夏の日、列車にて

ナトリウム

夏の日、列車にて

夏の日の午後、僕は列車に乗っていた。

蒸した車内で誰もいないボックス席に腰を下ろす。外より暑いのは勘弁してほしいが、鉄の箱だから仕方ないのだろう。まもなく、車掌の吹く笛の音とともに列車はゆっくりと走り出す。窓を全開にして風を浴びるけど、暑いものは暑い。

この村に鉄道がやってきたのは二年前。そのおかげで村はどんどん発展している。といっても僕は次男坊だから、その恩恵を直接受けられているわけでもないけど。でも、昭和という新しい時代に入って、みんなどこか希望を持っているように見えた。

列車は走っていく。車窓には田畑が広がる見慣れた故郷の眺め。細い川を鉄橋で超すと、列車は次第に速度を緩め始めた。もうすぐ次の駅に着こうとしていた。

やがて列車はプラットホームに滑り込み、静かな衝動を残して停まった。窓から差し込む日射しが僕の首筋を焼いている。車内には開いた窓から、涼しくもない風がそよいでいる。

駅裏の雑木林の蝉の声が響いている。


夏の日の午後、わたしは列車に乗っていた。

蒸した車内で手近なロングシートに腰を下ろす。街の方の路線では冷房付きの車両もあるというけれど、ここは田舎だから仕方ないのだろう。まもなく、発車ベルの音とともに列車はゆっくりと走り出す。扇風機のスイッチを入れて風を浴びるけど、暑いものは暑い。

この町に準急が停まるようになったのは二年前。そのおかげで駅前にダイエーも出来た。といっても私の家は駅から15分の所だから、その恩恵を直接受けられているわけでもないけど。でも、平成という新しい時代に入って、みんなどこか希望を持っているように見えた。

列車は走っていく。車窓には団地が建ち並ぶ見慣れた故郷の眺め。細い用水路を鉄橋で超すと、列車は次第に速度を緩め始めた。もうすぐ次の駅に着こうとしていた。

やがて列車はプラットホームに滑り込み、静かな衝動を残して停まった。窓から差し込む日射しがわたしの首筋を焼いている。車内には開いたドアから、涼しくもない風がそよいでいる。

駅裏の雑木林の蝉の声が響いている。


夏の日の午後、俺は列車に乗っていた。

空調の効いた車内で手近なロングシートに腰を下ろす。こうも外が暑いと、涼しすぎるくらいの電車のクーラーがありがたい。まもなく、発車メロディの音とともに列車はゆっくりと走り出す。襟元を扇ぎながら涼風に汗を乾かす。

この街の駅舎が建て替えられたのは二年前。そのおかげで駅ナカにおしゃれなカフェもできた。といっても俺は貧乏学生だから、その恩恵を直接受けられているわけでもないけど。でも、令和という新しい時代に入って、みんなどこか希望を持っているように見えた。

列車は走っていく。車窓にはマンションが建ち並ぶ故郷の眺め。鉄橋を渡る音がしたけれど、用水路にはコンクリートの蓋がされていて見えなかった。列車は次第に速度を緩め始めた。もうすぐ次の駅に着こうとしていた。

やがて列車はプラットホームに滑り込み、静かな衝動を残して停まった。窓から差し込む日射しが俺の首筋を焼いている。車内には開いたドアから熱い風が流れ込んでくる。

駅裏の雑木林の蝉の声が響いている。


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夏の日の午後、僕は列車に乗っていた。

蒸した車内は満員で、小学校の時同級生だった同じ村の三人と一緒にボックス席に腰を下ろす。頬を無数の汗が流れ落ちるけど、不思議と涙は流れなかった。流してはいけないとも思っていた。まもなく、村人たち総出のホームからの万歳三唱に見送られながら、列車はゆっくりと走り出す。窓を全開にして風を浴びても、身体は火照ったままだった。

戦争が始まったのは二年前。そのおかげで若者たちは軍隊に行くことになり、やがて村の活気も失われてしまっていた。僕は次男坊だから、兄貴よりも先に兵隊に行かなきゃならなかった。みんな口では日本は勝つって言っているけど、もう希望をなくし始めているように見えた。

列車は走っていく。車窓には田畑が広がる見慣れた故郷の眺め。もうこの景色を見ることもないのかもしれないと思うと、目頭が熱くなった。細い川を鉄橋で超すと、列車は次第に速度を緩め始めた。もうすぐ次の駅に着こうとしていた。

やがて列車はプラットホームに滑り込み、静かな衝動を残して停まった。この駅でも出陣のパレードをやっていた。こうしてこの列車は駅ごとに、兵隊へ行く人たちを乗せて運んでいくのだ。

勇ましいパレードの背で、駅裏の雑木林の蝉の声が響いていた。

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