21-八月十六日(火)

 始業式。

 佐藤うずらは基本的に、タイム・タイムを専用のポシェットに入れて、肌身離さず持っている。

 けれど、移動教室や体育、行事の最中は別である。

 既に佐藤うずらの教室と座席は調査済みだ。そして、今までに数回この手段を用い、平和的にタイム・タイムを入手している。

 九丹島ミナトは佐藤うずらの鞄を探る。

 けれど、ポシェットは見つからない。

「──何してるッ!」

 教室の扉が開き、男性教師が姿を現す。

 佐藤うずらの意図を理解する。

 搦め手だ。

 佐藤うずらは恐らく、始業式の時点で初めてポシェットを注意されたのだろう。そのため、以降の時間軸ではポシェットをカバンに仕舞っていた。

「お前、高校生か。学年とクラスを──」


 男性教師を無力化する。


「ここで不審者を見た、と先生に告げた女生徒は、どこへ行きました?」

「ひ、ひィ! ほ、保健室のほうへ──」

 保健室へ向かう。


 追いかけっこは二時間に及び、九丹島ミナトが無力化した教師及び生徒は九十七名を数えた。


「──ハハ、なかなか上手い手だったよ。弱者であることを利用して、一般生徒まで動員した大捕物の舞台を作り上げた。こちらを加害者に仕立て上げれば、みんな勝手に守ってくれる。なにしろ僕は敵が多いからね。単にロリコンばかりなだけかもしれないけど」

「くふ、武器がありませんから、ちょっと頭を使ってみたんです。それより──」

 佐藤うずらが周囲に視線を向ける。

「ご友人たちを一蹴した感想はどうですか?」

「大吉はダブルバインドでろくに動けない。八尺は遠慮する。露草は一番ましだけど、手加減することに変わりはない。お嬢とあんこは言うまでもないね。ハンデ戦だもの、一対五でも負ける道理がないよ」

「そうですね。この作戦は、もう、通用しなそうです」

 佐藤うずらはポシェットからタイム・タイムを取り出し、こちらに差し出した。

「はい、今回は素直に負けを認めます」

 タイム・タイムを奪い取り、同時に佐藤うずらの鳩尾へと蹴りを入れた。

 佐藤うずらが吹き飛ぶ。

 右手に仕込んでいたらしい折れたカッターの刃が、グラウンドに落ちた。

 タイム・タイムの目盛りを二十四時間に合わせ、引っ繰り返す。




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