第23話 心閉ざして 3 嫁姑連合軍の総攻撃
会計を済ませ、御機嫌よく店を出た。
駅前に駐輪していた自転車で、自宅まで十分程度。
いつものように、自転車をこいだ。
危ないから、地下道などは通らず、踏切を通って帰ることにした。
幸い、踏切にはかからずに済んだ。
踏切を渡って、途中のコンビニで、ウイスキーの小瓶を買った。
トリスの180ミリ。300円弱也!
自宅に着いた。
携帯を見ると、16時過ぎ。まだまだ、日は暮れていない。
たまきちゃんは、すでに帰ってきていた。
幸か不幸か、ぼくの両親まで来ていた。
ドアを開ける前に、ウイスキーのキャップをあけて、一口。
「きょうの~ しごと~わぁ~・・・」
山谷ブルースを歌いながら、今度はうちのドアを開けた。
たまきちゃんが飛んできた。
酒を飲んできたことは、すぐにばれた。
明らかに酒瓶を持っているから、現行犯だ(苦笑)。
「太郎君、何やってるの! いくら休みとはいえ、昼間からお酒なんか飲んで! あのせいちゃんじゃあるまいし・・・。しかも、自転車とはいえ飲酒運転なんかして・・・。ご丁寧にも、ご帰還の御挨拶で高歌放吟ですか。まったく・・・。そんなに飲みたかったら、買ってうちで飲めばいいじゃない!」
予想通りとはいえ、負けてはおれぬ。まずは、景気づけにトリスを一口。
人型酔っ払い兵器、反撃開始!
「冗談じゃないよ、たまきぃ! 仕事とはいえ、あんなインタビュー1時間もみっちり聞かされたアカツキには、酒でも飲まなきゃやってられっか! 好きで飲んどるわけちゃうでぇ! アル中鉄道マニアのそっちの弟と、一緒にしないでくれよ!」
まくすだけまくしたてたら、かえって、酔いが回ってきた。あいつならともかく、普段ここまで飲まないぼくが飲むと、こういうときに、酔いが効いてくるものかなぁ。
「やってること、あの偏執狂マニア君とまったく一緒じゃないの。あ、それから、たまきには、あんな弟はいませんからね、念のため。今日は取材と称してスーパー銭湯に行ってきたんでしょ、サウナに入って一杯飲んで、いい御身分ですこと」
「冗談じゃねえやい! こちとら、山谷の立ちんぼがよぅ、きっつい仕事したあとみたいな気分だぜ! あんな辛気臭い話、延々聞かされちゃあ、たまんねえよ。大の男が、これで酒も飲まずにヘラヘラ帰れるかっ、てんだ!」
決して千鳥足でふらふらしているわけじゃない。
普通に立って話しているつもり。
「どうせこれから、うちでも飲むんでしょう?」
「あたりまえだのくらっかぁ~! 酒のあてにもくらっかぁ~! キャッホーイ!」
「次はウイスキーか焼酎?」
「えーい、ウイスキーでもブランデーでもワインでもビールでも日本酒でも焼酎でも、酒という酒、ドンともってこぉ~い! ほら、ワイはアホや、酒は食らうし、女には、あんまりモテんが、マニア君よりは、ましってことよ。それもこれも、みんな、芸のためや! 何やたまき、その辛気臭い顔は、酒や酒や、酒、もてこぉ~い! ウィー」
「何それ。大体ね、たまきは、ホステスでもキャバクラ嬢でもありません。浪速恋しぐれの嫁はんでも、おまへん! マニア君の姉でもありません! どうぞ、ご自分で冷蔵庫でもどこからでもどんなお酒でも持って、書斎で飲んでいらっしゃい! ブルートレインで、東京でも鹿児島でも長崎でも青森でも、お好きな場所にどうぞ!」
「美熟女キャバ嬢かと思った。あ、たまきちゃん御指名!」
「誰が美熟女キャバ嬢ですか?!」
「あわあわわ、よろしくー」
「何なのその「あわあわわ」って。せいちゃんがプリキュアを観てスイーツのキラキラルに対抗して作った言葉じゃない」
「そのトーリ、でーす! ヤンキースの監督も、トーリでーす! ウィー! レッツ・ラ・ドリンク・あわあわわ!」
「私より一つ年下とはいってもね、いい年のおじさんが、何言っているのよ」
「いい年してプリキュア観ている、鉄道マニアの酒飲みよりは、ましですよー!」
「プリキュアより酒飲みのほうが、よっぽど性質が悪いです!」
玄関先でぼくら夫婦が言い合っていると、母が飛んできた。
「たまきちゃん、酔っ払いに絡んじゃダメよ!」
「ひっでえことをおっしゃるバアサマもいらしたものだ、誰が酔っ払いだってぇ~。オレはぁ~、ショウキぃ~だぁ~ぜぇ~!」
「今度は石原裕次郎の真似ですか。どうでもいいけどねえ、お酒をしこたま飲んでそういう言動をする人を、酔っ払いというのです。ご存知ですか、大宮太郎さん!」
たまきちゃんが、いつになく怖い顔で、フチなし眼鏡の向こう側からぼくをにらみつける。LEDに替えた玄関の電球が、美熟女の眼鏡に反射して、ぼくの色付き眼鏡のレンズを突き抜けてくる。
母は、何も言わない。
馬鹿息子の「バアサマ」呼ばわり程度には、いちいち反応しない。
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