそうじゃが、と答えました。
冷静に考えてみれば、学校の先生に「転勤」はつきもので普通にあることですけど、同じ転勤でも、人によっては「飛ばされた」となり、また別の人では「惜しまれつつも、引き抜かれた」ってことになる。
何だか理不尽な気もしますけど、結局それも、話す人と聞く人の「印象」の問題なのかな?
ちょっと二宮先生には悪いですけど、ぼくらも、よつ葉園に関係ない他の生徒も、二宮先生をよく言う人、不思議とほとんどいなかった。
今思えば、少しばかり気の毒な気もしますけどね。
よつ葉園で高校卒業まで過ごして、ぼくはある短大に行きましたが、いろいろな事情があって中退しました。仕事もいろいろしましたし、資格もいくつかとりました。今は知り合いの会社で事務をしています。営業に出ることもありますけど、時々、あちこちぶらぶらしに行きますね。昨年よつ葉園祭りに行きましたけど、ぼくがいたころとは、かなり変わっていましたね。懐かしいという思いよりも、あれはまあああいうことだったと理解しています。
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