24話:2章 旅団を組みましょう
明けて翌朝。
門の前にはすでに開門を待つ行商人たちが列を作って並んでいます。
アレクは列から外れて待機している一団にわたしたちを案内しました。
「おはようございます。あ、もうみんな集まっていたんですか? 遅れて申し訳ない」
「おはよう、アレクさん。いえ、まだ時間になっていないし構いませんよ」
「おはようございます、エルリクさん。この度は無理を聞いて頂いて、感謝します」
如才なく挨拶を交わす師匠とアレク。
わたしも師匠の後ろから頭を出して会釈します。マールちゃんもピョコンとお辞儀。
「この子はユーリ。こっちの子はマールといいます。体力が無いのでこの子たちは便乗させて貰えませんか?」
「なるほど、確かにこの歳では長旅は辛いでしょう。わかりました、荷物と一緒になりますがよろしいですか?」
「かまいません、感謝します」
「おいおい、ジジィと片腕とガキ二人かよ! そんなんで俺らの
――あぁん?
師匠とエルリクさんの会話に割り込んできたのは、二十歳には届かないと思われる武装した男たち。
見た所、多少の経験はありそうですが、大剣を持ってないアレクにも捌けそうな程度ですね。
そんな連中が師匠をジジィだとぉ?
「大丈夫だよ、力には自信がある。それに片腕でも荷物を背負うのに支障は無いさ」
「私も少々歳が行っているが、体力にはまだまだ自信があってな。この程度なら問題ないと判断した。別に戦うわけでは無いのだろう?」
「……ちっ、足手纏いになるんじゃねぇぞ」
「ユーリ、それは仕舞っておきなさい」
こっそり師匠の後ろから、マントの中で風刃の魔術を準備していたのが、バレてしまいました。渋々解除します。
そこへ、大柄な三十絡みの男たちがやってきました。こちらはやや穏やかな雰囲気?
「そう絡むな。こっちはきちんと荷物を運んでくれれば、それでいい」
「無闇に噛み付いて回るから、お前らはまだ若いって言われるのさ」
「う、うっせぇよ!」
なるほど、先に難癖つけてきたのは『フォレストベア』の面々で、後から来た彼らが『ヴァルチャーズネスト』ですね。
ベアの連中は余裕が無いのでしょう、若造が。
「いきなり風刃を準備したユーリ姉も、相当余裕がなさそうだけどね?」
「な、なんのことかなー?」
アレクにまでバレていましたか。
「それにしてもアレク、全然気にされてないようですけど……あなた、ひょっとして噂ほど顔知られてない?」
「そりゃ、俺が騎士になったのはついこの間だし。それに片腕って珍しさで話題先行しただけだから、実は噂ほど顔は売れてないんだよ」
「よくエルリクさんに雇ってもらえましたね」
「そっちは偶然俺のこと知ってたみたいでね。競技会見に来てくれてたんだって」
競技会、というと騎士学校の序列を決める武闘大会ですね。
ギフト持ちのアレクは、片腕にも拘らずぶっちぎりで優勝を決めたとか?
「そこ、なにコソコソしてやがる! 準備できたのなら、さっさと行くぞ!」
「ハァ、あいつらはホントに……すまないがあれが荷物になる。俺たちの生命線だからしっかり頼むぞ」
ヴァルチャーの人が指差した先には、パンパンに膨れた背負い袋が置いてありました。
保存食や水を、これでもかとばかりに詰め込んだのでしょう。
「剣を持ったままで大丈夫か、重かったら預かるが?」
「いや、これは護身用に持ってた程度だから、負担になるほどじゃない。大丈夫だ」
「なるほど、かなり鍛えてそうだな。荷物持ちには勿体ないくらいだ」
「冒険者になるつもりは無いさ。私はハ――あぁ、えーと、アルバインという。よろしく頼む」
「俺はアリム。チーム『ヴァルチャーズネスト』のリーダーをやっている。あっちのは『フォレストベア』の頭のジャックだ」
ニッカリ笑って右手を差し出すアリムさん。社交的ですね。
師匠も余計な問題を起こさないためでしょうか。ハスタールの名ではなく、アルバインという姓を名乗りました。
ハスタールという名と違い、こちらはあまり珍しい姓でもないので、気付かれなかったようですね。
「俺はアレク。よろしくな!」
アレクはアホの子なので本名名乗りやがったです。
「ま、マールです。よろしくおねがいします」
「……ユーリ」
マールちゃんは怖々と、わたしは無愛想に名乗りました。
わたしの方が大人気ない? そこは人見知りなんだから勘弁していただきたい!
