第6話
ステータスボードの確認を終えたタイミングで、俺の腹の虫が「ぐうっ」と悲鳴をあげた。
ふと外に目をやると、すっかり日が落ちて街灯の光が通りを照らしていた。
……そうだ!
俺もだけど、セリナもお腹が空いてるんじゃないか?
そう考えた俺はセリナに聞いてみた。
「セリナはお腹すいてない?俺はペコペコだよ」
俺がそう聞くとセリナは部屋を見渡して言った。
「そうですね。何か食べましょうか?とは言ってもキッチンも食材も見当たりませんが……」
セリナの言葉に俺は笑顔を見せると言った。
「大丈夫だよ。何処かに食べに行こう!そうだ……美味しい店を見つけたんだ。開いてるかは分からないけど行ってみないか?」
そう提案するとセリナは頷いて言った。
「いいですね!連れて行って下さい」
そう答えて笑顔を浮かべるセリナと一緒にさっそく宿を出ると、あの店……目からウロコ亭へと向かった。
…
目からウロコ亭に到着した俺はホッと胸をなで下ろした。店に明かりが灯っていたし、店内からは笑い声が聞こえた。
どうやらまだ営業中のようだ!
さっそく扉を開けてセリナに入店を促したら、セリナは嬉しそうに店に入ったので俺も後に続いた。
そして席を探すため店内を見回すと、昼間もいた猫耳店員さんと目が合った。
店員さんは俺達に気付くと小走りで来てくれた。
「いらっしゃいませ。また来てくれたんですね!今回は……2名様ですね。どうぞ」
店員さんは少し肩を落としているみたいだけど、俺達を席に案内してくれた。
俺は案内された席に着くとメニューを……しまった!メニュー見ても分からないんだった!
……どうするか。
カッコ悪いところを見せたくない俺は知恵を振り絞った。そして名案を思いついた俺は猫耳の店員さんを呼んだ。
「ご注文はお決まりですか?」
「えっと……今日は結婚記念日のお祝いなんだ。値段は気にしないから美味しい料理を2人分頼めるかな?」
そのお願いに店員さんは少し驚いてるみたいだけど、すぐに「分かりました!スペシャルな料理をお持ちします!」と言うと席を離れた。
ふぅ……どうやらうまく行ったようだ。安心した俺はふとセリナを見ると、なにやらモジモジしていた。
「どうしたの?」
俺がそう聞くと、セリナは満面の笑みを浮かべて言った。
「えっと…その…旦那様が結婚記念日って……その言葉が嬉しくて」
セリナの答えにキュンとした俺は思った。
くっ!可愛い。
出会って数時間しか経ってないのにこの気持ちは何だろう……この笑顔、守りたい!
そんな事を思っているとテーブルに料理が運ばれてきた。見た感じは…ステーキとサラダ、スープにパン。
味の心配は無かったのでさっそく食べてみると、どれも最高に美味かった。
……だけど何か物足りない。
なにが足りないんだと考えていると閃いた。「そうだ!ドリンク」だ!
俺はすぐに猫耳の店員さんを呼ぶと、やってきた店員さんが聞いてきた。
「追加のご注文ですか?」
「はい。なにか飲みものを貰いたいんだけどおすすめとかありますか?」
俺がそう聞くと、店員さんは少し考えて言った。
「おすすめは月嶺酒です。ただ……ちょっとその、値段が高額なので……」
そう言って顔を曇らせる店員さんに頼んだ。
「それ頂けますか?あと軽く肴になるものも一緒にお願いします」
すると俺の言葉に店員さんは驚愕した。
「勧めておいてなんですが…かなり高いですよ?」
ここまで念押しするとは本当に高価なものなんだろう。だけど俺にはアイテムボックスとナビの無敵コンボがある!
俺は店員さんにお願いすると「承りました」と言って席を離れた。
「その…旦那様。大丈夫なんですか?」
店員さんのリアクションを見て不安になったのだろうか?セリナは伏し目がちに聞いてきた。
「俺たち2人の初めての結婚記念日を祝ってるんだ。一生忘れない思い出を作るためならお金のことなんて気にしないで楽しもうよ!」
……とは言っても俺の金ではないのだけど。
複雑な気持ちになった俺にセリナは笑顔を見せると言った。
「はい!ありがとうこざいます。旦那様」
そう言って笑顔を見せるセリナはとても可愛かった。
その後しばらく会話を楽しんでると月嶺酒と肴の…チーズ?がテーブルに運ばれてきた。
月嶺酒を持つ猫耳店員さんの手は震えていた。よほど高い酒なのだろうか?
俺はボトルを受け取ると、セリナと自分のグラスに酒を注いで乾杯した。
……!
これ絶対高い酒だと一口飲んで理解した。
フルーツのような香りと味で、濃厚なのに飲みやすい。
セリナは……うっとりしていた。
肴に頼んだチーズ?も絶妙にマッチしている。
喜んでもらえたなら何よりだ。
ふと目をやると猫耳の店員がこちらをガン見していた。なんだろ?飲みたいのかな?
俺は猫耳の店員を手招きすると、やってきた店員さんが俺に聞いてきた。
「どうされました?」
「美味しい料理と素晴らしい酒を勧めてくれてありがとうございます。お礼と言ってはなんですが店員も一杯いかがですか?」
俺の提案を聞いた店員さんはカウンターへダッシュすると、グラスを掴んですぐに戻ってきた。
「ほほ、本当に頂いても良いんですか?」
俺はそう聞いてきた猫耳の店員さんのグラスにためらいなく酒を注いだ。店員さんは俺を見てきたので頷くと一口、一口と大事そうに飲んでいく。
そして飲み終えた店員さんは満足そうに言った。
「ありがとうございます。大変美味しゅうございました。生涯この味は忘れません!」
そう言って俺達に頭を下げると席を離れた。
その後も楽しく食事を楽しんだ俺達は立ち上がると会計へと進んだ。
会計は270万G……本当に高かった。
俺はナビ……いやナビ様にお願いすると袋が出てきたので、それを店員さんに渡した。
少し長めの確認作業の後、無事に支払いが完了したのでセリナと店を後にした。
帰りは猫耳店員さんだけじゃなく、手の空いていた従業員が総出でお見送りをしてくれた。
……なんだか恥ずかしかった。
宿に戻った俺たちはセリナの追加宿泊をお願いすると、同室だったのでスムーズに手続きも完了した。
そして笑顔のセリナと2人で部屋へと戻った。
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