開門と同時に流れ出る人波と一緒に、わたし達も街を出ました。
同行者は十七人。内訳は商人のエルリクさんと、その奥さんのレシェさん。それに使用人のペレさん。
フォレストベアからはリーダーで大剣で戦うジャックさんに、盾を持ちでジャックさんをサポートするケールさん。斥候役のバーヴさん。治癒術師のベラさん。魔術師のオリアスさん。
ヴァルチャーズネストからは、リーダーの斧使いであるアリムさん。全身を金属鎧で固めた戦槌使いのイワンさん。斥候の二刀流剣士のプロケルさん。治癒術師のマックさん。魔術師のバラムさん。
この十三人に師匠、アレク、わたし、マールちゃんの四人を加えた十七人で旅することになります。
馬車は二台なので、先頭の馬車には経験の豊富なヴァルチャーズネストの面々と、目端の利くアレク。馬車の御者にはエルリクさん。
それと、エルリクさん一人だと寂しいだろうし、話し相手にマールちゃん。
後ろの馬車には経験の浅いフォレストベアと、師匠。御者は使用人のペレさんと奥さんのレシェさん。後わたしが乗っています。
わたしは話し相手になれませんが。
街の外は広大な田園風景が広がっており、初めて見るその雄大な景色に、わたしは感嘆の声を上げます。
地平線まで続く麦畑と言うのは、日本ではまず見れない光景ですからね。
何度か乗り出しすぎて落ち掛けましたが、そのたび師匠に支えてもらって、難を逃れています。
田舎者丸出しなわたしの姿を見て、レシェさんは微笑ましそうに見つめ、ジャックさんは面白くなさそうに舌打ちしていました。
街道は舗装されているので、馬車も快調に飛ばせるのですが、それだと徒歩の護衛が追いついてこれません。
なので、馬車は護衛に合わせてゆっくりと進みます。
一日で進める距離はおよそ四十キロが精々というところでしょうか。
「すみませんね、ウチのが落ち着きなくて」
「いえいえ、見てて楽しいので気になりませんわ」
馬車の横から師匠がレシェさんと世間話してます。
「む、落ち着きないとか失礼ですね。哨戒任務ですよ、哨戒!」
「その哨戒任務とやらで、すでに三度落ちかけたんだが?」
「い、勢い余ったに過ぎないのです! 同じ過ちは犯さないので問題ないです」
「お前ら、黙って歩けないのか」
「ふふーん、ししょ……アルバインの仕事は荷運びなので、仕事には支障は出てないのです」
「テメ――」
「子供相手にムキになるのはやめなさい、ジャック」
楽しく会話してる所に水を差すとか、不粋な男です。
こういう男をからかう時『だけ』は、不器用な口も滑らかに動いてくれます。
ベラさんが仲裁してくれましたが、この男は好きになれそうもありません。
そういえば、ベラさんは治癒術師でしたか?
――治癒術。
それがあれば、アレクの左腕を治せたかもしれませんでした。
師匠もわたしもその知識が無かったので、あの時はどうしようも有りませんでしたが。
「……その、ベラさん、治癒術使えるんです、よね?」
「ええ、まだまだほんの駆け出し程度だけどね」
「良ければ、わたしにも教えてもらえませんか?」
「いいけど、あなた、魔術は使えるの?」
少し師匠のほうに目をやりましたが、軽く肩を竦めて返してきます。
わたしが治癒術を覚えたがっていたのを知っているのでしょう。
「はい、ほんの少しですが」
「急に、なぜ?」
「それ、は……」
チラリ、と前方の馬車隊に目をやります。
ベラさんもその視線で察してくれたのでしょう。アレクの左腕が無いことに。
「なるほど、彼ね。あなたのお兄さん?」
「違います。けど、丁度、その場面に出くわしまして」
「素質がモノをいう技術だから、使えるとは限らないわよ?」
「かまいません、お願いします」
「なら、夕食の後にでも時間を取ってあげるわ」
つっかえながらのぎこちない会話でも、真摯な思いが伝わったのか、快諾してもらえました。
「なら、私も教えてもらえないかな?」
「あら、あなたも魔術使えるの?」
「多少は。だが、なかなか良い師に巡り会えなくてな。治癒術は学んだ経験がないんだ」
「魔術、使えるんだ? 意外と大先輩だったりするのかしら」
「冒険者は経験無いが、傭兵なら幾度か、な」
「なら、現役時代のお話とか聞かせてもらえるかしら。報酬代わりに」
「それで良いのなら、喜んで」
師匠と並んで歩くベラさん。むぅ、これはなにやらイケナイ気配?
ヒョイと手を伸ばし、師匠の耳を引っ張って顔を寄せます。
「いたたたた!?」
「師匠、ダメです。過去の自慢話とかしたら、せっかくの偽名の意味が無くなるでしょう?」
「わ、わかった、わかったから耳を離せ!」
「あらあら、妬かれちゃったかしら?」
クスクスと笑うベラさん。この人、意外と要注意人物でした!
スキルアップの為だから、頭は下げますが、この人を師匠に近づけたら危険な気がします。
これが女の勘と言うやつでしょうか? わたし、中身はまだ男のつもりですけど。
その日は、道中は街を出たばかりと言うこともあり、人通りも多く、何のトラブルも無く想定よりも長い距離を行く事ができました。
日が傾きだしたところで、早々に夜営の準備を始めます。
テントの設営や、薪集め、水場の確保、火種作りなど、やることはたくさんあるのです。
力が強いけど片腕のアレクはテントの設営を手伝い、師匠は近隣の見回りと水場の確認。
わたしとマールちゃんは。アリムさんと一緒に薪集めです。
「マールちゃん、そちらの様子はどうでした?」
「楽しいですね! あんなに広い麦畑は初めて見ました!」
どうやらマールちゃんも、いささかエキサイトしてる模様です。
腰に大斧を吊るしたアリムさんもニコニコと付いてきます。むしろこの人の方が
「それは良かったです。アリムさん、アレクの様子はどうでしょう?」
「アイツはいいな。体が強いし、右腕だけと思えないくらい器用だ。今すぐウチに欲しいくらいだよ」
「評価高いですねぇ。まあ、彼は売約済みなので、冒険者は勘弁してください」
「ハ? ああ、このお嬢さんの事か」
どうやら、半日でマールちゃんの思いは筒抜けのようですね。
手際よく薪を集め、ロープで纏め……結束が緩くてブチ撒けたり、それをマールちゃんにフォローして貰いながらも、仕事を終えました。
こうして旅の初日は暮れていきました。
「ユーリさん、身体……鍛えよ?」
「……うん」
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